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転生した魔王殺しの騎士は、か弱いプリンセスに憧れる  作者: 陽譚子
【第二章:砂城の約束 後編】
44/74

叛逆の漂砂3





 弦楽器(シタール)が主旋律を、そこに高い金属の音が時々挟まる。

 (ベル)だろうか?

 水の雫が、キンと石を打つような音であった。


 踊りが始まった。

 鈴のなるような愛らしい声が高らかに響き、女達の指先から腹までが、波打つように揺れる。

 美しい踊りだ。

 輪の端では太鼓が威嚇するような音を出し、女達は、台座の周りをクルクルと周りながら舞い踊る。


 彼女たちの足下は、巨大な水盆のように水が張られ、ステップを踏むたびに飛沫が舞い、跪くたびに衣装が水を吸う。

 ドゥパッタはさながら蝶の羽根のようで、薄布のサーキュラースカートは、朝露に濡れる鮮やかな花のように、彼女らが回るたびに広がった。

 美しいが、しかし実際、水を吸った布はかなり重いだろう。体力の消耗が激しそうである。


 そんな美しい女たちの中に、一際目立つ存在があった。





「まさか本当に参加するとはね……」


 焚き付けたのはディスカードだが、本気にするとは思っていなかった。つくづく想定外のことをする妹である。

 ふと隣を見ると、セテカが目を瞠っていた。


「う……うん。まるで砂嵐に揺れるアガベ……アガベの妖精のようだね! 素敵だよ!」

「色男も上手い褒め言葉を失ってるじゃん。流石すぎるよキッカちゃん」


 アガベは砂漠の植物であり、決して女性の形容詞に用いられるものではない。

 視線を広場に戻す。

 うん。まあ──酷い。

 一人だけ陸で溺れてるようだ。溺死のパントマイムがあればあんな感じだろう。

 よく意気揚々と輪の中に入れたものだ。

 確かに、習ってきた踊りとはジャンルが違うだろうが、あれでは本来の方もまともに踊れるか怪しい。

 おそらく、あの娘には恥の概念が無いか、もしくは己の不出来に無自覚かだ。どちらも有り得そうだった。


「でも、楽しそうですね」


 ルカが笑顔で言う。その台詞はもう、キッカの踊りの酷さを肯定しているようなものだったので、ディスカードは笑った。


「アレが他人だったら楽しめたかも」

「キッカさんは、すごい人ですよ。僕たちの勝手に巻き込まれて、かなり辛い目にも合った筈なのに……どうして、あんな風に、今いる場所を楽しむことができるんでしょう」

「ボクも巻き込まれた側なんですけど?」


 ディスカードは少しばかり魔族の動向が知りたかっただけで、ここまで踏み込むことになったのは、目の前の少年と、何故か突然乗り気になった先輩のせいだ。


 しかし──確かに。

 キッカのタフさは、この道中で常々疑問に思っていたところだった。

 今も、衆目の前で元気に跳ね回る妹を見て、そう思う。

 檻に入れられ、熱を出してから、まだ十日も経っていない。

 馬鹿だから精神的に参ることがないのだ、というだけでは、そろそろ納得出来ない異常の域であった。


「やっぱ貴族っぽくないよねえ……色んな意味で」

「確かに。貴族というのは、まさにアナタのように、お祭りなどかで楽しそうな顔はしないイメージです」

「ジゼルさんてばひどい! ボクだって結構楽しんでるんだけど」


 ジゼルが胡散臭そうにこちらを見た。

 ルカも意外だったのか、きょとんとした顔をしている。

 ディスカードは肩を竦めた。


「なんのためにボクが数日間村の中を彷徨いてたと思ってるのかな? ほら見て。ありがちな類感魔術の様式を宗教儀礼に落とし込んだ呪術は自然信仰(アミニズム)には珍しくないけど、古いものはそれだけで結構興味深いんだよ」

