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19:不要な好意

「アルテナ嬢。良かったら昼食を共にどうかな」

「ごめんなさい。わたくし、約束がありますの」


 午前中の授業が終わると同時、声をかけてきた男子生徒に表面上の微笑みを返し、アルテナはリメルとの待ち合わせ場所へ急いだ。

 五年生となった今年から選択授業が始まり、リメルとは別行動となる時間が増えた。だからだろうか、一人でいるとこうして度々男子生徒から声をかけられるようになったのだ。


 しかしアルテナにとって、マイルズ以外は等しくどうでもいい男たちだ。わざわざ共に食事をする理由は見当たらず、全て躱し続けていた。


(マイルズだったら喜んでついていくのに)


 ため息を吐きたいのを堪えて颯爽と歩くが、視界の端にはチラチラと視線を向けてくる男子生徒たちの姿が見える。体に染み込んでいる淑女らしい微笑みは絶やさないようにしているが、アルテナは内心で疲れていた。


(他に可愛い子はいくらでもいるでしょうに。留学生のわたくしが、なぜこうも注目されるの)


 人の視線を集めるのは経験がある。だがそれは、一度目の人生で王太子ゲルハルトの婚約者だった時だ。

 未来の王太子妃として男女問わず常に注目されたし、擦り寄ってくる者も多くいた。けれどそこには憧れや羨みのようなものはあっても、今のような熱っぽさは皆無だった。


(わたくしは、こんな風になるために努力したわけではないのよ)


 幸い学生たちは皆紳士的で、過度な接触は今のところない。だが向けられる視線の意味や、度重なる誘いが何を意味しているのか気がつかないわけではない。

 十四歳も半ばを迎え女性らしく体が変化し始めたアルテナは、人形のような愛らしさから抜け出しつつあり、大人と子どもの狭間でのみ醸し出される危うい美しさが際立っている。アルテナにその気はなくても、自然と年頃の男子生徒の興味を引いてしまうのだろう。


 けれどアルテナの努力は全て、マイルズのためにしている事だ。他の者たちに想いを寄せられても、アルテナには迷惑以外の何でもない。

 少しの隙も見せないためには、多くの労力も必要になる。気を張る毎日に、アルテナは辟易していた。


「アルテナ、こっちよ」

「リメル、遅くなってごめんなさい」


 学食の入り口でリメルと落ち合うと、空いた席を探す。すでにほとんどのテーブルが埋まっている中、周囲の男子生徒たちが空席をさり気なくアピールしてくるのが、またアルテナには辛かった。

 そこへ不意に、背後から声が響いた。


「こんにちは、アルテナ嬢、リメル嬢。席が決まっていないなら、僕と一緒にどうかな」

「レヴィ様……!」

「王子殿下、ごきげんよう」

「あっ! 失礼しました。王子殿下、ごきげんよう!」


 オルレアの第二王子レヴィアトも、アルテナたちと同じく十四歳になっている。声変わりを終えて背も高くなっており、すでに卒業した王太子カシュテトとはまた違った男らしい姿に育っていた。

 リメルが瞳を輝かせるのを横目に見つつ、アルテナは軽く礼を取る。ハッとしてリメルも頭を下げると、第二王子はクスリと笑った。


「いいよ。そんなにかしこまらなくて。それで席はどうする? 僕たちの席にはまだ空きがあるから、二人一緒に座れるが」


 第二王子が向けた視線の先を追うと、席を確保していた取り巻きたちが軽く会釈した。リメルが期待の眼差しでアルテナを見つめたので、アルテナは友人のためにと頷きを返した。


「ありがとうございます、ご一緒させていただきますわ」

「御温情に感謝いたします。よろしくお願いします!」

「今注目の美しいレディたちと共に出来るんだ。僕たちの方がお礼を言いたいよ」


 アルテナたちに集まる視線を一蹴するように、爽やかな笑みを浮かべた第二王子にアルテナたちはついて行く。アルテナに熱視線を送っていた他の男子生徒たちが、あからさまに落ち込んだ様子を見せつつも引き下がった。

 第二王子はこれまでも度々アルテナたちに声をかけてきているから、それも牽制になっているのだろう。煩わしい事から助け出してくれる第二王子は有難い存在だった。


(王子殿下は、リメルに気があるのかしら? リメルと一緒に守って頂けるのだから、感謝しかないわね)


 初めて会った時から、適度に砕けた印象だった王太子カシュテトと違い、第二王子レヴィアトは常に真面目で誠実な雰囲気だ。単に留学生のアルテナを気にかけてくれているのかもしれないが、リメルの好意には気付いているだろうにこうして気安く接してくるのだから、脈はあるのではないかとアルテナは考えている。

 だからこそ、多くの男子生徒から向けられる視線が変わっても、こうして第二王子と変わらずに付き合えるというものだ。アルテナは安心して、第二王子から差し伸べられる手を借りた。


 そうして五年生の日々は穏やかに過ぎていったのだが。年度替わりの長期休みに入り、いつもように叔母の屋敷へ帰って数日が経つと、そんな日々は一転してしまった。


「アルテナ、大変よ!」

「叔母様? どうなさったの?」


 進級と共に十五歳を迎えようとしているアルテナの身長はずいぶん伸びて、胸もだいぶ膨らんできた。それに伴い服や靴を新調する必要があるため、アルテナは屋敷に商人を呼び寄せ新学年の準備をしていたのだが、焦った様子でやって来た叔母を見て手を止めた。


「お義兄様からの手紙よ」

「父からですか? 一体何が」

「買い物は休憩して、まずは読んでちょうだい。すぐに返事を書かないと、手遅れになるわ」


 険しい顔で差し出された手紙は二通あった。一通は未開封のアルテナ宛のもので、もう一通、叔母宛のものはすでに開かれている。

 叔母宛の手紙を読めという事かと、アルテナは目を通し愕然とした。


「婚約の申し込み……?」

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