砂中偶語2
第九塔に向かう途中で覚えのある魔力を感じ、キッカは思わず声を上げた。
「ラームス──ッおにいさまぁ!」
大きな声で名前を呼びつけてから、周りに人がいるのを思い出した。キッカは慌てて口調を正す。
ラームスはキッカの声に気付くと、返事も寄越さずズンズン道を引き返してきた。なんだかむつかしい顔をしている。威圧感すら感じる近寄り方に、「え。な。なに?」と、キッカは戸惑いながら後退った。
「ちょうどお前を探していた」
「?」
こちらはなんの用もなく呼び止めただけだが、あちらには用があったらしい。
キッカは首を傾げて続きを促す。
「お前、連れてきた魔物は大丈夫なのか?」
「おッ……!?」
キッカは突然のことに一瞬動きを止め、ほぼ反射で周りの人間の距離を探った。
それからニッコリ笑顔を浮かべる。
俗に言う、アルカイックスマイルだ。
「おにいさま、ちょっと一緒に来てくださいまし〜?」
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ホリデーに再会を果たしたスライムは、キッカの魔力を流し直してからというもの、気がつけば後をついてくるようになった。
とはいえ、コレは昔と同じ行動パターンだ。予想も出来ていたのだが……
いざそうなってみると、今生ではかなり都合が悪いことに気がついたのが、ホリデーの終わる三日前。
屋敷は魔物狩りに慣れた騎士侯爵の住処である。
置いて行けば、そのうち学園までついてきてしまうだろうし、実際、過去に一山くらいは越えてきたことがある。
無防備に街に出れば、貧弱なスライムなんて、ハイネンヴァルトの騎士に簡単に狩られてしまうのが目に見えていた。
しかし、キッカの方もこちらはこちらで寮生活。場所は屋敷以上に人の密集する王立学園だ。
目が届く分、行動はコントロールしやすいが、それでも不安は残る。
そこで、スライムを連れてくる際、ラームスにだけは掻い摘んで状況を説明していた。
無論、生まれ直す前の諸々は伏せてだが。
(それがまさか、こんな白昼堂々、魔物のことに言及してくるとは……)
キッカは嘆息しながら、ラームスの腕を離した。
気づけばもう、いつぞやラームスの鍛錬に付き合った第七庭園辺境の畑まで、辿り着いていた。
「懐かしいな!」
「そうかな? まだ、三、四月くらいしか経ってないけど……じゃなくて!」
危ない、話が逸れるところだ。
「えーと……ラームスって、魔物についてどれくらい知識あるんだっけ?」
「一応、ある程度は座学で学んだ。騎士団には従魔を持つものも居るからな。そういえば、騎士科では従魔の同行が許されているのか調べてみたんだが、なにしろ学生に従魔がいるというのが前例のないことらしくな……」
「し、調べた? まさか人に相談とかはしてないよね?」
「ああ、そういえば、まだ聞いていない」
「まだじゃないわ! 今後も聞いちゃだめだよ。というか、ラームスには迂遠にしても伝わらないだろうから、ハッキリ言うけど、今後人前でわたしの魔物がどうとか口にしないでよ」
「なぜだ?」
「えっ……なぜって、ほら、従魔って、あんまり外聞良くないでしょ?」
「そうか? 騎士団では重宝されてるらしいが」
「そんなんぜんッぜん嬉しくないが……?」
か弱いご令嬢が、騎士団で重宝されて喜ぶとでも思っているのだろうか。少なくともキッカは嬉しくない。
そもそも正確には従魔でもないし、我ながら、こうなってる仕組みもよくわからない。そんなの、学園の魔術師にでも知れれば、格好の研究材料にされるのが目に見えているではないか。
それに、ラームスはああ言うが、よしんば従魔と認められたとして、あんなプルプルした従魔、騎士団でだって自慢にならないだろう。
「ラームスだって、こないだのホリデーで、宿屋の騒ぎ見てたでしょ?」
「? ……ああ!」
さっきから、どうも話してることがまったく伝わっていない気がする。
現に今も、一瞬なにも解っていない顔をしていた。
先日の出来事があってから、こちらは嫌々ながら、安全確保のため、魔物と魔族に関する諸々を調べていたというのに。
何故わざと情報を遠ざけてきたわけでもないラームスが、キッカより世情に疎いのだ。
──調べて理解ったが、現代の魔は、過去の世以上に蔑されている。
「それで、危なくないのか?」
「え? ……ああ、それは大丈夫」
キッカは頷いた。
当然の疑問だ。年端のいかない子供たちが多い学園で、魔物がうろつくのを良しと思う騎士科はいないだろう。
「授業中は部屋で大人しくしてるし、生徒の自室って、寮監でもよほどのことがなければ入ってこないでしょ? 万が一人が入ってきても隠れるよう伝えてあるし、学園の人に傷をつけるようなことはないと──」
「いや、お前が」
「……わたし?」
「お前に、危険はないのか?」
ラームスの真剣な顔に、キッカは目を丸くして、まじまじと彼の顔を見つめ返した。
──本気で言っているようだ。
まさか、スライム相手に後れをとると思われているのだろうか?
