13:探し続けて
叔父は投獄されたが、その後の調べで店の金にまで手を付けていた事が分かった。マイルズの思った通り、父親に窘められても反省する事なく様々な女性に手を出し、貢いだりもしていたらしい。
殺人未遂、器物損壊、窃盗にまで問われた叔父は、泣いて赦しを請うたらしいが、命まで狙われた父親はさすがに縁を切ったため減刑される事もなかった。叔父は二度と日の目を見られないだろう。
父はその後マイルズだけでなく家族にも謝り、気持ちを切り替えて仕事に精を出し始めた。しかしマイルズは、叔父の件が片付いた事に安堵しつつも落ち込んでいた。
(結局僕は何も出来なかった)
事件から一週間が経っても、マイルズの気持ちは晴れなかった。店の裏手で荷下ろしを終えると、青空を見上げてため息を漏らす。
見ず知らずの誰かに雇われた男たちが叔父を見張っていてくれたから、凶行は止められたのだ。きっと叔父に恨みを抱いていたのだろうその何者かに感謝しているが、自分の不甲斐なさにマイルズは消沈していた。
(僕の力だけじゃ足りない。これでアリーのことまで手遅れになったら悔やむ所じゃないんだ)
二度目の人生が始まってから、もう二年が経った。その間ずっと一人でアリーを探し続けているが、何一つ収穫がない。
そればかりか、当てにしていた王都の貴族学校は警備が厳しいため近づく事も出来ず、マイルズは手詰まり感を感じていた。
(アリー、どこにいるんだ)
晴れ渡る青空は、アリーの青い瞳によく似ている。愛しい人に想いを馳せ佇んでいると、従業員の青年が声をかけてきた。
「マイルズ君、悩み事ですか?」
「ああ、いえ。ええと……」
情けない姿を見られてしまい、気まずさを感じて誤魔化そうかと思ったが、よく考えてみれば青年は王都での暮らしが長い。それに青年は、店に来る前は荷運びの仕事をしていたようだから、貴族街にも出入りした事があるかもしれない。
マイルズは一縷の望みをかけて口を開いた。
「悩み事というか会いたい人がいて。ただ、その人の名前や家が分からないんです」
「へえ、それはまた。どんな相手なんです?」
「金髪で青い目の女の子で、僕より三歳ほど年下なんですが」
「金髪の女の子ですか。どこかのご令嬢ですかね? 一目惚れですか?」
茶化すように言いつつも、青年の目は心配するようにマイルズを見ていた。身分違いの恋と思われれば心配されるのも当然かと思い、マイルズは頭を振った。
「いえ。以前町で助けてもらったので、お礼を言いたくて」
「ああ、そういう……」
咄嗟についた嘘だったが、青年は納得した様子で微笑んだ。
「でしたら、私の知り合いに人探しが得意な男がいるので、頼んでみますか?」
「そんな人もいるんですか?」
「ええ。探偵なんですけどね。腕はいいですよ」
「ぜひ、お願いしたいです!」
前の人生でマイルズは、弟妹の面倒を見たり娼館で働いたりと忙しく、田舎町のオラニエには探偵などいなかったため、そんな職業がある事も知らなかった。
店の手伝いをしている分、父親はマイルズにも給金を渡してくれているから、それを使えば依頼出来るだろう。青年の話に喜んで頷き、マイルズは早速その探偵の元へ足を運んだ。
貴族も依頼をしにくるのだろうか。探偵事務所は庶民街ではなく、大店のある通りの裏手にあった。紹介された探偵は、マイルズの話を興味深げに聞いてくれた。
「金髪の女の子ねえ。その子とはどこで?」
「王都に来てからです。ただ、お礼を言う前に去ってしまったので、どこの誰か分からなくて」
「王都か……ならお嬢様とは違うよな。これは参った」
「これしか手がかりがないと、難しいでしょうか?」
探偵が困惑した様子で顔をしかめたので、マイルズは問いかけた。すると探偵は苦笑しつつも頭を振った。
「平民には滅多にいないが、金髪に青い目は貴族ならかなりいるからな。だが年齢でだいぶ絞れるし、あんたが顔を知ってるなら数をこなせば見つけられるだろう。時間はかかると思うし手も借りなきゃならないが、それでもいいか?」
「それはもちろん。王都にいるかどうかだけでも分かれば充分なので。ただ、僕が依頼したという事は誰にも言わないでほしいんです。痛くもない腹を探られるのは嫌ですから」
「警備隊の捜査にでも引っかからない限りは、誰にも言わないから安心していい。顧客の秘密は守るさ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします!」
快く引き受けてもらえた事に、マイルズは安堵した。探偵に任せてダメなら、アリーは他国で暮らしている可能性が高い。港には伝手を作ってあるから、あとは隣国グラナダ王国も調べたい所だ。
隣国と繋ぎを作るのは十五歳になったばかりのマイルズには難しいが、アリーのためにも諦めるわけにはいかない。マイルズはグラナダに本店のある店を探すと、商人としてそこを訪れ、商品取引をしながら少しずつ親交も深めていった。
それと並行して、前回アリーと出会った娼館の様子も探る事にした。叔父の時のように、万が一前と違ってアリーが早めに連れて来られてしまった場合にも気付けるようにするためだ。
荒事に長けた探偵も探し出し、娼館に商品を運び込む男たちの様子も調べてもらうよう依頼する。両親の死も回避出来た今、マイルズの頭にあるのはアリーの事だけだ。そこまでやって初めて、マイルズは僅かに気持ちを落ち着ける事が出来た。
そうして動くうちにマイルズの人脈は増えていき、取引先や扱う商品数も増えて店は繁盛していった。けれど探偵に教えられた金髪の少女たちは、どれもアリーとは似ても似つかない。
結局何の手がかりも得られないまま、あっという間に三年が経ってしまい。マイルズは焦りを感じたが、十八歳を迎えたある日、ようやく希望と出会うのだった。




