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魔術師は嗤う





「や、すごかったね。二回戦も突破おめで──」


 片手を上げて、口を開いたディスカードの目の前を、男は競歩のような速さで横切っていった。


「──とう、って。え。どしたのロイくん!?」


 ディスカードが叫ぶも、彼に振り返る気配はない。慌てて後を追う。


「ね、ちょ。どこ行くんだって」

「キミ、さっきの俺の対戦相手がどこに行ったか知らない?」


 ついてくるディスカードには気づいていたのか──ということは気づいていて無視したというわけだが──足を止めないまま、男は尋ねた。


「え? ……いや、知らないけど。救護班の手ぇ借りなくても歩けてたみたいだし。控え室に戻ったんじゃない?」

「わかった」

「待て待て待て! わかったじゃないよ! キミの出番もう次だから! 今始まった試合の進行によっちゃ直ぐだから! ハイここで待機!」


 どうにか押し止めようと腰に手を回してふんばるが、男は意に返さず突き進んでいく。とんだ馬鹿力だ。


 確かに、試合に出るよう頼んだのはディスカードで、出場は彼の意思ではない。

 しかし、その頼みを承諾したのは彼だ。

 特別な魔術を施したわけではないが、それでも一種の契約状態にあるわけで。

 この男だって、魔導科(セレマ・クラス)の人間である以上、魔術師と約束するというのがどういうことか、わかっている筈だろう。

 にも関わらず、それを違えようとするのは、それほどの何かがあの対戦相手にあるということか?


「ねえ。なんでそいつのこと探してるの?」

「……気になって」

「だからなんで気になるんだって。確かにスピードはかなりのもんだし、魔力操作も学生にしては卓越してたと思うよ? けどあれくらい、キミんとこの騎士団にも腐るほどいるでしょ」

「腐るほどはいないよ……」

 男は一度迷うように口を噤んで、「それに、」と言葉を続けた。

 

