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転生した魔王殺しの騎士は、か弱いプリンセスに憧れる  作者: 陽譚子
【第二章:砂城の約束 前編】
22/74

硅砂の剣2






 ──確かに。

 同行を許したのは自分だし、そもそもそうなったらラッキーぐらいに思っていた。ラームスがキッカを構う理由にも、キッカ自身にも気になるところがあった。そして、彼女が弟の弱みになることは先日の()()で証明済だ。何か使いどころもあるかもしれないと、そう思っていたのだ。

 今は後悔している。

 



 

 ディスカードは、第三塔(研究棟)第五塔(実践棟)を繋ぐ廊下でラームスを捕まえた。

 遡ること、剣闘試合から一週間ほど前のことである。


 何故そんなところで──というのは単純な話。弟が呼び出しに応じないからだ。ここ暫く避けられている気さえする。何かあれば直接言ってくるタイプだろうに、珍しいことだ。

 そういう事情もあり、ディスカードはわざわざ彼が通りかかる時間を狙って自分から出向いたのだった。


「なんの用だ?」


 問われて、ディスカードは首を傾げた。

 予想に反し、ラームスの態度が平然としていたのだ。

 

(……キッカに女生徒をけしかけたこと、バレてない?)


 てっきりそれが原因で避けられているものと思っていたが……まあでもそれなら避けるのではなく、殴りかかって来るか。

 ──じゃあ何故避けられているんだ?


「おい。用があるなら早く言え。お前と二人きりになるなとキッカに言われてるんだ」


 ラームスが怪訝な顔で言った。

 ──なるほど。

 キッカはディスカードに嵌められたことを何故かラームスに言わなかったようだが、まるきり莫迦でもないようだ。きちんと警戒している。寧ろ、それを直接本人に言ってしまうラームスの方が、デリカシーも警戒心にも欠ける。

 

(……しかし、不思議なもんだな)


 ディスカードは己の顎をさすりながら、その違和感について考えた。

 妹が()()を言うのは妥当だろう。

 直接言葉を交わした時は、莫迦すぎて皮肉にも気づかないかと思っていたが。そうではないと今わかった。

 先日の件は、「面倒臭。今後一切ボクに頼らないでくれる?」というディスカードの意思表示であったが、正直恨まれるようなことをした自覚はあるし、恨まれても痛くも痒くもない相手だから実行した。

 だから、不思議というのはキッカの発言ではなく、理由も何もわかっていないだろうに、彼女の言葉に素直に従うラームスに対してだった。

 最近仲が良いとは思っていたが、ここまで信頼があるとは。


 ディスカードが黙っていると、ラームスは焦れたのか、「もう行くぞ」と踵を返そうとした。

 そもそも、当初の用件は二人の関係どうこうとは関係がない。ディスカードはひとまず余計な思考を追い出し、慌ててラームスを引き留めた。


「待って待って。賭けをしない?」

「は?」

「剣闘試合で、魔導科(セレマクラス)騎士科(ナイトクラス)のどっちが勝つか、兄弟で賭けない? ってハナシなんだけど、」

「お前、試合に出るのか」


 ラームスが驚いた顔をする。

 そりゃそうか。上の兄やこの弟と違い、己は六年間、一度も剣闘試合に出たことはない。

 そして、これから出る予定もない。


「や。ボクは出ないけど」

「じゃあなんで……というかそもそも俺に賭ける理由はない」

「え〜…あ。そかそかぁ。そういやラームス去年魔導科(ウチ)にボコボコにされたもんね。そりゃ怖いか……」

「こわ……ッ!? そんなわけないだろう!!」

「じゃいーじゃん」

「そッ……や。だが、」


 ──?

