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転生した魔王殺しの騎士は、か弱いプリンセスに憧れる  作者: 陽譚子
【第三章:愉しい学園生活】
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淑女と狩人3





「レックスくん? 出ないよ」

「えっ!?」


 キッカは悲壮な声を上げた。


「どうして……」

「どうしてって。自由参加だからね? レックスくん貴族の付き合いめんどいからって、基本こーゆーの出たがらないし」

「じゃあおにいさま達はどうして出るの?」

「お前もめんどくさがるタイプだろって? いちおーボクも騎士の侯爵家(ハイネンヴァルト)だぜ? 普段こういう行事(イベント)に参加しない分、たまの機会にアピールしなきゃ」

騎士科(ナイト・クラス)は元々、森で狩りをしている。いつもの訓練の一環だ」


 ふぅん、と返事をしながら、キッカはポケットの中身を指先で弄った。そして小さく肩を落とす。


(……せっかく頑張ったのに)


 アメリアからこの催しに誘われた際──アメリアが聞けば誘っていないと声を大にして否定するだろうが、キッカの中ではそういうことになっている──に、「狩りに出る殿方に自らの手で刺繍を入れたハンカチを渡して応援する風習がある」という話を聞いたのだ。

 なのでキッカも、毎晩チクチクと頑張っていた。

 周りの人たちからは、「まあ! 鳥肌が立つような出来ですわ」「こんなデザイン思いつくの貴女ぐらいよ」「とっても前衛的」と大絶賛を貰い、さてあとはレックスに渡すだけだと勇んでやって来たらこれだ。

 上手くいかないものである。

 ちなみに、キッカは振られたことを忘れたわけではないが、それならそれで、片想いを全力で楽しむつもりでいた。


「オニイサマがもらってあげよっか?」

「へっ?」


 気づけば、ディスカードがキッカの顔を覗き込んでいた。

 視線が合うとわざと逸らされ、それはそのまま、ポケットの方に向かう。

 ──目敏い男だ。


「……自分で使いますわ」

「え〜? 誰にも受け取って貰えなかったって知られたら周りの子たちに引かれると思うけど。ハンカチの売れ残りって惨めだよ。淑女じゃありえないよ。いいの?」

「そ、そうなの?」


 知らなかった……と、キッカは慌ててハンカチを取り出し、包装のままディスカードの手の上に乗せた。

 受け取ったディスカードは、早速リボンを毟って紙を開く。


「うわ……えっ何コレ」

「ハンカチだけど」

「いや刺繍……呪言とか縫い付けてある?」

「オリアナの花とカナリアだけど」

食人木(シーモア)の花とコカトリス?」

「返せ」

「ごめんて」


 ディスカードはひょいと、キッカの手が届かないようにハンカチを持ち上げて、そのまま懐に仕舞い込んでしまった。


「ま、ほどほどに頑張るけど期待しないでね」

「? 勝手にがんばれ」


 応援の意味で渡したかったのはレックスに対してだ。ディスカードにそんな気持ちはない。せいぜい食堂の在庫のために頑張れと思うくらいで。


「キッカ」


 今まで黙っていたラームスが、反対側から手を引いた。

 今度はなんだ、とそちらを見上げると、ラームスはどこか不機嫌そうな顔をしている。


「? どうしたの」

「俺も欲しい」

「え、」

「俺のは?」


(……そんなことを言われても、)


 元々レックスに渡すためのハンカチだ。当たり前だが一枚しかない。

 困ってディスカードを振り返ると、「貰った以上ボクんだし」と先んじて言われた。ハンカチ一枚でがめつい男だ。


「…………」

「えぇ……? 自分のハンカチないの?」

「……ない」


 ラームスはらしくない、ちっちゃな声で言った。

 確かに、ラームスだってこの後駆け回って汗を掻くだろうし、ハンカチの一枚くらいはあったほうが良い。


「…………練習用のなら、」


 さすがにぶっつけ本番でレックス様のハンカチを刺繍するのは不安だったので、一枚練習した。ただ、勿体ないので自分で使っている。

 つまりキッカのお古である。

 まあだからこそ今持っているのだが。


(いや今日はまだ使ってないけど……それでもどうなんだ?)