「? え……なんて言いました?」

「ああ、だから《円》なのか」

「そうそう。言ってみれば魔法陣の一種だね。魔力が通ってないから本物にはならないけど」


 太鼓の音は雷。金属の音は雨音。歌は呪文であり、水盆の舞台は魔術の陣。

 神体(プリミティブ・アート)にも祈雨の祝詞が刻まれていたので、雨乞いが原型で間違いないだろう。

 珍しくはないが、随分古いようで、中央の台座に刻まれた文字は、わざと損壊させられている。これは古代魔術に多い特徴だ。

 古の(ことば)は持つ力が強すぎるため、このような儀式では、誤動作を防ぐためにわざと崩して記された。

 実際、それをしていない魔禩書はとんでもない事象を起こすのだから正しい判断だ。


 隣にいるレックスも、実は魔導科なので──腕っぷしの強さにたまに忘れかけるが──ディスカードの言いたいことを理解したのだろう。

 先程よりは、幾らか興味のある視線で、神事を見つめている。



「へえ、そうなんですか。ディスカードさんは魔術が好きなんですね」

「……数日間、ただ村の魔術を見学していただけなのですか?」

「そうだよ。あ、ルカくんのために何かしてると思った?」

「いえまさか。暇な人だなと思っただけです」

「ハハハ」


 当初は反乱軍を懐柔する考えもあったが、ルカが交渉を始めた時点で止めた。

 よく考えてみれば、反乱軍の理解を得られずとも、魔族を斃すまで邪魔されなければそれで構わない。

 ディスカードにはそもそもサーリヤを救う動機がなく、レックスだって、魔物を斃すとは言ったが、内乱にまで干渉するつもりはないだろう。


「まあ、普通に祭りも面白いよ。踊りも見応えあるし」

 言いながら、ディスカードは近くの男に視線を投げた。「でも願いごとなんて、アンタ絶対可愛いコに忖度するんじゃないの?」


 男は、不機嫌そうな顔で舌打ちを零した。


「そうだが?」

「うわー潔い。出来レースじゃん意味なくない?」

「何を勘違いしてるのかしらねぇが、選ばれるには村人全員の納得が必要で、最終的な採決は村長が下す」


 そしてオレは村長じゃない、男はそう言った。

 確かに。男は反乱軍の長ではあるが、村の長ではないというのは、この数日で把握済みだ。


「もしかして、村にとってはアンタらもお客様なのかな?」

「オイ話しかけるなよ鳥肌が立つ」

「あっ、そういえば先ほど、生まれたのは別の場所だとお話してましたね。どんな所だったんですか?」

「口を開くなっつってんだろ。顔の横にあるそれは飾りか? 要らねえのか?」

「わたしも気になります」

「キミにそう言ってもらえるなんて光栄だよ氷の令嬢(レディ)。生まれ故郷は、貧民窟(スラム)とは比べ物にならないくらい……叶うなら、キミを連れていきたいくらい、夕陽が綺麗な村だったよ。美しい人」

「そんなにコロコロ態度変えてて疲れないの?」

「黙れ殺すぞ」


 そんな気の抜けるような、殺伐としたようなやり取りを横目に、ルカは言った。

 

「それは、いつか見に行ってみたいものですね」


 なんてことない、暢気な言葉であった。

 きっとルカは本気で思って言っているのだろうが、端から見れば、なんでもない肯定的な言葉。誰も傷つけず、波風も立てない。


 しかしディスカードだけは、風向きが変わったのを感じた。

 セテカの表情(かお)を見て。



「──お前らは、本気で国を救う気なのか?」


 男は、上から(グラス)を鷲掴み、口元に寄せながらルカを見た。


「ッ、信じてくれる気になったのですか?」

「いいや? ただ本気で言ってるなら、馬鹿だと思ってな。英雄気取りは好きにすりゃいいが、テメェが戦場に立っても無駄死にするだけだ」

「……僕には確かに、特別な力はありません。でも──」

「実際、英雄だって死ぬやつは死ぬ」


 セテカが鼻で笑った。

 ルカは口を噤んだ。言うことがなくなったからではない。今まで欠片も感じさせなかった不快が、顔に出ていた。

 そして、彼と半月程を共にした自分達には、それが自分を馬鹿にされた怒りではないと、言うまでもなく理解できた。


「──僕は英雄ではありません。力もない。貴方の言う通り。でも、この国の人々に……そして、かつて国を救った英雄に、恥じない生き方をしたいと思っています」

「国を救ったってのは、ガキの寝物語に使う与太話のことか? ハッ……じゃあやっぱ死に急ぎじゃねえか」


 男も、ルカにとっての英雄というものを、薄っすら理解したのだろう。

 一層馬鹿にしたように、片方の口角をつり上げた。


「敵を倒すために自分の命を捨てたから何だ。命一つで、国が救えるかよ」





 ──ディスカードの周囲が、陽炎のように揺れた。


(……セテカの言葉は、わりと正論だ)

