洗礼2
忘れないでくれというのは、《呪い》だとディスカードは思った。
彼女の終わりゆくものへの甘さに、あの男は気づいていたのだろうか。
いつだって、やりたくないことは拷問にかけられたとてやりはしないくせに、やると決めたことは命を賭けてもやり通す。
だから彼女が死ぬまで忘れないと言ったなら、生涯忘れられることはない。
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長いアウティングが終わり、細々とした授業を経て二学期の成績が出た。
キッカは、《アウティング》で最高の評価をもらった。
渡された成績表の、特別学習の項目だけ、Aの隣に+が沢山ついているのを見て、キッカは思わず笑ってしまった。
教師はそれを喜んでのことだと捉えたようで、不審には思われなかった。
サーリヤの新しい王様は、キッカたちが内戦を治めるために協力したことを、しっかり学園へ伝えてくれたらしい。
──中身は、献身的な教会への奉仕とかになっていたけど。
ちなみに、レックスとディスカードは、魔術師として民の安全に協力したらしい。
それだけのことでも、内乱の鎮圧に関わったというのは大きな評価になるそうだ。おかげで今年の進級はなんとかなりそうだった。
実際は奉仕どころか、崩落させてきたのだけれど。
王が良いって言ってるんだから良いんだろう。
「淑女と言うには暴力的過ぎる」
ディスカードが呆れた顔でキッカを見下ろしたので、キッカはちょっと目を逸らした。
二人は庭を散歩をしていた。
洗礼式が終わったところで、丁度部屋の前を通りかかったディスカードを、ロッカが呼び止めたのだ。
洗礼式のあと感極まった彼女は、一頻りキッカを抱き潰してから、部屋に残っている男たちに話があると言って娘を次男に託した。
人選ミスである。
ちなみに今ディスカードが苦言を呈している理由は、ロッカの姿が見えなくなった途端、キッカが拳を振るったからだった。
「は、弾いたくせに……こんなか弱い女の子の細腕を、魔術で……」
ちょっとバツの悪い顔で、キッカが言う。
別にディスカードに暴力を振るったことを申し訳なく思っているわけではない。
彼と居ると過去に引っ張られるのか、いつものように淑女らしく振る舞えないのが決まり悪かった。
キッカはディスカードにもっと酷いことをされた記憶があるので、彼に対してはいつだって自分が被害者だと思っている。
ちなみにこれはディスカード側も同じことで、お互い相手が自分にしたことは根に持っているが、自分がしでかしたことは都合よく忘れているのだった。
「え、なに? 風属性のゴリラパンチを?」
「おまえ。おまえ」
「ほらそうやってすぐ力に訴える!」
キッカはあからさまに頬を膨らませて不機嫌をアピールした。
ふくふくとした可愛らしい顔だが、ディスカードに小児愛の気はないので通用しなかった。ディスカードはセクシーな大人の女が好きだ。割り切りが良くて、面倒臭くない──目の前の女と正反対のタイプである。
しかし、キッカとて理由なく暴力を振るったわけではなかった。
──ホリデー初日。
キッカが部屋でのんびりしていたところ、訪ねて来たディスカードがポロッと溢した話に事は発起する。
ユグエンの貴族は赤子が生まれると、教会から魔術師を招くらしい。
それは何故か? ──《枷》を嵌めるためだ。
昔から赤子の魔力量というのは安定せず、ある程度歳を重ねなければ素養の有無もわからない。
そうすると、《魔力持ち》だった場合、分別のつくより前に魔力を暴走させてしまう例がチラホラ出てくるのだ。
その場合、最も危険なのは赤子自身である。
実際、過去には魔力の暴走が原因で命を落とす子供もいた。
そのため昨今では、魔力持ちの多い貴族は、一律にこの措置を受けるらしい。
そして理由がない限り、洗礼の日に外される。
制度自体は悪いものではない。
問題は、その《枷》の存在を、キッカが知らないことだった。
「もっと早く言ってくれれば良かったのに」
「別によくない? 騎士科や魔導科の生徒なんて、みんな入学前に解いてるんだし。ラームスだってかなり早くに解いてた筈だよ」
「自分で?」