 少し挑発すれば簡単にノッてくると思っていたが、やけに頑なだ。

 むぐむぐと口を動かし、ディスカードへの反駁の気持ちと、何かの間で迷っているように見えた。


(……この否定、ラームス起点のものじゃないな)


「キッカちゃんに言われたの、【二人きりで話すな】だけじゃないね?」

「ッなにを、」

「もしかして、ボクと《約束》するなとか言われた?」

「…………」


 ──当たりか。

 そこら辺、この男は分かりやすくて助かる。しかし、これは──


(……余計気になるな)


 《約束》をするなというのはつまり、キッカは《魔術師》のなんたるかを知っている。

 莫迦に見えたのは演技だったのだろうか。《本》の件といい、ちょいちょい箱入りに見合わぬ知識を匂わせてくる女だ。

 偶然でないなら、いったいどこで知ったのだろう。

 ディスカードは首を捻りながら、口を開いた。


「ふぅん……ラームスがノッてこないなら、またキッカちゃんにちょっかい出しちゃおうかな〜」

「どういうことだ?」


 わざとらしく言うと、ラームスが片眉を跳ね上げた。

 ディスカードはにっこり笑う。


「この前、なんでキッカちゃんが御令嬢たちに呼び出されたのかラームス聞いてないんだもんね? あの子からあんまり信頼されてないのかな?」

「何を言って……」

「元々落ちこぼれだから爪弾きにされてるけど、反対にボクって他(クラス)にも他学年にもオトモダチ多いじゃん? だからこないだみたいに、ちょ〜っとキッカちゃんについて誤解させるようなこと言っちゃっても、みんなボクの方信じるんだろうな〜って」


 キッカちゃんの友達作りも大変だね?

 爽やかな笑顔でそう言えば、言わんとする意味を理解したラームスは、勿論激昂した。


「なんのつもりだ、貴様……ッ!」


 胸ぐらを掴まれそうになったのを、ひょいと避ける。


「や、別に深い意味はないけど。あ。賭けはお前が自身が勝たなくてもいいよ? ボクも出ないわけだし。最終的に騎士科が優勝すれば、それでそっちの勝ちでいいよ。優しい条件でしょ、毎年騎士科が優勝してるんだから」

「……なめるなよ。ちゃんと俺が勝つ」


 うわちょろ〜。

 ディスカードは内心嘲笑した。

 キッカを引き合いに出せば、ラームスは簡単に勝負に乗ってくれるようだ。彼の能力を脅威に感じたことは無いが、力でも言葉でも脅しの通じぬ頑迷さは些か面倒であった。

 それが、思わぬところに弱みが出来たものだ。


「俺が勝ったらキッカに謝れ」

「……まあ、いいけど」

「お前は何が望みだ」

「え〜? ボクはちょっとした兄弟同士の遊びのつもりだったけどぉ……ま、そっちが条件出してくるならボクもそうしないとフェアじゃないよね。謝罪でもなんでもいいよ。負けたほうが一個勝者のお願いを聞くってことで」 

「構わんが……俺以外に害のある頼みは聞かんからな」

「……へえ〜? 弱気だね。もう負けるときの心配?」

「負ける気はないが、お前がキッカにしたことを思えば、キッカに関わることを言ってきてもおかしくないからな。一応言っておいたまでだ」


 弟の癖に察しが良い。いや、元々勘は良いのか。

 ラームスの言う通り、最初賭けを持ちかけた理由は別として、今のディスカードはキッカについて聞くのもアリだなと思っていた。

 しかしこの様子では難しそうだ。頑迷極まるこの男は、他人の言葉で前言を撤回したりしないだろうし。魔術に頼れば手はないでもないが、流石にそこまでしてキッカのことが知りたいわけでもない。


「……オーケイ。いいよ。わかった」


 約束、忘れんなよ。

 そう言って、ディスカードはラームスに背を向けた。


(キッカちゃんがラームスの弱みになってるのは間違いなさそうだけど、逆に言うとキッカちゃんに探りを入れようとすれば、ラームスが邪魔してくるわけか……)

 これは調べるのも難しそうだな──と。

 ここでディスカードは、あることに気がついた。


 ラームスはこの通りだが──()()()()()()()()()()()


 つまり、ラームスの弱みがキッカなように、キッカもラームスが弱みになり得るのでは、ということだ。

 でなければ、ディスカードの興味を惹くきっかけになったような忠告を、ラームスにしないだろう。もしそうなら──


(……ラームスが、キッカを誘き寄せる餌になる)