 淑女的にナシか? と思い直し、「やっぱこれ使っちゃってるから──」とキッカが言うのに被せるように、「それでいい」とラームスは答えた。


「いいの?」

「構わん」


 まあ汚くはないけどさ、とキッカが取り出した剥き出しのハンカチは、一瞬で手の中から消えた。


「? なんだこれ」

「ハンカチだけど」

「……い、ぬ。と、炎か……?」

「練習用だって言ったろうがおんなじ刺繍だよ」


 ラームスもキッカが手を伸ばす前に、ハンカチを懐にしまい込んでしまった。こういうところばかりよく似た兄弟だ。文句があるなら自分で持ってこい。


「でかい獲物を取ってくるからな。楽しみにしていろ!」

「? うん」


 食堂のメニューを、ということだろうか。

 ラームスが自信満々に言うので、キッカはよくわからないまま、とりあえず頷いた。



 《狩猟大会》の狩り場は毎年同じ、学園都市を囲む《アインソフの森》である。

 都市の最北に位置するこの学園では、北の門から森に入れるようになっている。

 騎士科(ナイト・クラス)の訓練や、魔導科(セレマ・クラス)の素材採取の名目で、森には獰猛な獣がわりと野放しにされている。私有地ということもあり、国からの討伐隊は基本やって来ない。そのため獲物は豊富だ。

 しかし、まったくの無法地帯というわけでもない。獣が増えすぎないよう、定期的に騎士科で狩りが行われるらしい。


 そもそも森に行こうと思ったことがないキッカは、この話を今日初めて知った。

 どおりで学園周りの魔力障壁が厚いと思った。それだけが理由ではないだろうが。


 門の前には、キッカのようにハンカチを用意した女生徒がチラホラ目につく。

 これから狩りに向かうであろう男たちと、和やかに会話しており、どことなくいい雰囲気だ。

 見てるとだんだんハンカチが惜しくなってきた。

 せめて家族以外に渡せばよかったのでは……今更だが。せっかくの機会を無駄にした気がする。


 しょっぱい気持ちで門に向かっていると、視界の端を、不自然な光景が掠めた。

 キッカは足を止め、そちらを見る。

 門前から少し離れた隅の方。ちょうど、建物の陰になったところに、一人の女生徒が立っていた。

 道の真ん中で、(じっ)と俯いて地面を見つめている。


(……?)


 キッカたちは本来、森に男たちを送り出したあと各々庭園へ戻るはずだ。そこで狩りの終わりを待つために。

 しかし、視線の先の彼女は、動く気配がなかった。

 誰かと言葉を交わすでもなく。

 何もせず、ただ立っている。

 ──可怪(おか)しな光景だ。


「……じゃ、二人ともがんばってね〜!」


 本当に門の真ん前まで送り届けて、流石にキッカは踵を返した。

 というかなんでここまで一緒に来ちゃったんだろうか。そりゃキッカが立ち止まると二人とも立ち止まるからに他ならないのだが。狩りが怖いタイプでもあるまいし、何を粘っているのだろう。それとも余裕の顕われか──?