「イヤそんな例外ボクやキッカちゃんくらいに決まっアイダダダダッ!!」
ボクの楔状骨ッ! とディスカードが足を押さえて叫んだ。
そう。このキッカ・ハイネンヴァルト、本人も予想出来ていた通り《枷》、無かったのである。
当然といえば当然だ。魔術師が戦闘で使うような《魔力封じ》の類ではなく、ちょっと蓋を閉めておくような、軽く鍵をかけておく程度のものらしい。それでも、魔力を流す感覚を知らない子供には十分有効だが。
しかし、魔力の扱いを知る──知るどころかそれを使って戦争していた──人間には当たり前だが、容易く解けてしまう代物だった。
キッカの中で《魔力》は《戦い》と強く紐づいている。
だから魔力を扱えること自体、特別隠しているわけではないが、大っぴらに喧伝したいものでもなかった。
だからキッカはディスカードに殴りかかったのだ。
シンプルに言うと、八つ当たりである。
「淑女はそもそも選択肢に暴力がないんだよ……」
てかさぁ、としゃがみ込んだディスカードが、目を眇めてキッカを見る。
「普段からそんな魔力使うようなことしてたワケ?」
「ま。え? し、してない…………前ほどは」
キッカの言葉を聞いて、ディスカードは頭が痛そうに眉間を押さえた。
頭髪が魔力焼けを起こし、魔力痕が電紋のように身体を這いずり回るほどには──というのが、どの程度か測りかねたのだ。
ディスカードは立ち上がると、上から下までキッカを見て、「マァ身体は鍛えてないみたいだけど」と呟いた。
細くて薄い身体だ。歳の頃から見ても、キッカの体躯は小さい方だ。鍛えているようには見えない。
しかし、キッカが「いや、」と否定した。
「この身体、鍛えても体質の問題なのか筋肉つかないんだよね。ウェイトも増えないし」
「……あ、そ。鍛えてはみたわけか……」
「や。えーと。ちがう。小さい頃に襲撃受けたから、死んだら元も子もないから、その時にちょっと体力作りしよっかなって……」
言い訳を重ねるキッカに、ディスカードは溜息を吐き出した。
襲撃されたから鍛えよう、とはならないのだ普通の令嬢は。
「それにしては体力あったけど」
狩り大会のこと、そしてそれより前──街一つ分以上の距離を、数刻で駆け抜けた夜のことを思い出して、ディスカードは言った。
キッカは首を傾げる。
「うーん。鍛えた分、体力がついたような気もするんだけど。見た目変わんないから、あんまわかんない」
以前は鍛えればその分、身体は筋肉で覆われた。そう考えると、前は筋肉のつきやすい体質だったのかもしれない。
「まあ、魔力量は前より多いから。そのおかげかも」
「そうなんだ? ボクは大して変わんないや」
「そりゃおまえは元から規格外だったから……」
「属性は? 二重属性?」
「んなわけあるか。風属性」
答えて、そこでキッカは、ちょっと不思議そうな顔をした。
「……なんか、《洗礼式》って、思ったより呆気なかったな」
「そう? 身体中弄くり回されて散々だった記憶あるけど」
「そうなの? 人によるのかな……おかあさまがすごい心配するから、何するのかちょっと気になってたんだけど」
拍子抜けであった。
帰郷してからというもの、ロッカはずっとソワソワしていたし、頻りにキッカに洗礼式は大丈夫だろうかと聞いてきたのだ。
いや初めて見るキッカに言われても、と思いながら、落ち着かないロッカを宥めて数日を過ごした。
だから何か、よほど特殊なことでもするのかと思っていたのだが。
蓋を開けてみれば、一瞬で終わってしまった。
貴族の間では大事な節目と言われているが、特別な儀式のようなものもなく、祝福の祝詞を聞き、魔道具で属性を調べられただけ。
医者に定期健診にかかるような、それくらい味気ないものだったのだ。
「ボクが天才だったから……?」
「担当する人によるのかな。問題はなかったみたいだし、別にいいんだけど」
「なんか反応してよ」
ディスカードが肩を竦めてこちらを見た。
ボケだったのか。反応し難い。口に出して肯定したくないが、実際言う通りこの男は天才なのだ。
キッカが困って無視していると、ディスカードは気を取り直して「なんだろうねぇ」とぼやいた。
「キッカちゃんに魔力がないか、心配だったとか?」
