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バーンスタインの夜警2




 半摺鉢状の階段教室で、同科生(クラスメイト)が喧々とオープンデイに向けた話し合いを進めている。

 数日前に何やら学校に不審者が出たとかで一時休校になり、進行が遅れているらしい。

 そんな中、キッカは呑気に首を傾げた。


「なんでキッカ、かわいいお姫さま役じゃないの……?」

「歌も楽器も出来ないし演技も下手そうだからじゃない?」


 隣のアメリアが至極真っ当なことを言った。

 キッカは顔のパーツを中央に寄せて不細工な顔をした。威嚇だ。


 一年目とはいえ天下のEKC生。歌唱や演奏を主にする芸術班は勿論、役者だって舞台の上で歌ったり踊ったり演奏できないといけない。マルチな活躍ができないと、EKCの舞台で主役など張れないのだ。

 そしてキッカはそれら全てがからっきしであると、普段の授業から周知であった。


「でも、【木の役】って……【木の役】って何するの?」


 キッカが困った顔で言った。流石のアメリアもちょっと噴き出して、慌てて咳払いで誤魔化す。

 いざ舞台で演劇をやるとなると、役者以外にも仕事なんて山ほどあるのだが──


 BGMや効果音、劇中歌を担当する歌唱や演奏。舞台を彩る魔術。衣装や小道具の作製。広報に金の確保と遣り繰り。

 何度も言うが一年生といえどEKCである。来賓が来賓である以上、半端な真似は出来ない。錚々たる面子が一年の演し物を見に来るかはともかくとして、何をやるにも学生のお遊びで済まされないのがこの学園の良くも悪くも特徴である。


 そんな中、キッカに与えられた役割は【木】だった。

 ──事実上の戦力外通告である。


「い゙ーー!!」

「笑ってない、笑ってないわ。でも、みんなアナタに大人しくしていてほしいんでしょうね。ウロチョロされても邪魔だし……」

「アメリアちゃんは何するの?」

「わたくしは裏方よ。経理担当。別に歌も楽器も特別上手いわけじゃなし」


 アメリアは言うが、彼女はそのどちらも授業で好成績を収めている。

 が、しかし実際、それらを専攻している生徒たちと比べれば雲泥なのだ。

 となれば無論、キッカとは月とスッポン、百年に一度の流れ星と呑み会終わりの吐瀉物くらいの差がある。


「ん゙い゙〜〜ッ! 来年こそは絶対お姫さまになる!」

「アラ。演劇部にでも入るの?」

「え? あ。そか。来年も演劇とは限らないのか」

「というか(クラス)のみんなで演し物すること自体今年だけよ。二年からはクラブだとか、有志で集まって考えることになるのだし」

「そうなの?」

「最初だけ、先輩たちがどんな成果を披露しているのか雰囲気を掴むために、毎年みんなでやるらしいわ。だからアナタ、来年からはクラブに入ることね」


 オープンデイで倶楽部活動の様子も多少見れるから、見ておいたら──?

 先日に引き続きアメリアが言った。

 キッカは「そうなんだあ」とぼんやり聞いているが、アメリアがこうも繰り返し言うのは成績の為だけではない。

 キッカに友達が居ないからだ。

 だからクラブに入らなければオープンデイで何も出来ないんじゃないかと彼女なりに危惧して助言しているのだが、キッカはそんなこと気づくはずないので、どこ吹く風であった。


「……まあ、木の役でもなんでもいいですけど。活躍出来なくとも、マイナスがなければ今年は進級できるんでしょう?」

「うん!」

「わたくし明日から少しの間いませんから。くれぐれも余計なことはなさらないように」

「うん。心配?」

「はあ? 誰もアナタのことなんて心配していませんわ。留年して当然だと思っていますし。ただまあアナタが進級出来ないとなれば兄であるラームス様にも迷惑が──」

「や。ちがくて、明後日のパーティ」

「……ああ、」

 アメリアは捲し立てていた口をキュッと閉じ、そして


「なにも?」


 そう答えると、髪をバサリと後ろに払った。

 まさしく堂々たる佇まいと、回答であった。

 

