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【連載版】死に戻り悪役令嬢は、今度こそ「好き」と言いたい  作者: 春日千夜
第三章 今度こそ「好き」と言いたい
25/66

25:続・親友との恋話

 本気で困っているのだと伝えるために、アルテナは真っ直ぐリメルを見つめた。リメルは納得したように何度か小さく頷くと、考えるように指を顎に当てた。


「アルテナも恋をしてるのね。もしかしてそのお化粧は、その人に会いに行くためだったの?」

「いいえ、これは……」


 化粧について話せば、マイルズがどういう人物かも全て明らかになる。恋の相手が平民だと知ったらリメルはどう思うのか不安を感じ、アルテナは話すかどうか、ほんの少しだけ迷った。

 けれどどちらにせよ、これから悩みを相談するのだ。いずれ話す事になるだろうし、リメルなら安易に馬鹿にしたり笑ったりしないはずだ。

 アルテナは意を決して言葉を継いだ。


「その方のお母様にして頂いたの」

「お母様⁉︎ もうお宅に伺うほどの仲なのね!」

「そうではないの。お店を開いてらっしゃるのよ」

「……お店?」

「化粧品を取り扱ってるお店よ。だからこれは、ただ客として出向いて化粧直しを手伝って頂いただけなの」


 良家の子息が相手なら、店などという言葉が出るはずもない。案の定、リメルもそれに気付いたようで、気遣うように眉を寄せた。


「じゃあ二つ目の悩みは、そのお相手との身分差なのね」

「ええと……それも違うのよ」

「え? でもその方は平民なんでしょう?」

「そうだけれど、その……方法は考えてあるから」

「ふぅん?」


 言葉を濁したアルテナに、リメルは不思議そうに目を瞬かせつつも曖昧に頷きを返した。

 そのままリメルは何やら考え込んでいたが、考えるのが面倒になったのか、吹っ切るように笑顔を浮かべた。


「よく分からないけれど、まあいいわ。何か方法があるならそれで。その方との恋を成就させたいから、レヴィ様に諦めてほしいのね?」

「ええ、そうなの」

「それならいくらでも手伝ってあげるわ」

「本当に?」

「もちろんよ! レヴィ様に幸せになって頂きたい気持ちは嘘じゃないけれど、だからって大事なお友達に我慢させたいわけではないもの」


 リメルはやはり頼りがいのある友人だった。力強く言ったリメルに、アルテナはホッと胸を撫で下ろした。


「ありがとう、リメル」

「いいのよ。それでまあ、レヴィ様のことはきちんと対策するとして、二つ目の悩みは何なの?」

「それが……」


 興味津々といった様子で、リメルは身を乗り出す。アルテナは小さく息を吐き、今日の出来事を話した。


 婚約話で不安になったため、姿を見たくてこっそり店を覗きに行った事。そこで偶然見つかってしまい、店に案内された事。けれど話す事が出来なくて困ってしまった事。


 一通り話を聞くと、リメルは眉間に皺を寄せて唇を尖らせた。


「うーん……。緊張して声が出ない、ねぇ」

「どうしようもないかしら?」

「そもそも、どうしてアルテナはその方に恋をしたの? 話したこともないのに好きになったのね? というより、まだ相手に認識さえされていないなら、身分差以前の問題じゃない」

「ええと、それは……」


 リメルの言う事は尤もだった。つい先ほど、身分差を乗り越える方法は考えてあると言ったばかりだが、そもそも心を通わせる事すら出来ていないのだ。

 畳みかけるように言われてしまい、アルテナは気まずさに瞳を揺らす。するとリメルは、はぁとため息を漏らした。


「まあ私が言えることでもないけれど。レヴィ様にとって、私はアルテナのオマケでしかないのだし」

「そんなことは」

「いいのよ。たくさん見てきてるんだから。レヴィ様のお気持ちはよく分かってるの。…… だからアルテナ、一緒に頑張りましょう?」

「リメル……」


 リメルは苦笑を溢すと、アルテナに微笑みかけた。励ますような優しい微笑みに、アルテナの胸が温かくなる。

 するとリメルは面白い事でも見つけたかのように、瞳を輝かせた。


「ねえ、まずはそのお相手のことをもっと教えてほしいわ。緊張を解く方法を考えるにも興味を持ってもらうにも、情報が足りなすぎるもの」

「え? ……ええ」

「そうね、まず名前は何というの? それぐらいは知ってるのよね?」

「もちろんよ。マイルズというの」


 目を爛々とさせて次々に質問を重ねるリメルに、アルテナは以前から使っているマイルズとの偽の出会い――グラナダ王都で昔、偶然出会って一目惚れした――を語って聞かせた。

 オルレアへやって来たのがマイルズを探すためだと知って、リメルは「すごいわ! そんなに好きだったのね!」と歓声を上げ。その相手が、いつも愛用している化粧品の店の息子だと知って「だからあんなに拘ってたのね!」と興奮しだした。


「そういうことならアルテナ。次の休みには、私と一緒に行きましょう!」

「行くって、お店へ?」

「そうよ! こういうのは慣れが大事だと思うの。緊張しなくなるまで何度も通って耐性を付ければいいのよ」


 以前アルテナは、もしマイルズがリメルを見初めたらと不安に思い買い物に行くのを止めた事もあったが、今日店で見たマイルズは美しい女性客を何人も相手にしていた。アルテナと一緒に美容に励むリメルは美少女といっていいと思うが、今のマイルズにはそう珍しくないはずだ。それにリメルは第二王子を深く愛しているし、二人がどうこうなる事はないだろう。

 だからリメルと共に店へ行く事自体は構わないが、慣れと言われてもアルテナは前の人生で散々マイルズと顔を合わせている。マイルズにまた会えるのは嬉しいし願ったりだが、その方法には疑問が残った。


「耐性……そんなこと、本当に出来るのかしら」

「出来るって、私が保証するわ。私もレヴィ様に初めてお会いした時はうまく話せなかったけれど、今は普通にお話出来てるでしょう?」

「それはそうだけれど……話せないまま何度も訪ねたら、変に思われない?」

「大丈夫よ! アルテナが慣れるまで、そこは私がうまく誤魔化してあげるから。ああ、楽しみね! アルテナが一目惚れしたマイルズ様って、どんな方かしら! あっ、横恋慕なんてしないから安心してね! 私の気持ちはちゃんとレヴィ様にあるから!」

「え、ええ……」


 やる気に満ち溢れた様子でリメルは拳を握りしめ、鼻息荒く立ち上がる。そのあまりの勢いに、アルテナは気圧されるままに頷いた。

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