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【連載版】死に戻り悪役令嬢は、今度こそ「好き」と言いたい  作者: 春日千夜
第一章 もう一度あなたに会いたい
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9:追放の代替案

「お父様……本気で仰っているのですか?」

「こんなことで嘘を言ってどうする」


 唖然としたアルテナに、父親は真顔で答えた。これが本音だとすると、アルテナがこれまで思っていたような、娘を切り捨てる冷たい父ではなかったのかもしれない。


 前回アルテナが追放された原因となった冤罪は、男爵令嬢に嵌められて被せられたものだった。王太子と男爵令嬢が育む「真実の愛」を阻む悪の令嬢などという不名誉な噂まで流され、公爵家の立場は一気に悪くなった。

 だが所詮は男爵家の悪巧みだ。冤罪である事など公爵も分かっていただろう。きっと今回と同じく、本心ではアルテナを追放する気などなかったのだ。


 だが王太子はそれを理由にアルテナとの婚約を破棄している。王家の失態を隠すために、冤罪を表沙汰に出来なかったのではないだろうか。

 もしかすると、追放したアルテナを修道院へ送ったのも何かしらの意図があったのかもしれない。あの頃はあまりの悲しみに考えつきもしなかったが、父親は王家の体面を守りつつ、男爵令嬢を追い落とすまでアルテナを避難させようとしたとも考えられる。


 もっとも、これはあくまで想像であり真実は分からない。前回アルテナは、マイルズと結婚した後も父親や公爵家がどうしているのかを知ろうともしなかったからだ。

 けれどもし違っていたとしても、アルテナとて父にただ見捨てられたのではないと思った方が心は救われる。あの時の父親も、少なくとも本気で娘を厭い追放したわけではなかったのだろうと、アルテナは考えを改めた。


 しかし今さら親子の情があったと分かっても、アルテナの決意は変わらない。アルテナは愛するマイルズともう一度巡り会い、結ばれたいのだ。

 追放が無理なら他の方法を示す必要があるが、アルテナの求めるマイルズは平民だ。正攻法でいっても無理なのは分かっている。

 それを踏まえた上で、冷たい父親ではなく娘思いの父親が相手ならどうすべきか。アルテナは瞬時に考えをまとめ直し、しおらしく話した。


「ではお父様、わたくしをオルレア王国へ留学させて下さいませんか。あの国であれば、叔母様もいらっしゃいます。どちらにせよこうなっては、わたくしの評判は地に落ちたも同然。この国に残っても、家のためにはなりません」


 グラナダ王国と同じように、オルレア王国にも貴族学校がある。しかしオルレア王国の学校は、こちらと違い寄宿制だ。在学期間も異なっており、オルレア王国では十歳から十八歳までの子息令嬢が集まり学ぶ事になっている。

 わざわざ隣国の学校へ入学するなど普通なら許されないだろうが、今回の件は父親が恥をかくほど城中に知られている。噂はあっという間に社交会に広がり、地方の小貴族ですら知る事になるだろう。


 そうなれば、いくらゲルハルト側に理由があり、国王が許したとしても、アルテナを良く思わない者も出てくるはずだ。なにせ王太子に暴言を吐いた事に変わりはない。貞淑さを求められる貴族社会でアルテナは完全に浮いた存在となり、嘲笑の的にされるだろう。

 そしてアルテナをそんな娘に育てたサーエスト公爵はもちろん、まだ幼い弟も不躾な視線に晒されるに違いない。跡取りである弟には出来る限り良い縁談が必要になるが、小姑となるアルテナの評判が悪ければ嫁探しにも難航してしまう。


 これらを躱すには、アルテナを表に出さなければいいのだ。留学であれば国王にも説明が付くし、表向きの理由には打って付けだ。もっともらしく叔母の存在も言い添えれば、父親も納得するだろう。

 そう思って話すと、父親は深いため息を漏らした。


「それを分かっていた上であのような物言いをするほど、殿下が嫌だったのか」


 これほど困った様子の父を見るのは初めてだ。だがアルテナの考えは間違っていなかったようで、父親は少し考えると重々しく頷いた。


「……分かった。留学を許可しよう。だが卒業後は私の選んだ相手に嫁いでもらう。その頃には、ほとぼりも冷めるだろうからな」

「構いませんわ。ご随意に」


 父親のこの返答も、アルテナの予想の範囲内だった。アルテナはそれを真っ直ぐに受け止める。


 人は時間が経てば忘れていく生き物だ。最低限の評判さえ回復すれば、アルテナはまだまだ政略結婚の駒に使える。いくら親子の情があっても父とて公爵なのだから、家の発展のために娘を使うのは当然だとアルテナは理解していた。

 それに元より平民のマイルズは公爵である父の理解を得られる相手ではない。だとすれば、父親を裏切る事になろうとも強引な手段で結ばれるしかないだろう。その覚悟をすでに決めているアルテナは、留学さえ許可してもらえればそれで良かった。


 アルテナは罪悪感を感じつつも表面上はにこやかに、父親と約束を結ぶフリをした。

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