 考えていると、ぐっと後ろから力がかかり、進むのを阻まれた。


「どこ行くの?」


 振り返った先には、腕を掴むディスカード。

 その顔にいつもの軽薄な表情はなく、というか彼にしては珍しくなんの表情もなかった。

 キッカは怪訝な顔で、「あっち」と素直に返す。

 女生徒が立っている方だ。

 ディスカードが僅かに眉を顰めた。


「何しに行くの」

「え? いや別に……あの人何してるんだろって」

「好奇心てわけ?」

「や、まあ……そう?」


 そうなのか? 言われてみればそうかもしれないが。普段からそんないちいち理由をつけて行動していないキッカは、曖昧に返した。

 というかなんでそんなこと気にするんだ。


「えなに急に……獲物とられちゃうんじゃないの?」

「知らない人に無闇に話しかけるもんじゃないよ」

「知らないひとって……学園の生徒だよ?」


 ラームスはともかく、過去を知るディスカードまでそんなことを言い出すので面食らって、キッカは思わず呆れた声を上げた。

 この外道にすら庇護欲を抱かせるなら、つくづく己の容貌の嫋やかさに感心する。

 しかし、キッカは己の行動を制限されるのが嫌いなので、結局ディスカードの手を力尽くで外し、「行ってらっしゃい!」と無理矢理手を振った。

 魔術師が、単純な膂力でキッカに敵うはずがない。


「懲りないよねほんと……」


 ディスカードが後ろでぼやくのを無視して、キッカは門に背を向けた。

 件の女生徒はその間も、同じ場所から動いていなかった。





「──あら。キッカさんじゃありませんか」


 女生徒に話しかけようと口を開く前に、別のところから声が上がった。

 キッカが一旦口を噤んで振り返ると、先ほど庭園で見た顔が何人か集まっていま。

 にこやかに挨拶をされたので、キッカもへらりと笑って返す。


「どうされましたの?」

「え? あ。ええと……」


 思いつきで見に来ただけで、別にどうもされていない。

 なんと説明したものか迷っていると、「ああそういえば!」と一人の女生徒が手を叩いた。


「キッカさんはあのハンカチ、どなたか受け取ってくれましたの?」

「ぁ。うん。おにいさまが──」


 キッカの使っているものまで回収していきましたが、と思いながらキッカは首を縦に振った。

 女たちの視線はキッカに集まっていて、俯いたまま動かない女生徒には、誰も触れようとしない。

 まるで居ないものとして話が進められていく様子に、「もしかして、わたしにしか見えてない……?」とキッカの背中に緊張が走った。


「まあ! ふふ……ご家族に渡したのぉ?」

「お待ちなさいよ。ご家族といえあのお二人よ? 誰にも渡せないよりよっぽど良いじゃない」

「あら確かに。誰にも相手にされないより、ずっと良いわよねぇ」


 女たちはクスクスと笑った。

 ほんとに誰にも渡せないと良くないんだ……と、キッカは彼女たちの反応から察した。悔しいが、ディスカードの言う通りにして良かったらしい。

 彼女たちが談笑するのを手持ち無沙汰に聞いていると、地面を見たまま微動だにしなかった少女が身動いだ。

 キッカはここに来た理由を思い出し、少女の方に向き直って、「何してるの?」と尋ねた。

 返事はまた違う方向から返ってきた。


「そっとしておいてあげたほうがよろしくてよ」


 背後からピシャリと言われ、キッカはまた振り返った。

 ──どうやら、彼女たちにもこの少女は見えているらしい。


「一人で己の行いを反省する時間も必要でしょう」

「? 何かあったの?」

「あら酷い人。わざわざ聞かなくても……ねえ?」


 そう思うでしょう、()()()()()──

 その声を聞いて、佇む背中が震えたように見えた。

 どうやら、彼女の名前のようだ。


「その子断られたのよ」

「へ?」

「ハンカチ」


 女生徒の細い指先がさした方を見れば、握りしめられた薄いハンカチがあった。

 ディスカードから聞いた事前知識もあったため、なんとなく状況を察したキッカは、あわわと女たちのやりとりを見つめた。


「淑女にとってとんでもない恥だわ」

「この中で断られたのアナタだけよ? もしかして、参加した生徒の中で唯一かも……」

「アナタ、名家の恥(ミス・グレース)以下なのよ?」

「貴族でない貴女に何を言っても仕様がないのでしょうけど」

「私たちもね、生まれをどうこういう気は無いのだけれど。恥を晒したくなければ、もう少し弁えて過ごした方が賢明よ?」


(渡せなかったらこうなってたんだ……!)