 ディスカードは個人的に、近々隣国に行く予定があった──言ってしまえば今回の旅の話だ。

 私用のため、ハイネンヴァルトの私兵や移動手段は使わない方がいいだろう。申請が面倒くさい。

 同行する予定の男は、大抵のことがあっても問題ないくらい強いが、他国(よそ)の王子様を顎で使うわけにはいかない。

 でも、ディスカードは荒事や雑務が嫌いだ。

 だから、道中諸々の雑事をしてくれる小間使いが欲しかったのだ。当初の賭けの目的はそんなものである。


(上手く行けば、ついでに妹の謎も解けるか?)


 失敗したとて別に損はなし、さて。

 妹はどう出るだろうか?





 ──で、計算通りにいったのだが。

 賭けに関しては途中イレギュラーはあったものの、レックスを闘技場に引き摺り出した時点で、ディスカードの勝ちはほぼ見えていた。

 問題は、弟妹の関係性を甘く見ていたことだ。

 おかげでディスカードはたいへん気(まず)い思いをしている。


(いやキッカちゃんも大概じゃない〜!?)


 ラームスの態度がおかしいのは先日の控室から感じていたが、キッカからのそういう──()()()()()はないと、ディスカードは踏んでいたのだ。

 知る限り、キッカの好む男は絵本に出てくるような王子様だ。つまりレックス。実際、初対面で交際を申し込まれたような話も聞いているし、今日だって、彼の姿を目にするなり黄色い声をあげていた。


(……でもラームスへの反応の方が()()っぽいんですけど!?)