その言葉に、キッカは一瞬不貞腐れ──そして段々、むずむずと浮足立つような気持ちが湧いてくるのを感じた。
(心配してるんだ。わたしのこと……スライム相手に!)
キッカは、ふん、と鼻を鳴らして、肩口で切り揃えた髪を、くるくると指で弄んだ。
「ま、まあそもそも、スライムにとって、わたしへの攻撃は自傷行為だから」
「どういうことだ?」
「えーと…………従魔だから。わたしに危害を加えてくる可能性は、一番低いよってこと」
説明が面倒なので、言葉を濁してキッカは答えた。
従魔とは便利な言葉である。
「ならいいが……魔物はみんな人を食うものだと思っていた」
「なにその偏った知識。肉食じゃないのもいるよ。スライムに関しては、大気中に漂う魔力だけでも生きていけるから、そもそも食事が必須じゃないし」
「む。それは世話が楽だな」
人も食べないことはないが。
……と、いうのは、ラームスの反応を見る限り、言わないほうがいいだろう。
そもそもスライムは、石でも鉄でも魔物でも、なんでも食べる。雑食だ。なにせ、食べたものによってその能力を変えるのが、魔物としての特性なのだ。
地域によって、スライムの姿が異なるのも、そのためであり、《食》は、スライムにとって重要なファクターの一つである。
(まあ、従魔のように言うことを聞くのは本当だし。寮に放置しておくぶんには危険もないはず、っていうのは嘘じゃない)
問題があるとすれば──
「《アウティング》のときはどうするんだ?」
ラームスが尋ねた。
それである。
《アウティング》──
というのは、EKCの大きな行事の一つである。
先ほどアメリアも口にしていた名前だが、職業体験と言い替えてもいいだろう。
ただし、規模がこの学園相当だ。
今回のイベントも例に漏れず、既に学園の内外問わず、土の末月に向けて活気だっていた。
「……連れて行くしかないと思ってる」
《アウティング》は、短い者でも約半月、長い者では一月ほど、学園の外部で活動することになる。
離れると拙い、ということで連れてきたのだ。置いていくわけにはいくまい。
言うことをきくと言っても、流石に四六時中ジッとはしていてくれないし、アウティングではほとんどの生徒が学外に出ていくので、寮の清掃が入らないとも限らない。
見つかって、知らないうちに処分されるのも寝覚めが悪い話だった。
そして、キッカが《アウティング》をサボるわけにもいかない。
アウティングは本来、生徒が己が進むべき道を見極めるためにあり、ついでに大人たちは、そんな学生を導きながら、優秀な人物を見定めヘッドハンティングの機会を得る……という趣向の行事だ。
しかし、キッカのような生徒にとっては、それだけで終わらない。
普段の成績が優秀なものは、本来の用途通り活用すればいいだけだが、実力主義のEKCに於いて、イベントごとは成績が奮わない者への救済措置でもあるのだ。
学期ごとに存在する大きな行事は、特にその側面が強く、普段の成績が奮わなくとも、いざという場で強さを示せば、頭脳を示せば、国の役に立つ交渉・企画力があれば──所謂、一発逆転を狙えるチャンスなのである。
「魔物だとバレたくないなら、他のものに形を変えればいいんじゃないか? こないだもやっていただろう」
ラームスの案は、キッカも既に一考していた。
事情を話した際、ラームスには、スライムの紹介がてら何が出来るのか軽く実践して見せていた。
つまり、スライムを水宝玉のような見目のブレスレットに変化させたのだ。
ただ──
「時間が……」
キッカは言い淀んだ。
わたしの従魔、と言った手前かなり言い難いが、スライムにも嗜好はある。
基本、意思決定がキッカにあり、スライムがそれに逆らわないのは事実だが、キッカとスライムは一般的な従魔のように、主従の契約に縛られているわけではない。