「おかあさまそういうの気にするタイプかなぁ……」
「本人が気にしなくても、周りの人になんて言われるか、心配することはあるんじゃない?」
そういえばロッカ夫人て何属性なの? とディスカードが尋ねた。
意外なことに、キッカは首を傾げた。
「……どうだろ。魔力がある感じはするんだけど、」
しかし、それだけで《魔力持ち》かどうかはわからない。
《魔力持ち》《属性持ち》──なんて、広義にそう呼んではいるが、それは四属性に大別される魔力を行使できる人間を便宜上そう呼んでいるだけで、実際に魔力を持つ者を指しているわけではない。
厳密には、魔力を使える《魔導法則》を持つ人間がそう呼ばれる。
そもそも、人間は生まれた時から皆、多かれ少なかれ魔力を持っているのだ。
どれだけ魔力を貯蔵出来ても、出力するための法則無しに魔力は使えない。
魔力を使えない人間は大抵、魔力の保有量も少ないので──例外はあるが──一般的には《魔力なし》と呼ばれる。何より、使えなければ無いのと同じだ。
ただ、風属性は数少ない、能力の発現に関わらず、視覚でもって魔力を見分けられる人間であった。
魔力持ちだろうがそうでなかろうが、キッカにはその人の魔力が視える。しかし──
「わかんない、って……?」
「魔力量は多いと思う。並の《魔力持ち》よりずっと。でも、どの属性の魔力とも判断がつかない」
魔力は属性でまったく見た目が変わるというわけではないが、キッカは経験から独自に属性ごとの魔力の流れを判別していた。そしてこれがよく当たる。
しかしそれに則ると、ロッカの魔力がどれにも当てはまらないのだ。
「ふぅん……《ギフテッド》かな」
ディスカードの言う《ギフテッド》とは、つまり一部の例外で、魔力量が多いのに四属性を扱えない者は、だいたいこれに該当する。
彼等は四属性に大別される《魔導法則》を備えない変わりに、独自の《魔導格律》を身体に刻まれていた。
それがどのような力を持つかは、人によって千差万別だが。
四属性と違い、意図して鍛えることができない変わりに、四属性では再現出来ないような特殊な能力も中には存在する。
ちなみに、《魔力持ち》と《ギフテッド》は両立する。
ラームスのような例だ。彼のように感覚が発達した《ギフテッド》は、風属性にはそう珍しくなかった。ほんとにピンキリの能力だ。
「それか、《水属性》か」
今度はキッカが言った。
水属性の魔力の流れだけは、キッカにも一見して判別が出来ない。単純に、サンプルが偏って少ないからだ。
前の生でも会った数は少なかったし、今生に至っては会ったことすらない。それくらい稀少な属性だ。
「んー…ホント何を心配してたんだろうね。上三人で慣れてそうなもんだけど。キッカちゃんは特別とか」
「ああ……カワイイから……」
「いやそういうことじゃなくて……」
もしかしたらほんとにそういうことなのかもしれないが。ロッカに詳しくないディスカードは胸の内で付け加える。
「二重属性でもなかったんでしょ? てか二重属性はボクの前例があるか……魔力がなんかおかしかったりした?」
「おかしいってなに」
「キッカちゃんの魔力があるとか」
「……は?」
「だから、シュンくんのじゃなくてさあ。その体の」
それは──つまり。
嫌な考えが頭を過ぎり、キッカは少し顔を顰めた。
ディスカードの言いたいことがなんとなくわかった。
つまり、キッカの普段使っている魔力は《シュン》の魔力で、それとは別に、この身体が本来持つ魔力があるのではないかと言いたいのだろう。
しかしそれは──
「……まるで、わたしが《キッカ》の身体を乗っ取ったみたいな言い草だな」
「考えてみなかったの? なんで昔の記憶があるのかって」
キッカちゃんて案外ロマンチストだね、とディスカードが言った。
現実を受け入れることがそんなにロマンチックだろうか。生まれ変わった。じゃあ好きに生きる。そこで何故、を考える必要が特になかったから、考えなかっただけだ。
「案外ってなに?」
「べつに〜?」
「……魔術的な要素が絡んでる可能性は、一応考えた」
「ボクはつい最近まで、《D・サンクトゥス》の記憶だけ植え込まれた説を考えてたけど」