 ルカには力がなく、一人で戦場に飛び込めば死ぬ。

 ディスカードやレックスが現れたからこそ、この旅は計略の体を成したが、二人が現れなくともルカは同じことをしようとしていた。つまり死に急ぎには違いない。

 そして人ひとり死んだところで、何が救われることも無い。そいつを憎んでいる奴の胸がすくくらいだ。それはそう。


(……じゃあ、なんでこうなってるんだろうね)


 ジゼルとルカが、息を呑むのを感じる。

 周りの動きがこれだけ精細に感じ取れるということは、つまり、己の魔力が臨戦態勢をとっているわけだ。

 戦場でもないのに、コスパが悪い。


 実は、ディスカード自身も、己の行動を測りかねていた。

 特に何か言いたいわけでもない。しかし腹の据わりが悪い。落ち着かない。

 

「──やめなよ」


 トン、と肩に手を置かれ、意識が浮上した。 

 動きを感覚していたのに、反応することが出来なかった。意識の隙をつくのが上手すぎる。野生動物か。

 驚きと一緒に、魔力がスルスルと鎮まっていく。

 そこまできて、自分は冷静ではなかったのだな、と客観的に理解した。


「……え?」


 同時に、今まで感じなかった重力のようなものが、背中に圧しかかってきた。

 ディスカードの頬が引き攣る。


「いや……ロイくん、」

「魔力が異常に漏れているように感じたから……落ち着いた?」

「おちつ……あの、キミ今ボクのこと止めたよね?」

「? そうだね」

「や……えーと……落ち着いて?」


 動揺して意味の分からない言葉の並びになったが、言いたいことは言えた。「落ち着け」だ。

 何故なら重力の出処は己の肩に手を乗せた男で、そしてそれは勿論重力などではなく、威圧、殺気、存在力──それらが綯交ぜになった魔力の放出だ。遠慮もなく攻撃的に発している。

 隣りを見ると、榛色の瞳が、獲物を狩る獅子のように光っていた。一気に頭が醒める。


「《魔王殺し》は、彼には理解することが出来ない次元の話だ。仕方がないと思うよ」

「ちょっとちょっと突然どうしたの」

「君達は協力を仰ごうとしているようだけど、俺は、弱い人間を戦場に出すべきではないと思うんだ。無駄に死ぬのは可哀想だろう?」


 常になく口数の多いレックスに、ディスカードは困惑した。

 これはまるで──


「……オレに、喧嘩売ってるって解釈でいいか?」


 ──そう。完全に喧嘩を売っている。

 この圧力(プレッシャー)の中で悪態をつき返せるセテカも、反乱軍を率いるだけある。

 が、額に汗が滲んでいた。

 情けないとは思わない。生存本能が生きている証拠で、戦場では大事なことだ。


「いいや? 事実を言っているだけだ。寧ろ、気を遣っているつもりなのだけど……俺たちがこの国の魔物を殺し尽くすのは、もう決まった話だから。キミたちは安全なところで、この国を誰のものにするかとか、そういう話をしていればいいよ」

「随分……馬鹿にしてくれるな」

「そんなつもりはないんだけれど……事実だろう?」


 レックスの言いたいことは解った。

 つまり、「そもそも、俺たちだけで十分じゃないか?」ということだ。

 それはあからさまに上からの発言だった。

 王子様なんだから仕方ないかと思うかもしれないが、彼は普段から、浮世の地位に頓着するタイプではない。

 ならば何で線引をしているのかと言えば、単純に、《一個体としての強度》──弱者と強者の線引だ。

 しかも基準がレックスなので、それは酷く偏った線引きだった。


「王も弱い。国民も弱い。だから国も弱い。君達の行いと、《魔王殺し》を比べることの滑稽さが、少しは理解できたかい? この国は、たかが魔物との戦争に負けているんだよ」