「わたくしがフロレンスの代表として招かれるんですもの。失敗なんてありえませんわ」

「──うん! アメリアちゃんなら、絶対ぜったい、大丈夫だよね」

「当たり前よ」


 その答えを聞いて、キッカはニコニコ笑った。

 アメリアはつまらなそうにフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いたが、彼女は知らなかった。

 目の前の女が自分に向けた、【初めての同性の友達】という称号の重さを。

 だから彼女が今やるべきことは、キッカに尊大な態度をとることではなく出来るだけ距離を置くことだったが、気づいていないのでどうしようもない。もうかなり手遅れである。





#





 突然だが、時は数日前まで遡る。

 オープンデイの準備から追い出され、アメリアとディスカードとも別れたその日、キッカはすぐ教室へは戻らなかった。

 その足で図書室へ向かった。


 一般図書は学園の第九塔(生活棟)にある。

 キッカはそこでまず、《バーンスタイン》について調べた。おそらく貴族名鑑を見ればどこかにあるだろうと確認すれば案の定、《バーンスタイン辺境伯》の文字はあった。

 EKCから東に位置する──というかユグエンの最東、国境にある領地らしい。

 伯の経歴としては、周辺国とのいざこざを収めるのに助力しただとか、それに伴う栄典だとか、そういったことが書いてあるのを一通り斜め読みして、キッカは本を元に戻した。

 そこでそれ以上のことはわからなかった。


 なので、キッカはその足で第一塔(職員棟)へ向かった。

 一般図書にない資料は、職員棟に保管してあるのではないかと思ったのだ。

 第一塔に下級生が訪れることは珍しいので──用がない──道行く上級生はジロジロとキッカを見たが、キッカは気にせず人気の無い廊下あたりまでやってくると、資料のありそうな部屋へ潜り込んだ。

 他にも似たような部屋はいくつかあったが、魔力の気配が一番薄いのが此処だった。というか他の部屋は確実に侵入阻害の魔術が施されていたので入れなかったのだ。魔術書に用はないし、その手のを解除出来る魔術狂い(ディスカード)が今日は居ない。

 案の定中には危険な書物もなければ、それほど重要そうな資料もなかったが、運良く目当てのモノはあった。

 様々な貴族の子息を相手にするのだから、教師たちはより詳細な貴族名簿(リスト)を持っているのではないかと思ったのだ。これは当たりだった。

 バーンスタインの名前もそこにあった。

 勿論、特別秘密にするような情報は載っていなかったが、辺境伯が定期的に社交パーティを開いているということ、主な交友についてなどが記されていた。

 どうやら社交好きらしい。

 キッカはまたその資料を斜め読みして、満足して部屋を出た。


 ──余談だが。

 キッカが部屋に入った時、中には魔物がいた。

 結構凶暴なタイプの魔物だったので、キッカはちょっと吃驚して、咄嗟に仕留めてしまったのだが。処理しようにも手間なので、そのままにして資料を閲覧し始めた。

 第一塔は森に一番近いので、魔物が入り込むこともあるのだろう。

 しかし、もしキッカのようにか弱い生徒がかち合ってしまったら恐ろしいことである。学園側には安全管理をキチンとして欲しいものだと思った。


 

「いや、え。……え? ゴメンもっかい言って。《金剛の間》で、なに? 何したって?」

「? 資料室に入ったけど」

「そこ守ってる魔物倒しちゃったの?」

「まもってる? よくわかんないけど、魔物が入り込んでるなんて危ないよね。怖くて気軽に校舎も歩けないよ。先生たち、森の管理はキチンとしてるのかな」

「うん。危ないのはキッカちゃんだし怖いのもキッカちゃんだし先生に見張っておいて欲しいのもキッカちゃんだなボクは」


 ディスカードはソファに凭れ込んで唸った。

 第一塔の《金剛の間》──そこは主に、生徒が外部で活動する際の手続きなどで使用される部屋である。

 が、ちょっと特殊な場合にしか使われないので、下級生が使うことはほぼない。あるとすれば進級試験の時くらいだ。そもそも普段からそんなに使われる部屋じゃない。

 キッカが行ったのはおそらく、その奥の部屋だろう。

 これまで在籍した、全ての生徒の情報が保管されているという部屋。

 セキュリティの施されている部屋は学園内に数多くあるが、上級生になることで閲覧許可が出たり、魔力量の条件を突破することで入れる部屋や、他にも解術すれば入り込める部屋も幾つかある。それらは大抵、魔術や呪術関係の書庫で、力量の見合わぬ生徒が迷い込んで、取り返しのつかない目に遭わないよう、ある種生徒の保護のために施されているセキュリティだった。

