12-11 街の踊り子
白い国 12-11 街の踊り子
「うへぇ!なんですかこの泥まみれは!泥んこ遊びでもしたんですか!テレスさんは!」
目を丸くして呆れたように声を上げたレイは、泥まみれになったテレスを一周ぐるりと見回る。
泥被りのテレスの姿をレイはふむふむと顎に手をやって考えを巡らせたかと思いきや、ニヤリと笑みを浮かべ、どうやらよからぬ事を企む顔をしている。
「ほほう。テレスさん。これはシャワーを浴びる必要性がありそうですねー。」
「いやぁ。まあ、そうだね。早く浴びないと私も風邪ひいちゃうね。」
「ほう?私も?という事は例の画家さんも来た訳ですね。」
小さな顔を近くまで寄せては、その眼力で、圧倒してくるレイ。そして彼女の鋭い観察眼と思考力は大したものだ。感服する。それに加え、事前にこの宿に客人を迎え入れる事をローレンスが伝えていたらしく、そこらから推測したのやもしれない。どちらにせよ、勘は鋭い。
「ええ。まぁ‥何か企んでます?その顔は?」
「嫌だなぁ!テレスさんたら!疑り深いですよ!ちょっとお背中流す機会がありそうだなぁ。なんて思いましてね。ふふふ。」
可愛らしい笑顔ではあるのだけれど、小悪魔的な感じも否めない。どうやら一緒に‥というやつか。その妄想をした段階で、いや!いけない!いけない!と頭をブルブルと振るわせて、卑猥な妄想を消し去る。
「レイさん、丁重にお断りします。」
きっかり90度に腰を曲げて丁寧にお辞儀して断りを入れると、本当に残念そうな顔を浮かべては、溜息をつく。
「えー。残念です。」
「それはともかく、早いお帰りですね。今日は診察もう終わったんですか?」
「ええ。今日は雨が酷かったから患者さんも少なくて、早くに締めちゃったんです。そしたら、お客さんがもう来ていたなんて!嬉しい誤算です!お客さんは女性ですよね!」
「ええ。そうですけど‥まさか背中流すんですか?」
テレスの質問に間を置かずに「もちろん!」と答えては、意気揚々と腕をまくりし、矢継ぎ早に部屋はどこか?と聞いてくる。
「部屋は私の左隣ですが、老婆心ながら申し上げるんですが、彼女には‥」
と言う途中で、彼女はズンズンと二階へと突き進んで行ってしまった。
内心、何が起きるのか気にならない訳でもないが、もう行ってしまったものはしょうがないだろう。止める勇気の気力も、体力も残されていないテレスは、レイの背中に手を振り見送る。
そうやって割り切ったテレスは、自らも自室へと向かう。いつも通りひと踏み、ひと踏みずつ、ギィギィ鳴る床面は自身の湿った足元の影響で、少し重い音へと変化しては、湿り気を含んでいたが、それ以外はなんら変わらず古っちい宿だ。階段横にあった額縁には、珍妙な抽象画が飾られていたけれど、それを今日まで気づかずに、いつも素通りしていたくらいに、平凡な雰囲気と平凡な以下の機能性の宿だ。そんな物があっても無くて誰も気に留めはしない。
自室に入り、泥んこになった服を洗面所にひょいと投げ置くと、タイル張りのシャワー室に入り、蛇口を捻る。
すると案の定というか、例によってというか、隣の部屋から悲鳴が聞こえる。
しかし、一度経験しているからこそ、触らぬ神に祟りなし。
触らぬ女体に罪は無し。見ていなければセーフ。
という事で、関知しない事が一番の良策であると言い聞かせていたテレスは、対岸の家事であると決め込む。
しかし神はそう易々とは逃れさせてはくれない。
悲鳴と共に駆け込んで来たのはアンナだ。
次回お楽しみに!
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