 ヒエ、とキッカが怯えながら話を見守っていると、女たちは、「ハンカチを渡したなら早く戻ったほうがいいんじゃなくって? アナタはどこかの誰かと違って、貰い手を漁る必要はないんだから」とキッカに向けて言った。

 ひとしきり喋って満足したのか、彼女たちはそのまま庭園の方へ戻って行ってしまった。



「……何かご用です?」

「へっ?」


 女たちの後ろ姿を呆然と見送っていると、それが見えなくなった途端、俯いていた少女が顔を上げた。

 小作りな顔に、丸く大きな目をした、可愛らしい少女だ。


「あの人たちの言うように、此処に用は無いんでしょう? なら、私に用があるのかと思って」


 キッカは少し驚いた。ハンカチのことを咎められたわりに、少女は随分平然としていた。先程まで俯いていたのはなんだったのかと思うほどに。

 次いで質問に答えようとしたが、しかし人気のない道のど真ん中に人が立ってたのが気になっただけで、別に用があるわけではない。

 キッカは少し考えてから、「誰か渡しに行くの?」と尋ねた。

 ハンカチの話だ。女たちが言ったように、断られたなら他の誰かに渡してしまえば良い。渡したかった人に渡せなかったキッカもそうした。

 ひとまず手元に残って無ければ、あんな風に怒られることはないのだろう。


 しかし、リリィは首を横に振った。


「いいの。別に、クイーンになりたかったわけじゃないから」

「くいーん」


 なんだそれは。

 突然出てきた言葉に、キッカがぽかんと口を開けていると、リリィは不思議そうな顔をした。


「狩り大会のクイーン……知らないの?」

「?」

「えーと……キミもあの人たちから誘われた口? なんか馬鹿にされてたみたいだけど、下級貴族か何か?」

「? ばかに?」

「……まあ、なんでもいいか」


 リリィが肩を竦めた。

 そして、キッカが知らなかったこの大会のルールについて、説明してくれた。

 

「この大会、男たちは普通に狩りの成果を競うのだけど。女たちは、男から捧げられた獲物を競うの。ハンカチは、《僕の獲物をアナタに捧げます》っていう約束みたいなもので」