 しかし、《金剛の間》は違う。

 魔術で侵入を拒むのではなく、侵入者を排除する仕組みになっている。

 過去に度胸試しで痛い目を見た生徒も居ると聞く。

 あの部屋は情報を守るためにあるというより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから他の部屋と違い、魔術的な仕掛けは()()()()()存在しない。しかし、どのセキュリティより凶暴な魔物(ガーディアン)が存在する──



「…………それ倒しちゃったか〜」

「うん。ああいうの、今後はないといいな」

「たぶん教師もそう思ってるよ」


 ディスカードは嫌なことを考えた。

 キッカが一塔にいたところはたぶん一部の上級生には見られている。そしてそのあと、金剛の間が何者かに侵入されたという情報が出回るのであれば、それって──


「それで?」


 キッカが、ディスカードの思考を遮るように口を開いた。


「おまえ、わたしの話は聞いていた? どうするの」


 ディスカードは答えを迫られていた。

 というのも、キッカにとって罠部屋に侵入したことはどうでもいいついでの話で、本題は別にあったのだ。ディスカードにとって全然どうでもよくなかったせいで時間を食ってしまったが。


「あっ。えーと……本気で言ってる?」

「ゆってる。貴族ですもの。パーティの一つや二つ普通よね?」

「《バーンスタイン》の?」

「だからそう言ってるでしょ」

「目的が透けて見えるんだけど。いやアメリア嬢もビックリするでしょ突然キッカちゃんいたら」

「きっと喜びますわ」


 なんだその自信は、と思いながら、ディスカードはどうやって今回の件を諦めさせるか頭を悩ませていた。

 そう。キッカは社交パーティに行きたいらしい。理由は説明されずともわかる。

 しかし普通のパーティでも彼女を放逐するのはハイネンヴァルトの名を落とすことと同義であるのに、今回彼女が行きたがっているのは表向き社交パーティであるが、その実恋人探しの婚活パーティを兼ねている。その時によってコンセプトは様々だが、今回は参加者全員、仮面(マスケラ)をつけて交流するらしい。

 なんだその怪しいパーティは。


「そんな乱交パーティー行っていいわけないだろ」

「らん……? いや、社交パーティだけど」

「ダメダメそんなとこ行ったらキッカちゃんなんて一瞬で餌食だよ」

「餌食て。言っても貴族の出会いの場でしょ?」


 ディスカードの力説により、キッカも薄々察したらしい。

 しかしキッカは、「だから何?」という顔をしていた。わたしを無理矢理好きにできる男がいるとでも? ていうか好みの男がいたらわたしが襲う側では? あそれを心配して反対されてるのか。とよく解っていない顔でディスカードを見つめている。

 確かに、彼女を力尽くでどうにかできる人間は極めて少ないだろう。

 ディスカードは目を細めた。


(──いや、オマエは絶対痛い目を見る)


 自信を持ってそう思った。力の差云々の問題ではない。

 きっとどれだけ殴っても、拷問しても、この女を好きにできる男はいない。

 でもそんなことは関係ないのだ。弱者の立場に泣きつかれたら? 縋られでもしたら? とりあえず話を聞いてしまうだろう。そして内容によっちゃ聞くだけで済まなくなる。そういう女だ。まるで信用ならない。


「絶っっ対だめ。協力しない」

「そう。わかった」

「え?」


 ディスカードは拍子抜けした。断ったら殴られると思っていた。全然そういうことをするタイプのクソ女なので。

 ディスカードは暫く右斜め上に視線をやって、漸くキッカの方へ視線を戻すと、恐る恐る「……何する気?」と尋ねた。


「忍び込むけど?」

「ゴメンわかった落ち着けよ早まるなって、」

「? おまえが落ち着け。心配すんな。ハイネンヴァルトってバレなきゃいんだろ。不安そうな友達を陰ながら見守るくらい誰だってしてる」

犯罪者(ストーカー)の思考なんだよな……」


 嫌な予感は的中した。

 キッカの了解は「わかった(諦める)」ではなく「わかった(一人でやる)」であった。ディスカードは勿論頭を抱えた。


「……オーケーわかった。要は中に入れればいいんだよね?」

「ん? まあ、」

「参加者としてじゃなく警備としてなら手ぇ貸すけど」

「やったー」

「一つ貸しだからね」


 結局ディスカードが折れた。

 ここまでの熱量なら、ディスカードが断ったところで勝手にどうにかするだろう。それでとんでもないトラブルになるくらいなら、ある程度こちらでコントロールの効くほうがマシである。