 ディスカードの目に、二人はどうも兄妹の距離感には見えない。

 セレニアへの態度もそうだ。

 レックスの剣に惚れて──あの容貌(ルックス)だから、本当に剣だけかどうか知らないが──ついてきたセレニアに対し、キッカはかなり好意的だった。

 レックスに好意があるなら、ライバルになるだろうセレニアの手を取って、目を輝かせたりはしないだろう。

 元々彼女は同性に寛容に見える。友達が欲しいためだろうか。そこに負の感情は皆無に見えた。あれが演技ならとんだ役者だ。普段からもっとまともな御令嬢を演れるだろう。


 それが、ラームスがセレニアを連れてきたと言った時の、あの反応。


「完全にヘソ曲げてんじゃん……」

「なに?」


 レックスが振り向いて首を傾げる。

 ディスカードの呟きは、ガタガタと揺れる馬車の音にかき消された。


 乗り合い馬車は、ユグエンとカターリナを繋ぐ道をノロノロ走っている。

 馬車の乗り心地は良くはない。馬車というか、最早荷台に近い造りで、辛うじて座るために拵えたであろう段差はあるが、粗末なもので馬が一歩進むたびにガタガタ揺れた。

 仮にも王族にこんな不便な旅路を強いるのは如何なものかと思ったが、レックスはなんともなさそうだ。強靭な肉体にこの程度の刺激は誤差らしい。

 ラームスもセレニアも、流石は騎士科といったところか。特に文句を言うこともなく座っている。

 そして、問題のキッカだが──



「今日はどちらでおやすみするのかしら? どんなものがあるのかしら? お店を見に行く時間はある?」

「あら! かわいいお花が咲いてますわぁ!」

「鳥さんが飛んでますわ! あんな綺麗な色の小鳥さん、初めて見ましたわ! なんていう名前なのかしらぁ〜?」



 ──めちゃくちゃ元気である。

 特に機嫌を損ねた様子もなく、ラームスの膝の上でバタバタと騒いでいる。

 それに対しラームスは、「どうだろうな」「うん」「そうだな」というように、律儀に相槌を返していた。

 あれだけ至近距離で騒がれれば、弟は「うるさい」とか「鬱陶しい」とか、声をあげそうなものだが。

 現に、周りの客の好奇の目を集めるキッカに、近くにいるセレニアはげんなりした顔をしているし、レックスも苦笑いを浮かべている。

 かく言う自分も、連れてきたことを早々に後悔している訳だが。


「元気だね、彼女……まあ、馬車が辛そうでないのはいいことだけど」

「いやごめん。あそこまで騒がしいと思わなくて」

「俺は構わないけど……やっぱりあの二人って、」

「それは言わないで」


 レックスが言わんとしていることを察して、ディスカードは言葉を被せた。


「弟の方はあれでそれなりに優秀らしいんだけど……そりゃキミほどずば抜けちゃいないけどさ」

「……うん。試合の時も、気絶させるつもりで殴ったけど、意識あったしね」


 肯定されたことに、ディスカードは少しホッとした。

 明言されたわけではないが、レックスはラームスを嫌っているように見えた。だから最悪、この前のような罵倒が飛び出してくるかと思ったのだ。

 しかしどうやら、そこまで毛嫌いされているわけでもないらしい。


(ラームス本人がどうこうっていうより、例の『鎧の男』関係なのかな)


 まあそうでもなければ、ラームスはいったい何をしでかしたんだという話だ。

 レックスは基本、あんなあからさまな態度をとる男ではない。現に、キッカの迷惑行為は苦笑で済ませてくれている。

 ディスカードの中ではレックスは勿論、ラームスもそこそこ有用な存在だ。出来れば良好な関係を築いて欲しかった。


(……あ、ダメだ。こっちが良くてもあっち最悪だったわ)


 さっきもレックスのこと睨みつけてたしな。

 ディスカードはラームスの方を振り返るが、視線を向けられた本人はキッカの方を見て、まだ彼女のはしゃぎっぷりに朴訥な返事をし続けていた。

 あんな適当な相槌で、はしゃぎ続けられるキッカもキッカですごい。


 ディスカードはまた、馬車の進行方向へ視線を戻した。


「そうそう。だから何を思ってあのへんてこな妹に構うんだか疑問でさ」

「……ああ、それで妹も連れて来たのか」

「ボクが連れてきたわけじゃないからね?」


 これだから魔術師の好奇心は、と生温い顔で見られたので、慌てて否定する。

 そうなるように謀ったのは自分だけど、というのは心の中に留めておく。


 しかし実際、キッカに関しては、己が誘ったわけではない。

 そもそも乗合馬車の旅なんて、一番向かない人種だろうし、好奇心を置いておけば足手纏いにしかならないから、連れて行くメリットもない。戦力に数えられるセレニア嬢とは違うのだ。

 ……まあ、メリットより好奇心が勝ったから、こうして同行しているわけだが。これは魔術師の悪癖なので、もうどうしようもない。


「あの弟に直接聞けばいいんじゃないかな」

「きいたきいた。最近は避けられてるから、結構前の話だけど。なんか、一緒にピンチを乗り越えて友情が芽生えた的なことらしい」

「ピンチ?」

「確か二人ともEKC(カレッジ)入学前だったから、四、五年前かなぁ? 屋敷の外で野盗に襲われたんだって。そのあとラームスの方がキッカちゃんに構うようになったの」

「領内で? 随分物騒な話だね」

「丁度、魔物が活発になり始めた時期だったんだよね。兵がそっちに割かれてたんじゃない? 詳しく知らないけど。他国から流れてきた人攫いだったらしいし。まあユグエン(うち)の国民なら、ハイネンヴァルトでひと仕事しようなんて思わないだろうね」

「よっぽど無知じゃなきゃ他国民でも思わないよ」

「そんなにハイネンヴァルトを評価してくれてるの〜? 妹娶る?」

「…………」

「だめかぁ〜」

 レックスが黙って苦笑するのを見て、ディスカードは肩を竦めた。

「まあキッカちゃんてちょっと気になる言動が多いし、なんか解ったら教えたげるよ」

「いや別にいいよ」

「そんなこと言わずにさぁ〜…お () ()  さん」

「ははは。執拗(しつこ)いよ?」


 レックスが笑い声を上げたが、今度は真顔だった。

 そんなに嫌か。哀れ、妹。

 ディスカードは薄い木の背凭れに凭れ掛かり、頭の後ろで手を組む。


「悪くない条件だと思うんだけどなぁ〜? 今のカターリナに、ハイネンヴァルトの家名はもってこいでしょ。一応名高き騎士一族で通ってるし、なによりこのボクと親戚だよ? ボクほどの魔術師なんてカターリナにいる?」