「負けていません」


 ルカが答えた。


「まだ、この国(サーリヤ)は戦っています」

「キミだけで何が出来る? 国民は皆、お門違いな方向に鋒を向けているのに」

「民は王が正しい選択を出来なかったために耐え、耐えて腐らず、大切なものを守るため、こうして力を集めている」


 その瞳に怒りはなく、ただ静かだった。

 彼の声は、レックスのように、周りを威圧する力はない。

 しかし不思議と、周囲の人間に沈黙を強いる力があった。


「それにそう、お門違いでもありません。ただ……今ではないという話で、」


 彼は真っ直ぐ、レックスを見つめた。

 この瞳には覚えがある。

 ディスカードは目を細めた。

 レックスが何か、口を開こうとした。

 その時──



「みんなぁ〜! キッカの踊り見てくれたぁ〜?」



 ……誰も見ていなかったとは言えまい。

 張り詰めた空気は一瞬にして霧散し、問答はそこで一時休戦となった。





#





 ──雰囲気は最悪と言って良い。

 キッカは二の腕をそっと擦りながら、元の場所に座った。

 ジゼルがどこかホッとした顔をする。


(ルカとセテカは解るけど……この二人は何があった?)


 隣の薦敷をチラと見れば、問題の二人は静かにしていた。


 正直戻りたくなかった。

 踊っている最中から、ぶわりと不穏な魔力を感じ、見れば周りの女もチラホラそちらを気にしている。

 魔力を持たない人間でも感じる違和感は、キッカにとって、まるで全身の皮膚を剣先でなぞられるような感覚だ。ディスカードやレックスの魔力規模で不機嫌を撒き散らされると、どうしても身体が反応してしまう。

 とはいえ、臨戦態勢を取れば気取られるだろうし、スライムも元気になりかねない。

 耐えるしかないキッカは、粟立つ肌を無意味に擦った。

 