「でも警備に潜り込むにしては、わたしってめちゃくちゃカワイイじゃない?」

「はあ?」

「はあじゃねえよ。バレないよう魔術で姿変えられないの?」


 キッカは軽い調子で尋ねた。ディスカードはぐいっと親指で己の眉間を(おさ)える。イラッと来たからだ。

 彼女のコレは別に初めてではない。

 昔から、「魔術師なんて非人間の集まり」「社会病質者共」「しね」と主語をでかく主張する癖に、何かあるとすぐ、「魔術でどうにかできないの?」「魔術でこういうのやって」と軽く言ってくる。ディスカードからしたら彼女のほうがよっぽどロクでもない。

 しかも魔術師でもないくせに、なまじ頭が柔軟なのと魔術を見慣れてるせいか、わりと実現可能なことしか言わないから余計タチが悪い。

 こちらは実際に出来る出来ないじゃなく、コストや諸々の面から「出来ない(成果が見合わない)」と言っているのに、畑違いのこの女は理解しないのだ。


 しかし、そんな彼女の要求の、概ね全てに応えてきたのもまたディスカードである。


「あー…認識阻害かな」

「すぐ出来るの?」

「まあね。魔道具も使って重ね掛けする。軽くやってみる?」

「うん」


 言うと、ディスカードはキッカの腕を取った。

 確かに。素性を隠すには容姿を変えるのが手っ取り早い。キッカが簡単に言ってくれるので腹は立ったが、提案自体にはディスカードも賛成だった

 布越しに、ディスカードの魔力がキッカの肌を這い上がる。魔術を媒介にして、頭から爪先までを覆っていく。


「ぎもちわ゙る」

「《肉体変化(メタモル)》よりは負担軽いはずだけど。キッカちゃん魔力に敏感だからな〜…またモルモットやってくれるならそっちでもいいよ」

「遠慮しとく」


 キッカは顔を歪めて答えた。

 何も、かつてディスカードはタダで彼女の無理強いに応え続けていたわけではない。

 勿論、()()()()()()()()()()()()


「いつでも言ってね……ボクたちあんなに相性良かったじゃん」


 ディスカードの手が腕から肩へ滑るのに、キッカはあからさまに「最悪」を顔に出した。振り払わないのは魔術をかけ終わったか判断つかないからだろう。

 ディスカードにとって、二人の相性は最高だった──研究者と実験体(モルモット)として。

 しかし、キッカは甚く不満らしい。



 現在に至るまで、ディスカードは世の汎ゆる魔術を修めてきたが、その中には勿論(勿論?)、現在では禁忌指定された《肉体変化》に纏わる魔術もあった。

 容姿を変化させたり、老化を止めたり、性別を変えたり──そういう類の魔術である。

 ただその手の魔術は理論を積み上げるところまでは簡単たが、実行するとなるとリスクが伴う。自身に行使するのは特に都合が悪い。自分を変容させてしまった場合、何かあったとき、どうにかする人間がいないからだ。