「その自信はどこから……?」


 レックスは呆れた顔をしたが、頷いた。


「……まあ、確かに。カターリナ(うち)の婚姻相手に、ハイネンヴァルトの名は申し分ないと思うよ」

「魔物狩りもわりと得意だしね。対人戦ならともかく、今の時代魔物を殺し慣れた兵士って貴重でしょ?」

「うん」

 レックスは素直に肯定した。


()()()()()()()()()()()()()()()


 口調は穏やかだが、顔を見なくても反論が許されないことはわかった。


「あー…そうね」


 前にも似たやりとりをした気がする。

 その時は、ディスカードの方が彼の婚約者に言及し、王になることを焚きつけたのだ。

 どうやら、彼は本気の本気らしい。

 些か意外だが、それなら相手はもう決まっている。


 《エリザベス=ミア・カターリナ》──彼女こそ、王の伴侶。

 国母となるため育てられた公女だ。


「……エリザベス嬢ほどの女性が相手なら、キッカちゃんに勝ち目はないかぁ」

「そういう意図で言ったわけじゃ……」

「流石に差は歴然でしょ。容姿端麗、格調高雅、立ち振る舞いは優婉閑雅。まさに理想の淑女(レディ)エリザベス嬢と、キッカちゃんだよ? 良いとこなんて顔と家柄くらいしかないし。頭だけじゃなく身体も貧相だよ」

「女性をそんな風に言うのはどうかと思うよ」


 レックスが嗜めるが、否定はされなかった。彼も健全な男のようだ。残念ながら、ラームスのように変な趣味は持ち合わせていないらしい。


「あ〜あ。ロイくんがキッカちゃん貰ってくれたらな〜って思ったんだけど。つーかあの二人どうにかして」

「家の問題は家族で解決してくれ……そもそも、俺たちの邪推かもしれないし」

「だといいけど……」


 背後を振り返ると、会話を交わす──おそらく授業についての話だろう──ラームスとセレニアを見て、頬を膨らませているキッカがいた。


(これ邪推かあ〜〜?)


 ディスカードは、家族のそういうのに関わりたくねえな、と思いながら口を開く。

 何故なら、草ばかりの地面が途切れ、目前にクリーム色の外壁と、茶色い屋根の連なりが現れたからだ。



「みなさぁ〜ん。国境、着くよ」





#





 泊まる宿の名前は《狐の前足亭(フクスフォフース)》。

 それはきちんと覚えている。

 宿屋で夕飯を食べるそうで、時間まで街を見てきてもいいという話になった。 ディスカードたちはその間に、国境越えの手続きを済ませるそうだ。

 だから、キッカはラームスと共に宿を出た。

 街には見たことのない食べ物が色々とあったが、逆に言えば食べ物意外あまり昔と変わりなかった。鉄の加工品が多く並ぶ、カターリナによくある光景だ。この街を境にカターリナに入るようだから、そちらの影響を受けているのかもしれない。

 キッカは知っているような知らないような街並みの中、鈴の鳴るような声で叫んだ。

 

「おにいさまあ〜!! ラームスおにいさま〜!!」


 ──まさかラームスが迷子になるとは。

 キッカは微塵も己が迷子になったとは考えず声を張り上げた。

 馬車駅があるくらいだから、街の治安はそう悪くないと思うが。無事宿に戻って、みんなと合流出来ているだろうか。

 そう考えながらキッカも宿に向かっていたが、何故か街の端っこに辿り着いていた。

 何故。

 街の外に広がる平坦な大地をしばらく眺め、やがて、くるりと元来た道に戻るため、後ろを振り向いた。


「わ、」


 思わず声が漏れた。

 目の前にでかい壁が出来ていたからだ。



「──迷子か?」





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