「えこわ。おまえずっとそんなこと考えて生きてたの?」
「魔術師だからね。現実問題、そっちのほうが可能性高いし、それならボクにもやりようがある」
しかしディスカードは、「最近まで」と言った。
つまり今はもう、その説を考えていないということだ。
それを裏付けるように、ディスカードは、「でもボクって真実、ボクだったみたい」と続けた。
「……なんでそう思ったんだ?」
「動かぬ証拠が地べたを這ってたから」
「地べたを、」
キッカは、はたと気がついた。
なるほど──そうか。
「……スライムか」
「そ。あの魔物がキミと繋がった。それは記憶だけじゃ説明つかない」
「それはそうだな」
ただ記憶が埋め込まれただけなら、スライムとの繋がりは維持できなかったはずだ。そもそも、なんで今維持できているのかもわからないけれど。
「てかキッカちゃん、さっき自分で魔力量増えてるって言ってたじゃん。それなら普段使ってる魔力はその身体の魔力でしょ」
「……それもそうか」
キッカは素直に頷いた。
魔力の扱いの話ならともかく、魔術的な知識のことになるとディスカードには遠く及ばない。この男が言うのなら、少なくとも己は悪霊みたいな存在ではないのだろう。
そう思っておいたほうが精神衛生上も良い。今更本物のキッカが現れたところで、そう易々と身体を返してやれる気はしなかった。
「二つの魔力が一人の身体入るなんて、そもそも人の構造上難しいし」
「二重属性とは違うの?」
「キッカちゃんて他人の身体に魔力流してみたことない?」
「なるほど。無理だな」
魔術を介さず、純粋な魔力を他人の肉体に流すことは、どの属性にも出来ない。それはただの攻撃だ。
「あのスライムがめちゃくちゃ特殊な例なのはキッカちゃんもわかってるでしょ」
「まあ……」
──アレ、とキッカが声を上げた。
ディスカードがそちらを見ると、困ったような、嫌そうな、なんともいえない表情をしたキッカがいた。
「……もしかして、スライムってわたしのこと特定する材料になる?」
ディスカードは、何を言ってるんだコイツ、という顔をした。
「そりゃなるでしょ。ボクもそれ見たら一発だったろうし」
寧ろキッカちゃんは二重属性の凄腕魔術師って時点でなんでボクに気づかなかったわけ? と文句を言われて、キッカは素直に「髪が短かったから」と答えた。
そこそんな大事?? とディスカードが目を丸くする。
「アレは髪切ってる暇なかったから……キミは女の癖に剣でバサバサいってたけど」
「近接は短いほうが良んだよ。掴まれるし。魔術師と違って長い髪にメリットもないし……あ。おまえそれで女だって思われたんじゃないの?」
「史実で男にされてる人に言われたくないんだけど」
キッカがむ、と顔を顰めた。二人とも己の史上の扱いに納得いっていないのだ。
「てゆーか、特定されたら困るワケ?」
「だってまだ活動してる魔族いるんでしょ?」
「……ア゙ー…そういうこと、」
ディスカードが唸った。
キッカが前を向いたまま、「そういえば、なんか魔族の名前出してたよね」と言った。
思わず、ディスカードはそちらを見る
戦場にいるような冷たい声色だったからだ。しかし、予想に反して表情は平静としていた。
「知らない名前だったけど」
「あー…うん。キミが死んだあとに名が知れた魔族だから、」
「倒せなかったんだ?」
「とにかく逃げ上手でね。知らない内に近くにいて、気づいた時にはいなくなってる……戦うどころか、まともに姿を見た人間も殆どいなかった」
「厄介な魔族だね」
「……怒ってる?」
「なんで?」
キッカはきょとんと首を傾げた。
そしてそのまま、「わたしってバレたら拙いかなあ」と話を続けた。
「存在が知れたらその首、言い値で売れるだろうね」
ディスカードは間髪入れずに答えた。
考えるまでもなかった。本人も、それを懸念したからスライムが特定材料になるか尋ねたのだろう。
「……今はただの貴族のお嬢様なんだけど」
「だから? 眼とか足とか、パーツが欠けたら価値が下がることもあるかもしんないけど」
こわいこと言うな、とキッカが睨んだ。
そうは言われても実際、魔族が復讐を果たす以外にも、彼女の身体は引く手数多だ。
