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7:誓い

 マイルズの熱は下がっていたが、念のため目を覚ましたその日は宿で体を休めた。アリーが髪を売ってまで手に入れた薬ももちろん飲む。そのおかげで翌朝には体調も戻り、無事に起き上がる事が出来た。

 すると元気になったマイルズに、アリーは重い小袋を押しつけてきた。


「アリー、どうしたの? ……これは受け取れないよ」


 小袋の中身はかなりの金額のお金だった。金髪は人気がある割にオルレア王国では珍しいためアリーの髪にも高値がついたようだ。医者を呼んでもお釣りが出たらしい。

 残金を渡そうとしてくるアリーを必死に留めたが、アリーは頑として譲らない。それならばと、マイルズはアリーの手を握りしめた。


「分かった。それならこれは大事に使わせてもらうね。そしていつか何倍にもして返すよ。だからこれから先もずっとそばにいてほしい。きっと幸せにすると誓うから、結婚しよう。愛してる、アリー」


 細い腰を抱き寄せて唇を重ねれば、アリーは顔を真っ赤にしながらも頷いてくれた。叫び出したいほどの大きな喜びを感じながら、マイルズは支度を整え部屋を出た。


「おや、熱は下がったんだね。良かったよ」

「ありがとうございます。もしかしてあなたが医者を?」

「ああ、そうさ。奥さんは取り乱してたからね。こんな可愛いお嫁さんに心配かけちゃいけないよ」

「そうですね。気をつけます」


 どうやらアリーは、倒れたマイルズを助けようと宿の女将を頼ったらしい。医者を呼んだり髪を売って金に変える事を教えたのも女将だったようだ。

 気の良い女将に礼を述べて、マイルズはアリーと共に父の友人宅へ向かう。今もこの町にいるなら果樹園を経営しているはずで、弟妹もそこにいる可能性が高い。

 町の人々に道を聞きつつ訪ねてみると、幸運な事にマイルズの思った通りとなっていた。


「兄ちゃん、良かった! 心配したよ!」


 予定より合流が遅れたから、よほど心配をかけてしまったのだろう。弟妹は果樹園の入り口で雑草抜きをしながら待っていてくれた。

 二人が無事に到着していた事に安堵し、マイルズはアリーを弟妹に紹介する。声はなくとも柔らかな微笑みを浮かべたアリーに、二人はあっという間に懐いてしまった。


「おじさんたちも心配してくれてるよ。中に行こう」


 弟に促され、マイルズは果樹園の入り口そばに佇む木造の家へ足を踏み入れた。


「初めまして、マイルズといいます。弟たちを受け入れてくださって、ありがとうございました」

「ジョシュアだ。君がマイルズ君か。よく来てくれたな。もう会えないかと……」


 亡くなった父とは幼馴染だったというジョシュアは、真っ白な髪色の中年男性だった。マイルズは父によく似ていたようで、ジョシュアは顔を見るなり切なげに顔を歪めた。


「今まで助けてやれなくてすまなかった。あいつが死んだというのも、この子達が来てようやく知れたんだ」


 定期的に手紙のやり取りをしていた父からの連絡が途絶え、ジョシュアは心配して一度王都の店を訪ねたらしい。

 けれどそこには叔父しかおらず、何も教えられずにただ追い返されたのだと話した。


「あいつには世話になったんだ。これまで何も出来なかった分、いくらでも頼ってくれ」

「ありがとうございます。でももう僕は大人ですから。ここで商売を始めたいと思うんです」

「そうか。あいつの息子らしいな。なら、商売が軌道に乗るまではうちにいるといい」

「ありがとうございます。助かります」


 ジョシュアもその家族も、快くマイルズたちを受け入れてくれた。幼馴染の忘れ形見であるマイルズたちに親身になってくれ、アリーの事情も簡単にだが伝えると、険しい顔で頷いた。


「アリーさんはあまり表に出ない方が良さそうだな。マイルズ君も、髪はこれからも染めた方がいい」


 アリーの美貌は人目を引くし、マイルズの銀髪は目立ちすぎる。いくら辺境の田舎町でも、オラニエには旅行客も出入りする。噂になれば王都まで伝わらないとは言い切れない。

 叔父や娼館主に知られないためにも、マイルズは忠告を受け入れ出来る限り身を隠して過ごす事を決めた。


 そうしてその日のうちに、町の小さな教会でマイルズはアリーと婚姻の誓いを交わした。宿を引き払い、荷物をジョシュアの家へ運ぶ途中に教会へ立ち寄ったものだから、立会人は弟妹だけで服は旅装のままという式とも言えないものだったが、二人にはそれで充分だった。


「アリー。死ぬ時まで……いや、永遠に愛すると誓うよ。必ず幸せにするから、待ってて」


 誓いの言葉と共に口付ければ、アリーは幸せそうに笑ってくれた。この笑顔を絶やさぬようにしようとマイルズは改めて心に誓い、新天地での生活を始めるのだった。

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