「それに……アレは、本気じゃなかった」

「……本気じゃない?」


 ディスカードが怪訝な顔をする。

 ──わざと手加減をしているようには見えなかったが。


 その表情に気づいたのか、男は「そうだね」と素直に頷いた。


「彼の焦りも、逡巡も、たぶん、本気だったと思うよ」

「じゃあどういう意味?」

「うん……本気なんだけど、全力ではなかったというか。二回戦目が始まる前、というか。一回戦が終わった時に、《十四番》からすごい圧力(プレッシャー)を感じたんだ」

「ふーん? 挑発されたわけ」

「いや。挑発というより、牽制されたような……」


 原因は俺の一戦目だと思う、と男は困ったような表情を浮かべた。


 一戦目の相手も、なかなかに強かった。

 いや、強いというより、正確には頑強だった。

 己に敵うほどの危険は感じないが、しかし向こうもなかなか倒れない。

 だから、魔術を実践で練習する良い機会だと思っていたレックスも、焦れて思わず手を出してしまったのだ。


「たしかに思いっきり拳でいってたよね。魔導科(セレマ・クラス)の最上級生が」

「面目無い……」


 相手は地面に倒れたものの、しかし意識は保っていた。大したタフさだと感心したものだ。

 そのため、審判が勝敗宣言を躊躇った。

 ──それは困る。

 起き上がった相手がそのまま降参してくれればいいものの、そうならなかった場合、試合は続行される。

 レックスは元来、そこまで手加減が得意な方ではない。思わず力が入って大怪我させたら大変だ。

 だから、試合を早く終わらせたかった。


「あー…アレ、本気だったの?」

「まさか」


 レックスが首を振る。

 つまりレックスは早々に決着をつけるため、周りに転がった石の礫を、魔術で空高くに運び、起き上がれない対戦相手に向けて撃ち据えようとしたのだ。

 勿論それは、すんでのところで焦った審判の勝利宣言によって止められたが。


「審判が何も言わなくても、一応寸前で止めるつもりだったよ。……でも、鎧の彼はそう思わなかったんだろうね」

「あー…なるほど?」

「一回戦目の相手、友達か何かだったのかな」


 試合が終わったあと、殺気立った気配を感じとって、驚いてレックスは振り返った。

 殺気に、ではない。まるで、重力がそこから発せられているかのような、重苦しい存在感。それに驚いたのだ。

 そこには、小さな鎧が立っていた。

 体躯に見合わぬ威圧感。目に見えぬ重圧は、おそらく、その腹で塒を巻く魔力の坩堝が発していたのだろう。

 それが自分に向けられているのを感じて、一瞬だが、確かに悪寒が走った。


「魔力が向けられた? え、なに。魔術師だったの?」

「いや、風属性(ソード)じゃないかな。魔術で攻撃されたんじゃなくて、身体から漏れ出た魔力だけで、ゾクリとさせられたんだ」

「ふぅん。それはまた」


 この男がそこまで言うなら、ほんとうに只者じゃなかったんだろう。

 ディスカードは指先で唇なぞり、思案した。

 ──さて。どうしようか。


 語り終えた男は、黙って歩みを進めた。

 ディスカードも、今度は喚き立てて止めることはしなかった。


 結局、対戦相手は控室にいなかった。



「あら〜…残念だったね」

「探しに行く」

「待て待て待て」

「なんだい」

「だからもうすぐ出番だっての!」


 ディスカードが手首を掴み、逸る男を止める。

 頭を冷やしてもらうため、ここまで黙ってついて来たが。これ以上探し回ると、本当に次の試合に間に合わなくなってしまう。

 それはディスカードにとって、あまり面白くない結末だ。


 掴んだ手を振り払うことなど、体格でも膂力でも勝る男には容易いだろう。

 しかし、それをさせないのが魔術師(言葉を繰る者)の力である。


「何もボクは諦めろって言ってるわけじゃないよ。ちゃあ〜んと約束さえ果たしてくれれば、ボクが良いこと教えてあげる。闇雲に探すより、ずっと確実だと思うよ?」

「…………何か、心当たりがあるの?」

「うん。キミの一回戦目の相手、ボク知ってる」


 やっと、視線がこちらに向いた。

 頭ひとつ上から、無表情で尚冴え渡る美貌が、ディスカードの目を覗き込んでいる。

 対照的に、ディスカードは唇を釣り上げて笑った。

 男の(はしばみ)の目に一種剣呑な色が映ったが、それは瞬きの間に霧散して、小さな頷きに落ち着いた。


(──実力行使で聞き出すのは、踏みとどまってくれたか)


 せっせと積み上げてきた関係値が功を奏したようだ。己の努力の賜物である。

 

「じゃ、ま。納得してくれたみたいだし戻るとして……」

 目下最大の目的である、男を会場に戻す、というミッションはひとまず達成出来そうだ。

 となると、今度は他のことが気になってくる。魔術師というのは元来、好奇心が強いものなので。「……でもさ、強そうだからって理由でソイツ追いかけてんの?」


 会場までの道すがら、男に問いかける。

 これもかなり気になっていたのだ。

 レックスは強いが、戦闘狂ではない。強い人間に特別興味があるタイプでもない。

 相手が敵なら話はまた違ってくるだろうが。今回の相手は、こちらを気に食わないと思っていたところで所詮は同じ学園の生徒である。


「……なんとなく」

「それは流石に通らないでしょ。ほんとならボクとの約束ってその程度なんだ〜!! って泣き叫ぶけど」

「……いや。()が──」


 男は言いかけて、しかし、口を噤んだ。

 

「メ?」

「……いや、気のせいだと思う」

「なにそれ。ボクが泣いたら魔導科の研究室が一つ涙に沈んだのをキミ知らなかったっけ?」

「それはキミが魔術で…………はあ、」


 根負けしたか呆れたのか、男はひとつため息をついて、「魔力光は知ってるよね」と尋ねた。

 ディスカードは馬鹿にされたのかと思い、「知らないわけないじゃん!」と答えた。


 大・中規模の魔術を使えば、大抵の陣は光る。

 主にそれは地魔術(ペンタクル)によく現れる特徴だ。

 魔力はひとところに一定以上の濃度で収縮されると、属性がなんであれ発光する性質を持っている。

 ただ、魔力を流動的に扱う火属性(ワンド)や、そもそも体内で魔力を扱うことが主な風属性(ソード)には、稀な現象だった。


 レックスはそれを、あの、割れた鎧の隙間に見たという。


「……風属性(ソード)だよね?」

「おそらく」


 対戦相手のヘルムを砕いた時、鎧の暗がりに光が走った。

 一瞬だが、ハッキリと見えたのは夜空のような深い青。

 そして、バチバチと爆ぜる、火の粉のような赤と金色。

 ──燃えるような、沈黙の青。


「風属性で魔力光が見えるってことは、相当魔力のコントロールが上手いか、体内の魔力量が多いか……どちらにせよ珍しいね」


 ディスカードが、過去の事例を頭の中から引っ張り出しながら呟いていると、気づけばまた男の背中は遠くなっていた。

 切り替えの早い男だ。彼の足は、真っ直ぐ会場に向かっている。

 こちらはまだ聞きたいことが残っているのだが、しかしディスカードにとって一番の目的は、彼を試合に出場させる──ひいては、試合に優勝させることである。ここで引き留めるのは本末転倒だ。