「セティ、カッコイイ子たちを独り占め〜?」


 気不味い雰囲気が漂っていた所に、キャラキャラと愛らしい笑い声が響いた。──先程まで共に踊っていた、村の女達だ。


「ハハ、何を言っているのかよくわからないな」

「ウケる。ガチで嫌がってんじゃん」

「じゃあ私達に二人共貸してよぅ」


 女が、ディスカードとレックスの腕を引く。

 レックスは困った顔をしたが、抵抗はしなかった。豊満な胸が彼等の背中や腕に当たって、ディスカードは満更でもなさそうだ。


「妬けてしまうな」

「あら、セティのことも愛してるわよ?」

「喧嘩はやめて、お姉さんたちと楽しみましょうね〜」


 彼女たちも、仲裁に入るタイミングを見計らっていたのだろう。

 キッカは連れて行かれる兄とレックスを黙って見送った。

 ──まあ、このメンツは分けた方が良いだろう。

 二人が天幕の陰に隠れたところで、他の女より、少しだけ年嵩の綺麗な女が、スッと屈んでセテカに近寄った。


「ワタシも愉しんでくるわ。何かリクエストは?」

「特には。キミたちの好きにすればいい」

 そこでセテカはちょっと考えて、彼女の耳元に唇を寄せた。そしてこちらを──ルカを、横目でチラと見る。「──酩酊すれば、始末しても構わん」


「ハァイ。好きにする」


 バチン、と長い睫毛を瞬かせて、女は手を振り、天幕の方へ向かっていった。



「……どういうおつもりですか」

「お前らの中で戦闘員はあの二人だろう。おおかた騎士と魔術師か」


 ルカが、批難の目でセテカを見た。

 何か言われることは分かっていたのだろう──何せルカに当てつけるように耳打ちしたのだ──セテカは杯を傾けながら、愉しげな顔だ。

 ……実はどちらも魔術師なのだか。

 正直キッカも、レックスのことは拳士よりの騎士だと思っているので否定はしなかった。


「解っていて、何故先程のようなことを?」

「別に、アイツ等を今本気で始末するつもりはねえ。それなら自分でやってる」

「……僕たちから引き離したんですね」

「察しが良いな」


 セテカが口角を上げ、杯を置いた。


「で、どうすんだ王子様? これで守ってくれる護衛は居ない。それともお姫様たちに助けを求めるか?」

「彼女たちに害を与えるような方とは思いません」

「そうか? 案外目的のためなら割り切れるタイプかもしれん。というか、そうじゃねえと負ければ叛逆者として処刑される仲間の上には立てねえんじゃねえか?」

「……もし本気なら、刺し違えても止めましょう」

「彼女たちには王族の血よりも価値があると、」

「命の価値は平等です」

「そりゃ皮肉か?」


 ──口を挟む間もない男達の応酬は、突然、地鳴りのような太鼓の音に呑まれた。


 振り返ると、広場の中央からは水盆が取り除かれ、代わりに組木と燃え盛る炎があった。

 その周りを囲むのは、今度は男達だ。

 こちらは服装は様々で、ただ皆一様に、動きやすい格好をしていた。女達の踊りのような華やかさはない。


「風の神に捧げる戦の舞踏だ。剣は持たねえが、剣舞とかの延長線だな」


 太鼓の音と共に、男達は激しく地を蹴り、腕を互いに打ち合わせ、凄まじいスピードの踊りを見せる。


「──これ、知ってる」


 キッカが呟いた。

 それを聞いたセテカは「そうかい?」と、覗き見るように、愛想よく首を傾ける。


「良ければ……と言いたいところだけど、危ないからコッチは参加しないほうがいい」

「男のひとだけの踊りなの?」

「そんな縛りはないけれど。目的で自然と別れたな。キミの水の舞踏も素晴らしかったよ」


 目的、というのは神への奉納物として、とりわけ何を捧げるかであろう。

 おそらく水の舞踏は美しさであり、キッカに向いているのは無論そちらだ。セテカの言う通り、己の踊りはさぞ愛らしかったことだろう。

 でも、こっちなら、踊り方がわかる。


「……一番になったら、お願いきいてくれるんだよね」

「え? ああ──」

「なんで皆二つの踊りを踊らないの?」

「単純に、体力が持たないんだよ。だから皆、己の得意な方で勝負する」


 なるほど。

 確かに、優雅に見える踊りでも、その実体力の消耗は激しい。終わってしばらくは、皆かなり息が上がっていた。


「……愛らしい水の精(ジレーネ)。風の舞踏に細かい技巧は関係ねえ。ただ一つ、全力で最後まで踊り切ったやつが毎年選ばれる。加減なく、あの力と速さで」


 あからさまな暴力こそ認められちゃいないが、アレは舞踏ではなく武闘なのだと、セテカは言った。

 直接暴を奮わずに、己以外の全てを薙ぎ倒す踊り。


「──キミが傷つく姿は見たくない」

「今から参加しても、他の男達が全員倒れたあと、暫く踊り続けられればいいの?」

「いや、だから……」

 言いかけて、己を真っ直ぐ見つめるキッカと目があった。セテカはハア、と溜息を一つ吐く。「ようはどれだけ強えぇと思わせるか、他を圧倒する力を魅せつけるかだ。いつ参加しても問題ない。ただ、余程の差が無きゃ、長さが判断基準になるってだけで」

「あのレベルで誰よりも永く踊ればいいだけね。わかった」



 ──言ってしまえばこれは演武であり、見せるための形試合のようなものなのだ。

 似たようなことなら、先のスポーツデイでも、ラームスにやった。

 あの時と同じことをすればいい。

 ならば勝手はよく知っている。





#





 少女が一人、炎の中に飛び入った。

 それは光に焦がれ、焼かれる羽虫のような勢いであったが、彼女の勢いは焼かれて尚衰えず、その色を受けて、赤い蝶々のように炎の周りを飛んでまわった。


 一瞬目を瞠る者はいたが、誰よりも速く、強く、足を踏み鳴らし、細い腕を伸ばし隣のものと打ち合うと、男の方がよろめいた。

 そして、誰も疑問に思わなくなった。

 銀の髪が、炎を受けて輝いた。



戦女神(ヴァルメイヤー)……」



 誰かが言った。

 広間の中央。男たちが倒れ臥した中、一人笑顔で踊り続ける様は、まさしく戦女神の有り様であった。







この話書いた時、RRR見てました。

面白いからみんな見て欲しい。ナトゥナトゥ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] キッカちゃん、舞踏は苦手でも武闘は得意なの隠すつもりがないのね笑 [一言] 更新ありがとうございます!! 今回も面白かったです!
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