魔力器官が人体のいったいどこに刻まれ、どう遺伝するのか。これは人類の長年の研究命題であり、違法な研究が禁じられた今でも、研究を続けている人間は必ずいる。
これは同じ魔術師だから解る。魔術師とはそういうものだ。
その視点で見ると、一度肉体が滅びたにも関わらず、古代魔術の名残を存在に刻む彼女は、格好の研究対象である。
「……ま、スライムのこと見た魔族なんかだいたい殺してるだろうから、目立つことしなきゃ問題ないとは思うけど」
ディスカードはそう言って、余計なことには口を噤んだ。
彼女はどうも魔術師に偏見があるようなので、これ以上その認識を助長したくなかった。
偏見を植え付けた最たる人間が己であるとはまったく思わず、ディスカードは話を逸らす。
「特定されたくないみたいなこと言うから、てっきりボク以外の昔馴染みに会いたくないのかと思っちゃった」
「いやおまえとも会いたくなかったけど」
「とも?」
ディスカードは都合の悪い部分を聞き流して、気になるところだけ聞き返した。
キッカはどこか困ったような顔をした。
「記憶があるかも分からないし、二人共、元気ならそれでいい……まあいずれ、遠目に顔くらいはみたいかもしれないけど」
「……うん? 二人?」
「ロウとアニス」
「だろうね」
ディスカードは予想していたので頷いた。
頷いて、どうしたものかと口許を押さえた。
キッカはきょとんとしているので、ここはストレートに尋くしかない。
「えーと。ちなみにキリエくんは?」
「キリエ? 向こうが会いたくないだろ」
仲悪かったし、とキッカが言う。
まあ確かに殺し合いをした仲だしね、と軽く言いながらディスカードは内心頭を抱えた。わかっちゃいたけど噛み合わない二人だ。
「うーん。とりあえず、キッカちゃんはどう思ってるの?」
「どうって……どうだろ。あんま、会いたくない?」
「どうして?」
「アイツ、なんか魔王殺しに執念燃やしてたし。わたしが倒しちゃったの恨まれてそう。あと、記憶あるなら今世でも魔族討伐してそうだから巻き込まれたくない」
「……そっかあ」
噛み合わないわりに、半分は当たっている。
ディスカードは、それきりその話題には触れなかった。
暫くして、キッカが、「そういえばこいつなんでずっと着いてくるんだ?」と疑問に思ったあたりで、再び、「キッカちゃんこのあと何すんの?」と口を開いた。
「ラームスと街に行ってくる」
「は?」
ディスカードの言った「は?」は彼女の予定に対して出たものではなく、「あいつボクがキッカちゃん探してんのに何も言ってこなかったぞ」というラームスへの怒りからまろび出たものであった。
ディスカードはイラッとしながら、満面の笑みを浮かべる。
「ボクも行く〜!」
「えっやだけど」
「えぇひどぉい」
来んな来んなと拒否するキッカに、いやだいやだと粘れば、そのうち面倒になったキッカが折れた。
ディスカードは、「そーいえばこういう女だったな」と懐かしい気分になる。嫌なことはどれだけ脅しかけても首を縦に振らないくせに、わりと泣き落としは通る。懇願し倒せばだいたいのことは受け入れられるのだ。こちらがプライドを捨てる必要はあるが。
ディスカードはラームスの嫌がる顔を思い浮かべ、にっこり笑った。
「良かった。意外と元気そうで」
「……わたし? 意外も何も、ずっと元気だけど」
「もうちょっと引き摺ってるかと思った」
「何を」
「オウジサマのこと」
オウジサマ、がレックスのことではないのは、なんとなくわかった。
キッカが振られたことなんて、ディスカードは興味ないだろう。
思い浮かべてるのはきっと、別の名前だ。
「別に。引きずるようなことじゃないし、人死なんて散々見てきたろ」
「でも彼はあの頃の連中と違って、悪役のまま表舞台を去った」
「どうでもいい」
キッカはディスカードを振り返った。
「アイツの命がどんな風に消費をされようが」
「アイツの救った命がみんな、アイツのことを忘れようが」
「わたしが覚えてるから、それでいい」
「……あ、そ」
ディスカードは小さく答えて、前を向いた。
来月はちょっと投稿出来るかわからないので、次は2ヶ月後に来ていただければ幸い。