《汝トハ己有己トハ汝成》の、名残──
言葉は交わさずとも、こうして回路か繋がっている以上、スライム側からも、ちょっとした感情は流れてくる。
窮屈なのは嫌だ、とか──
「時間?」
「……動くから」
「動く?」
「アクセサリとか、動けないモノに長時間変わってると、絶対動くから。のびするみたいに、形崩す……」
どれだけ宥め賺しても、どうにかなるものではないのだ。
キッカは恥を忍んで告白した。
魔物にしては可愛らしい反駁だが、人前でやられたら終わりである。
魔物も魔族も不自由を嫌う。スライムも例に漏れず、というわけだろう。
「じゃあ、動けるものに変化させればいいんじゃないか? 動物とか」
それも考えた。
しかしそれは何も、本物になれるわけじゃあない。
よく見れば陶器のようにツルリとしているし、使いどころを誤れば普通にバレる。
その点は、よくよく考えてみれば、色を変えられるようになったのは僥倖であった。戦場じゃ役に立たないが、遠目から見たら色のおかげが、前よりは幾分正体を誤魔化せる。
戦わないキッカにとっては、ベストな成長の仕方だ。
昼日中はちょっと怪しいが、夜間や薄暗い場所でなら、ラームスの言う通り動物の姿になってもバレないだろう。
「……まあ、色々考えてみるよ」
──確実な方法が、あるにはあるのだ。
「それで、お前はどこにいくつもりなんだ?」
「へ?」
「そもそも、それを尋きに来たんだ」
ラームスが言う。
スライムの話が本題だと思っていたが、どうやら違ったらしい。
「……ラームスは?」
「俺はラーディクスの紹介で、騎士団に訓練生として行くつもりだ」
「ラーディクスお兄さまの……」
「ああ。あいつの所属は、《アストラの戦い》で英雄と言われた男が率いているところなんだ。どんな鍛錬をしているのか、楽しみだ!」
長兄の紹介なら、変なところではないだろう。
無愛想で、キッカの前では殆ど喋ったところを見たことがないが、多弁な魔術師に比べれば信用できる。
ラームスの目も輝いているし、キッカとしても、強くなるためには是非頑張って来て欲しい。
「で、お前は」
「まだ決まってない」
内心、少しだけ、ラームスと同じ場所に、なんて気持ちもあったが。
行き先が騎士団なら、わたしに出る幕はない。
成績さえ良ければ考えただろうが、成果を求められる現状、一番行くべきでない場所だ。
「……お前が嫌がるのは解ってるが、一応、言っておくぞ」
「?」
「お前が望むなら、俺は連れて行ってやれる」
ラームスは、スライム相手にキッカの身を案じたのと同じ顔で、そう言った。
「お前の力なら、騎士団で十分な功績を残せるはずだ」
「…………はは、」
キッカは一瞬、呆気にとられて、やがて困ったように微かに口角を上げた。
ラームスがキッカの強さを高くかっているのは、仕様がないこととはいえ、正直不満だ。そもそも、誰にも知られる筈じゃなかった力である。
それを、この男と関わるようになってからというもの、己の命を守るために己が降した判断とはいえ、捨て置くつもりだったモノを、わざわざ磨き直すハメになっている。
けれど──
(それは、この強さを理解しながら尚、ラームスがこの身を案じていることの証左だ……)
気にしないように、と思ってはいても、やはり似ている。
キッカは、真っ直ぐこちらに向けられた瞳を見上げ、ゆるりと首を振った。
「……嫌がるって分かってるなら、言う必要なくない?」
「進級出来ない人間は、殆ど退学するらしいぞ」
ラームスは眉を顰めた。
どこから伝わったか知れないが、どうやら成績の悪さが筒抜けだったらしい。
なるほど。それで、この提案か。
「……絶対進級するから、大丈夫。おにいさまはせいぜいご自分の心配だけなさってればいいですわぁ〜!」
「だが、」
「余計なこと考えないで」
