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【連載版】死に戻り悪役令嬢は、今度こそ「好き」と言いたい  作者: 春日千夜
第三章 今度こそ「好き」と言いたい
27/66

27:親友と想い人

 リメルの考えた案がどれほど素晴らしいものなのかを、アルテナは翌日から強く感じる事となった。第二王子を見る事が全くなくなったのだ。

 これにはリメルの仲間たち――レヴィ様をお慕いする会―― も協力していた。たまに第二王子がいつもと違う動きをしても、アルテナと鉢合わせしないよう足止めしてくれているらしい。

 さらに彼女たちは、リメル不在の間もアルテナのそばについてくれている。そのおかげで他の男子生徒に煩わされる事もなく、アルテナの学生生活は一気に穏やかなものになった。


 そうしてアルテナは、リメルに相談してから初めての休日を迎えた。

 この日のアルテナの装いは、ふわふわとした絹のワンピースドレスだ。前日からリメルだけでなくリメルの友人たちまで交えて考え抜いた可愛らしいその服は、マイルズの瞳を思わせる紫色に染められている。小ぶりな銀のアクセサリーも身に付けているが、その姿は貴族令嬢にしては珍しい簡素なものだ。


 平民に威圧感を与えないためにはこれぐらいがいいと、皆で話し合って決めたものだったが、アルテナは鏡を見て不安を感じた。


「ねえ、わたくしには可愛らしすぎない? やっぱり、あちらの赤いドレスの方が」

「いいのよ、これで。アルテナは何でも背伸びしすぎよ」

「でも最近のわたくしの顔はほら、キツい感じがするでしょう? 似合わないと思うのだけれど」

「そんなことないわ。この絶妙なバランスがいいんじゃないの」


 十五歳を過ぎたアルテナの目元は切れ長になりつつあり、以前ゲルハルトとの顔合わせの時に施した化粧そのもののようなキツめの顔立ちになってきている。そんな自分の顔に、柔らかな印象を与える服はアルテナにとっては違和感しか感じられない。

 だがそれも、リメルたちには好ましく見えるらしい。リメルに強引に背中を押され、アルテナは渋々ながら馬車に乗り込んだ。


「ああ、緊張するわ」

「大丈夫よ。今日はこのリメル様が付いてるんだから。安心して任せなさいな」

「ふふ、リメルったら。頼もしいわね」

「そうそう。そうやって笑うのが一番よ」


 いつもの護衛も連れて、アルテナとリメルはマイルズの店の前にやって来た。リメルが護衛をチラリと見ると、護衛は心得たように頷きを返して入り口の扉を開ける。

 ここから先はリメルとアルテナの二人だけだ。リメルに手を引かれ、アルテナは緊張しつつも店内へ足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ。ああ、お客様。またいらしてくださったんですね」


 手を繋いで現れた二人に、マイルズがすぐに気付いた。柔和な笑みを向けられて、アルテナは頬を染めつつ頷きを返す。

 そのまま俯いてしまったアルテナを見て、リメルがクスリと笑った。


「ごめんなさいね、この子はとても恥ずかしがり屋なのよ。でもここの商品がとても良いって教えてくれたの」

「そうでしたか。気に入って頂けたのですね。ご紹介頂きありがとうございます」


 本当は、リメルはずっと前にアルテナに教えられた時からこの店の商品の愛用者だ。だからここでお礼を言われる必要などないのだが、ふわりと微笑んだマイルズに思わず見惚れてしまう。

 するとリメルが、愉快げに笑みを溢した。


「ねえ、あなた。彼女はとても可愛いと思わない?」


 突然何を言い出すのかと、アルテナはギョッとしてリメルの腕を引いた。けれどマイルズは、そんなアルテナを優しい目で見つめて来た。


「はい。とても可愛らしくてお綺麗で、素敵なお嬢さんだと思います」

「ふふ、そうでしょう?」


 お世辞だと思っても、好きな男に褒められて嬉しくないわけがない。リメルの腕にしがみついたままアルテナが耳まで真っ赤になって再び俯くと、リメルは宥めるようにアルテナの手を叩いた。


「それでね、この子に可愛らしさの秘訣を聞いたら、前からここの化粧品を使ってるって教えられたのよ。だから私も使わせてもらいたいと思って」

「前から、ですか?」

「ええ。いつもは使用人に買いに来させていたから、この子が来たのはこの前が初めてだったらしいけれど。あなたが助けてくれたのよね? 私の友人を助けてくれてありがとう」

「いえ。当たり前のことをしただけですから。でも、そうですか。お嬢さんは以前からお使い下さっていたんですね」


 柔らかなマイルズの声に、アルテナはとにかく頷きを返した。とても温かな目線が頭上にあるのを感じるが、照れくさくて顔を上げられない。

 するとそんなアルテナに構わず、リメルは商品についてあれこれと質問していった。マイルズと気兼ねなく話せる友人を羨ましいと思いつつも、アルテナはやはりどうしても声を出せなかった。


「お嬢さんはいつもどの商品をお使いなんですか?」


 不意に問いかけてきたマイルズに、アルテナはドキリとしつつも顔を上げた。リメルが選んだ品々だろう、いつの間にかかなりの数の小瓶がマイルズが手にしている籠に入れられている。

 アルテナはその小瓶の一つを、そっと指差した。


「ああ、こちらの香油をお使いでしたか。ではこちらをもう一本お付けしておきますね。ご紹介頂いたお礼です」


 笑顔で追加の一瓶を籠に入れるマイルズにアルテナは慌てたが、アルテナが何も言えないのを良い事にマイルズは機嫌良さげにカウンターへ入っていった。

 手際良く小瓶を包み始めるマイルズを見て、リメルがアルテナに微笑んだ。


「なかなか気が利く人じゃない。私の好みではないけれど見た目も爽やかで素敵だし、アルテナが好きになるのも分かるわ」

「リメル……」

「頑張りましょう。何回か来てればそのうち慣れるわよ」


 リメルは片目をパチリと瞑ると、財布を取り出してカウンターへ向かう。朗らかな笑顔でリメルと向き合うマイルズに見惚れつつ、こんな事で話せるようになる日が来るのだろうかと、結局何も言えなかった自分にアルテナは呆れた。

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