 魔術は万能だが、人は万能ではない。

 だからディスカードは実験体が欲しかった。

 どの程度の変化なら対象の肉体が耐えられるのか。魔力量によって異なるのか。どのような作用をすれば不具合(エラー)が出るのか。ディスカードだけでは計測できなかった。


 その点キッカ──かつてのシュンは素晴らしかった。

 風属性の彼女は体内の魔力を操作するエキスパートである。しかも、自分のみならず他人の魔力の流れも見える。

 だから彼女の身体には色々出来たし、様々な事例(サンプル)が取れた。本人(モルモット)に魔術の動きが見えるのだから、こちらも修正(デバック)しやすい。

 今世でも部活動参加するなど色々対策はしているが、彼女ほどの験体に出会ったことはないし、これからもきっとそうだろう。


「キッカちゃんてほんとボクにとって最適解みたいな性能してるよね〜!」

「死んでくれ頼むから」


 ちなみに今キッカに施している魔術は、使用に資格と報告がいるものの、禁忌指定はされていない合法なものだ。

 ディスカードは資格を持ってないし、報告もしないけれど。


 暫くして、ディスカードはキッカの腕を解放した。

 ──どう見ても別人だ。なんだか感慨深い気持ちになった。仕上がりに納得がいったので、しげしげと自分の身体を見下ろすキッカに、「見ておいでよ」と姿見を誘導する。

 途端、キッカが叫んだ。


「やだぁー! キッカが成長したらそれはもう美しくて儚げでかわいらしいご令嬢になるでしょうが!」

「なるでしょうがって言われても。いや面影からして別人のほうが絶対良いでしょうが。ロッカさんそっくりになっちゃうし……てかこの術案外複雑だから、術者が詳細に思い浮かべられる姿にしかできないよ。かけられる側も当たり前にその身体を己のものだと認識できないといけないし、」

「え〜〜…」


 キッカが項垂れた。

 思っていた姿と違ったのだろうが、そこら辺は目的と関係ないので配慮する必要はない。要は絡まれにくく、ハイネンヴァルトの関係者とバレなければいいのだ。


「これ魔力持ちにもバレないの?」

「んー…まあ大丈夫でしょ。今はキミの側に目眩ましかけてるだけだけど、当日はマスケラにも相手を洗脳するタイプの魔術かけるし。それで盤石だと思う」

「おぉ……」


 キッカは慄いた。こういうやつが敵にいると何にも信用できなくなる。味方にいてもそうだったけど。


「キミレベルの風属性(ソード)か、ボクレベルの魔術師なら違和感感じるかもしれないね。それにしたって仮面(魔術)の下まではわからないだろうけど」


 言いながら、ディスカードは指に嵌っていた指輪を弾いた。中から何か出てくる。──魔道具だ。


「? なにしてるの」

「衣装屋に電話してる」


 衣装屋? とキッカは首を傾げたが、まあこの件と関係のあることなのだろう。黙って隣で話を聞いた。


 千匹皮の依頼だよ/貴族の護衛。探りにくいのが良い/特に無いな。あ。じゃ中立で/サイズは五くらい/店替えるね/告発する/橋の下の暮らしが良い暮らしだと思わせてあげるよ。幸福指数が上がるね/北西希望──


 ディスカードは言葉少なに会話を終え、また指輪を弾く。魔道具は何もなかったかのように姿を消した。

 途中で物騒なワードが出ていたが、キッカの耳を以てしても相手の声は聞き取れなかったので、そういう魔術がかかっているのだろう。


「なんの話してたの……?」

「衣装屋だから衣装の購入だよ。ドレスにスーツ、レストランの制服、学園の制服、騎士団の制服、憲兵の制服、王宮側仕えの制服、なんでも揃う」

「……そんなの簡単に揃えられるもんなの?」

「普通は揃えられないから需要があるんでしょ」

「そんなお店どこで知るんだ……」

「知り合いのアリバイ屋に紹介してもらった」

「アリバイ、」

「紳士御用達、世界中のお土産が買えるお店」

「……?」


 《アリバイ屋》は紳士の皆様からの強い支持により支えられている行商であり、世界中のお土産が買えるお店だ。()()()()()()()()()()、現地に行かないと買えないようなものがなんでも買える。これは紳士諸君が、「ちょっと遠方まで仕事に」と言って実際は行かないような場合に、大変重宝するお店なのであった。

 まあキッカはそんな世界を知らないので首を傾げた。


「いい? キッカちゃんはあくまでただの警備だからね。やたら威圧したり目立たったりしないように」

「つまりバレないよう態度だけ姿に合わせれば、普段通りでいいんでしょ? キッカ普段からおとなしいし、」


 それを聞いたディスカードは、物言いだげな目でキッカを見つめた。彼女が本当に大人しいのなら、教師の使役する魔物は今も健在だろう。

 当のキッカは視線など意に返さず、鏡の前で髪をちょいちょいと弄っている。


「……なんで赤いの?」


 キッカが振り返った。

 ディスカードは肩を竦めて答えた。


「いやだって。地毛じゃないって知ってはいるけど、ボクの目には髪が赤い時のほうが長かったし。魔術ってイメージに左右されるもんじゃん?」

「そういうもん……?」


 キッカはムッと眉間に皺を寄せたが、一応納得したようだった。

 なんだかその顔が懐かしくて、ディスカードは少し笑ってしまう。



「──マ、諦めて一晩シュンくんとして過ごすんだね」





ディスカード、意図せず最悪のアシスト編

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