キッカは、俯いたラームスの頬を両手で引っ張り、無理矢理目線の高さを合わせた。
「ラームスはラームスの、為すべきことを」
何を気にしているのか知らないが、政治や出世に興味がないラームスがその存在を知っているのだ。受け入れ先の将はさぞ有名な人物なのだろう。
なら行かなければ勿体ない。
実力者の集まる隊で研鑽すれば、今よりずっと強くなれる。
騎士科が幾ら武闘派といえ、内輪ばかりで仕合っていては、でかい飛躍は望めない。
それだけでない。ユグエンの軍の組織体制がどんなものかは知らないが、騎士団長と呼ばれるからには、カターリナで言うところの《三ツ首》の階級に近いのだろう。
将来のことを考えるなら、ここで団長の覚えめでたくしておいて損はない。
(……まあ、ラームスがそこまで考えているとは思えないけど)
ラームスがなにか言葉を発する前に、キッカはパッと両手を離した。
「おにいさまは、沢山強くなって、キッカを守る騎士になってくれるんでしょう?」
ラームスは、まだ晴れない表情で、「そうだな」と答えた。
「キッカはおにいさまが強くなって帰ってきてくれればそれでいいですわぁ」
「ああ」
「でも、魔力はあんまりひけらかさないように。現役軍人の魔力の使い方をしっかり観察して、それで勝手に試さないで、わからないことは周りに聞くこと。とりあえず、魔力を手足と同じように動かせるようになるまで、基礎の向上を優先したほうがいいと思うけど、身体が出来上がるにはまだ数年かかるだろうし、むちゃはしない程度に──」
「……お前は騎士科の教官のようだな」
「は?」
三年の教官って確かムキムキマッチョの……
「は???」
オイ今わたしは禿げた筋肉だるまのオッサンと一緒に並べられたのか? こんなに可愛い妹を?
「何かあれば、いつでも手紙を送れ。あと、行き先が決まったら教えろよ」
「…………」
「おい、」
「……知っての通り、わたしは何かあってもたいてい自分でどうにかできますし。わたしの心配なんかより、セレニアさんたちと有意義なアウティングを過ごす方法でも考えたほうがいいんじゃなくって?」
「なんでセレニアも一緒に行くこと知ってるんだ?」
聞いたのか? いつの間に仲良くなったんだ? とラームスが首を捻る。
……ほんとにセレニア嬢と一緒に行くのか。
別に知っていたわけじゃない。言ってみただけである。
ほんとに行くのか。
キッカはくるりと踵を返し、ラームスに背を向けた。
「おい!? 話はまだ終わってないぞ!」
「うるさーーい!! キッカだってイケメン連れて楽しくアウティングしてくるもん! ラームスこそ、いっつもぐちぐち、お父さんみたい!」
「おと……ッまあ、兄だから、近くはあるか……?」
困惑するラームスを放って、キッカはドタバタ寮までの道を戻っていった。
なんだか腹が立ってしょうがない。
ラームスがいっつも口煩くするから、こっちだってむしゃくしゃするのである。絶対そうだ。
(……まあ、楽しいアウティング以前に、こっちは行き先見つけるところからなんだけど)
ラームスには絶対に頼りたくない。セレニア嬢とよろしくしてくるみたいだし。絶対頼りたくない。
とはいえ、キッカにはラームスとアメリア以外に友がない。
他に頼れる先を挙げるなら、ダメ元でお母様に相談してみるくらいか。あの人はキッカのことが大好きだし、なんだかんだ泣きつけばどうにかしてくれるかも──
「キッカちゃん、」
ツラツラと考えながら歩いていると、第九塔の脇を過ぎたあたりで、後ろから己の名前が聞こえた。
キッカは一瞬顔を顰めたが、すぐにいつも通りの愛らしい笑顔で振り返った。
「いかがされましたのぉ? ディスカードおにいさま〜」
視線の先から、「奇遇だねえ」と、男が手を振り近づいてくる。
口許が引き攣りそうになるのをなんとか耐えながら、キッカは小首を傾げた。
