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2-10 偽りの国へ



白い国 2-10 偽りの国へ 


 陛下の勅命が下ったのならすぐに従うべきだ!


 との考えから、ローレンスはすぐに大学へと蜻蛉返りすると、研究室の休憩室という名の住処から荷物を纏める作業に入っていた。


 薄茶色の旅行鞄に着替えやら、任務に使う道具やら、暇な時に使うチェス盤、川べりで優雅な時を過ごす為のスケッチブック。くだらない時間を過ごす時には世界の為政者達の歴史的ゴシップを纏めた、下世話本、「世界ゴシップ名鑑」がいいだろう。


 とにかく長い任務になる事を予想したローレンスはあれこれ、とにかく必要か不必要かの吟味はほどほどに鞄へと突っ込んでいく。



 その頃テレスはと言うと、諸問題の解決を終えた後、ようやく戻った大学でドルフ教授から直々のお言葉(注意喚起)を頂いていた。


「テレス君、君ならわかっているとは思うが、この任務は失敗が許されない。しかも先の戦争では敵対国だった国への潜入調査になる。情報の秘匿の観点から親族への挨拶もままならない中での出立となるだろう。親御さんにはこちらから国の任務だと言って上手くやっておく。心配は無用だ。」


 俯き加減に両手を前に組んで話すドルフ教授は事態の深刻さを内心嘆いていた。


 アルバース国は世界の三分の一を占める大国だ。


 近年こそ植民地の独立や解放が続き、民主主義の台頭に押されて、立憲主義国へと変化を遂げるなど変化の激しい国ではあるものの、その国の影響力は計り知れない。


 国内においても、様々な勢力が渦巻き、一筋縄ではいかない。


 そんな国において極秘調査を行う事がどれほど危険であるかをドルフ教授は一番理解していたのだ。(ローレンスはその危険性すらも楽しみにしているが。)


 アルバース国は諜報機関も優れており、内外に諜報網が張り巡らされ、特に国の大使とあれば四六時中付け回される。そんな中で素人の青年が同行する。というのは正気の沙汰ではない。


 無論それを分かっているなら、全力でローレンスの蛮行を阻止するべき所だった。


 それでも強行策に出なかった、いや出れなかったのだ。


 この任務はローレンス程の潜入、変装、対人格闘、知性。どれをとっても超一級品の機関員(スパイ)なのだ。


 決してローレンス自身はそれを認めたがらないが。


 ロックウェル国王も彼の実力、人柄も大層お気に召してらっしゃる。所謂お気に入りなのだ。


 少々の我儘(わがまま)も国王を使って難なく通してしまう。今回もそうなる事は目に見えていたのだ。故にドルフ教授は陛下の機嫌を損ねる結果にはならずに、上手く誘導できまいかと画策していたのだが、結果はこの通りだ。


 彼の隠し通路の一つは紛れもなくこの国王であり、他にもまだ隠し通路を持っているきらいがある。故にこのマックス・ドルフ言えども、迂闊に飛び込むには危険過ぎる弟子なのだ。


 せめてもの、この青年を使ってしっかりと手綱を握っておきたいところなのだが。


「そうですよね。なかなか難しい任務らしいですけど、鋭意努力致します。両親にも連絡お願いします。」


「うむ。そこでなんだが、君はローレンス君の助手として万国博覧会の展示を手伝うのが表向きの仕事なのだが、本来の目的であるアルカヌムカンパニュラ(神秘の鐘)を我が祖国レンブランドに持って帰ってくること。この任務を達成出来れば、君の望む役職での我が大学での採用、もしくは国の機関での採用を約束しよう。どうかね?」


「それは本当にありがたいお話です。しかし正直なところ、そのアルカヌムカンパニュラとは実在するのでしょうか?帰り際に陛下から渡された資料を拝読させて頂きましたが、歴史を変える神秘の鐘。その情報はアルバース国内でも王の一族しか知り得ぬ情報で、歴代国王のみがその力を行使してきたという。こんなくらいしか情報がない状態で潜入したところで何も結果を挙げられないのでは?」


「その心配はもっともだろう。しかし、存在自体は確かなのだ。情報源は明かせないが、その情報の精度は疑いようのない所だし、有るか無いかも分からない物を探すのは困難だが、有ると分かっている物なら、必ず痕跡は辿れるはずだ。」


 ドルフ教授は印象的な人間の片目をあしらった金の懐中時計を見ては、テレスの表情を伺う。


「それはそうかも知れませんが‥」


「まあ、そこら辺はローレンス君の腕を信じたまえ。彼の情報網は並の国家なら何もかも丸裸にされてしまうくらいだ。故に彼は信頼されているのだからね。」


「わかりました。また何かあれば、ドルフ教授にもご報告させて頂きます。」


「君は物分かりが良くて助かる。そうやって君からその言葉が直接聞けて嬉しいよ。ではよろしく頼むよ。ああそれと‥」



 ドルフ教授はテレスに対してローレンスの大体の取扱説明を終えると、立ち上がり、握手を交わしたドルフ教授はテレスの両肩を軽く叩いて研究室から見送る。


 研究室から出たテレスはまずは、ローレンスの研究室兼休憩室(住処)へと足を向ける。


 日差しも落ち、暗がりとなった研究室の窓を閉めて、灯りのスイッチを探す。

壁つたいに手で探り当てると、部屋の惨憺たる姿を再度視認するという結果になった。


 それでも奥にいるであろうローレンスの休憩室からはやっぱり灯りが見えない。


 不思議に思ったテレスは休憩室のドアノブを回す。


 開いた先には雑多に纏められた旅行鞄が三つ。

手持ちの大きめの手箱が二つも置いてある。


 これはどういう事かと訝しげに観察していると、背後から部屋の主が現れる。




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