 そこで最も素晴らしい獲物を捧げられた淑女が、この大会の《クイーン》の称号を得るのだとか。

 キッカはそれを聞いて、「えー…」と思ったし、実際に口に出ていた。

 獣の死骸を積まれての一番なんて、かわいくない。淑女っぽくない。変わった催しである。


「おそろしい獣なんて貰ったらキッカ倒れちゃいますわぁ!」

「ほんとに知らないで参加したんですね……」

「うん。おともだちに誘われましたの!」


 するとリリィが「私も、」と頷いた。


「そうですわよね! か弱い淑女に獣なんて似合わないですわよね!」

「え? あそっちじゃなく……あの。私も、さっきの彼女たちに誘われたんです。仲良いひとが狩りに参加するって聞いて、それで応援に……」


 それを聞いて、キッカは内心首を捻った。

 友達にしては、先ほどの詰問には手心が感じられなかったが。

 友達なら、ちょっとばかし淑女として上手くやれなくっても、慰めてはくれないものだろうか。

 それとも、キッカの考えが甘いだけで、淑女の世界はそれくらい厳しいものなのだろうか。


 そんなことを考えていると、リリィの眉を困ったように下がった。

 今にも泣き出しそうな表情(かお)に、キッカはギョッとする。


「え。わ! あの、リリィさん……?」

「でも、断られちゃった……()()()()()()()()()()()()()()()からって……」

「メルハイム家?」

「ユグエンの伯爵家の……知らないの? ……貴族なのよね?」


 リリィが怪訝な顔をした。

 そうだが。昔も貴族についての知識はあまり無かったし、数百年前より後に興った家なら、尚更知らない。

 リリィは、「さっきの中の一人がそこのご令嬢で、」と言葉を続けた。

 キッカは話がよくわからなくなってきた。つまり、なんだコレ。どういう話だ。


「私みたいな平民には解らないだろうけど、って」 

「ん……? えーと。その仲良い男には好きな人がいるからとかじゃなくって、他人の家が怖いから? 断られたの?」

「うん……今度から人目につかない場所で会おう、って言われたから、たぶん……」

「なんだその腰抜け」

「こ、こしぬけ?」

「あっえと。腰の引けたかたですわね」

「こしのひけた……」


 リリィが驚いた顔でキッカを見るので、キッカは慌てて、「それでどうしたの?」と尋ねた。

 彼女は困った顔で、「どうもしないよ」と答えた。


「好きって言ってくれてたから、今回のことはショックだったけど……仕方ないんじゃないかな。貴族同士の家の事情なんて、実際私には解らないし」

「え!? 好きって言われてたの?」

「? はい」

「なのにハンカチ、断られたの?」

「はい」

「…………」


 少女の顔が翳る。

 キッカは混乱した。そして憤っていた。

 それは彼女に対する同情ではない。

 いくら取り繕おうと、キッカが最も長く過ごした場所は《軍隊》である。己の望みで貴族として、淑女として振る舞ったところで、最初期に培った価値観は染み着いて消えない。


 《軍隊》での、《男》とは──

 イチに《酒》だ。酒は呑めれば呑めるほど男らしいとされ、弱くても潰れるまで呑めれば文句は出ない。

 斯く云うキッカもかつてはザルであったが、これに関しては戦場に響くので呑めない奴は呑むなと思っていた。ちなみにこの身体で試したことはない。

 そして軍隊なんだから当たり前だが、ニに《強さ》だ。強けりゃ強いほど《男》だった。

 ちなみに他の部隊はどうか知らないが、シュンの部隊では《戦に正も卑もない》を標榜していたため、どれだけ卑怯な手を使っても勝つ方が強かった。騎士道とかは知らない。

 そして最後に──《胆力》だ。

 これがなきゃ話にならない。

 まあつまりは度胸。精神力。無謀になる必要はないが、肝っ玉の小さいやつは馬鹿にされた。


 だからキッカは憤っていた。

 正義感などでは決してなく、権力の影に怯え、好きと言った女を泣かせる男は、価値観にマチズモの根付いたキッカにとってタマ無し同然だったのだ。



「別にもう、いいんです。彼女たちとだってどうせ、あと一年の付き合いだろうし……」

「ハンカチ、ちょうだい」

「え? どうしたの?」

「えっと。欲しがってる人がいたから……?」

「あら」


 涙を浮かべながら気丈に微笑む彼女を見て、キッカの頭は考えた。

 彼女のハンカチを断った男は、どれほどの獲物を狩ってくるのだろうか? そしてその獲物を得意気に、好きだと言った女以外に捧げるのだろうか?

 この少女の手元にハンカチが残っているのを後目に──?


 しかし、キッカはハンカチなんてとりあえず手元からなくなって欲しいものだろうと思っていたが、リリィは躊躇した。


「あ……でも、貴族のご令嬢たちと比べたら、私の刺繍なんて下手くそですし……」

「キッカに比べたら誰だって下手くそですわ!」


 リリィは謙虚だった。キッカは自信の塊だった。

 キッカがあまりにも強請るので、少女は混乱のまま頷いた。

 その瞬間手元にあったハンカチが消えた。


「それじゃあその男をけちょんけちょんにしてやる口上でも考えといてくださいましね!」


 ハンカチを強奪したキッカはそう言って、嵐のように去っていった。

 リリィは啞然と口を開け、小さな背中を見送った。




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