この苦手意識は、偏見が多分に入っているものと分かってはいるが、この男は、どうも……
……や、そうでもないな。手紙の件ではこいつも大概なことをしていた。
「ボクらの父親は、あんまり干渉してくるタイプじゃないと思うけど」
「?」
脈絡のない言葉に、キッカは更に首を傾げる。
ディスカードは、その顔を覗き込んだ。
「お父さんみたい!! ……って、怒鳴ってたじゃん?」
(……聞かれてた)
人気のない場所とはいえ、あれだけ騒いでいれば耳に入るか。
近くに気配は感じなかったが、自分もそこまで気を張っていたわけではない。
魔術で誤魔化されれば、気づかないこともある。
(というか……)
全然、奇遇じゃない。
尾けてきたわけだ。しかも隠す気もない。
「せけんいっぱんのおとーさまのイメージですわ!」
しかし、キッカは気づかなかったことにして、寮に向かって歩き出した。
突っ込んだほうが面倒なことは目に見えているし、魔術師と口論したところで勝ち目はない。
何の用か知らないが、ディスカードはその後をついてきた。
「うちの御父上様は無愛想だからな〜。ボクなんて、殆ど事務的な話しかしたことないよ」
「…………」
キッカは事務的どころか、口をきいた記憶がほぼないが。
侯爵の声を聞くのはいつも、母や、別の人に声をかける時だけだ。
だから勿論、キッカが思い浮かべたのは、侯爵様ではない。
別の──ただの、一兵卒の男だ。
「あ、そういえば御父様の話で思い出したけど、キッカちゃんてアウティング先決まった?」
「……まだですわぁ」
ラームスといい、同じ質問をする兄弟だ。
次兄はどうせ決まっているのだろう。
成績優秀な魔術師らしいし、この魔力量なら引く手数多の筈だ。
「ボク? まだ決まってないよ」
「えっ」
意外である。
何故? と尋ねようとしたが、聞くまでもなくディスカードはペラペラと語りだした。
「だからキッカちゃんのアウティング先聞いてんの」
「? どうして……?」
「おとーさまだよ、おとーさま! アウティングって人によっちゃ国外まで出る可能性あるでしょ〜? 二人がハイネンヴァルトの家名に泥を塗ることがないか心配してるんじゃない?」
「なるほど……?」
「だから決まってないとか困るんだけど。これで落第したら、キッカちゃん退学させられそ〜」
「キッカ進級するもん! ……え、ていうかキッカ、ディスカードおにいさまと一緒にアウティング行くことになりますの?」
「えっなに。キッカちゃんが嫌ならラームスの方についてくけどぉ〜? まったく冷たいなあボクの妹は!」
「い、嫌だなんていってませんわ!? でも、その、そもそも行く場所が……」
「そこらへんはだぁいじょぶ。ボクに任せて」
「えっ」
「じゃ、決まりだね」
「はっ?」
詳細はまた送るから! と言うや否や、ディスカードはさっさと姿を消してしまった。
どういうことだ。
「……この話をするために、尾けてたの?」
話をした途端あっという間にいなくなってしまったのだから、つまり、そういうことなのだろう。
認めたくないが、この少しの間に、己はディスカードとアウティングに行くことになってしまったらしい。
(……なんか、)
ホリデーと、同じ展開のような……
キッカは呻いた。
考えすぎだろうか。また、ラームスと一緒にするのが不安で、引き受けてしまったが。己ばかり割を食っている気がする。
実の兄弟なのだから、普通に考えて、自分の警戒しすぎだと思うのだが──
(……魔禩書と誓約がチラつく)
学園で初めて対面した時のインパクトが強すぎた。特に魔禩書の所持。これで警戒するなと言う方が無理な話だ。
「お父様め、余計なことを……」
決まってしまったものは仕方がない。
キッカは、ディスカードに下二人の監視を任せた父に、見えないところで悪態をつくしかないのだった。