(……後にするか)


 彼の対戦相手が強いことはわかった。

 珍しいこともわかった。──だからなんだ。


 確かにディスカードは、そんな芸当ができる風属性を数えるほどしか知らない。

 しかし、だからといってそれがレックスの興味を惹く事柄とも思えない。

 何故なら先にも言った通り、レックスはディスカードと違って、別段強者に興味はない筈だからだ。


 ──いったい、あの鎧の騎士に何があるというのだろうか?

 




#





 カツカツカツ

 と、靴裏が足早に石を打つ音が通路に響く。

 ディスカードは魔力の残滓を辿り、人気のない第五塔の地下まで降りていた。

 その背後を、でかい影がぴったりとついてくる。


「便利なものだね」


 かけられた声に顔だけで振り返ると、男は、ディスカードの手許を興味深そうに見つめていた。

 ディスカードは返事の代わりに肩を竦める。


「そんなに万能なものじゃないけど。ま、今回はコレがあるからね」


 ディスカードは手の中のペンをクルクルと回した。


「弟の私物」


 対象の触れていた物が手許にあり、かつ対象は己の魔力でマーキング済み、加えて同じ血が術者に流れている──これだけ条件が整っていれば、探知魔術(ペンデュラム)の発動は楽だ。


「こんなこともあろうかと、くすねといたんだよね」そう胸を張って言うと、レックスは顔を顰めた。


「キミ、侯爵子息だよね……」

「流石のボクも、王子サマに身分を偽る度胸はないよ」


 貧民街(スラム)のような手癖の悪さだな、とレックスが困った顔をした。

 ディスカードは笑って手をひらひら振る。


 そう言う背後の男も、ただの王子と言うにはそぐわぬ力を持っている。

 こうして接する分には紳士然としているが、中身は剣闘試合を準決勝、決勝、と狂戦士の如く勝ち抜けたパワフルゴリラだ。

 今まで手を抜いていたのだな、と誰が見ても明らかなくらいの瞬殺だった。

 対戦相手も可哀想に。事情を知るこちらからすれば、早く終わらせたいのが見え見えの試合だった。あれならまだ、魔術の練習に舐めプしていた試合の方がマシだ。

 結局蓋を開けてみれば、彼の実力を片鱗でも見ることが出来たのは、二回戦目の鎧の男との試合くらいだった。相変わらず底は見えないが、学生の試合にあれ以上を望むのは難しいだろう。

 そう言った意味では、ディスカードは鎧の男に感謝している。

 が。感謝こそすれ、その身柄をレックスに引き渡すことに特段の抵抗はない。

 要は優先順位の問題だ。


 約束通り、ディスカードは、レックスを弟の元へ案内していた。

 先刻の男の態度からして、親の仇くらいの熱量だが。鎧の彼は八つ裂きにでもされるのだろうか。それなら、ラームスには詳しく伝えない方がいいかもしれない。庇われても面倒だ。


「ここだね」


 訓練場から離れた通路の、奥まった扉の前で、魔力の痕跡は途切れた。

 ディスカードはノックもそこそこに、返事も待たず扉を開ける。


「…………は?」


 そして絶句した。


 背後で「わあ」と小さな声が上がる。

 呑気な声だ。そりゃ背後の男からすれば他人事だろう。

 しかし、こちとら血縁だ。


「え。まてまてまて……え。なに。ラームス──」


 ──なんで半裸のキッカちゃん抱いてんのッ!?


 ディスカードの悲鳴は声にならなかった。

 部屋の中には探していた弟と、何故かセットで妹がいた。それも、弟の腕の中に。あられもない姿で。

 ほぼ下着じゃねーか。どうなってんだ。


 ラームスは突然の来訪者に、ギュッとキッカを抱きかかえ、「何の用だ。……後ろの奴は?」と警戒も露わに尋ねた。

 見ず知らずの男に妹を見せまいとする動きは、兄として当然だろう。いや当然なのか? なんかよくわからなくなってきた。とりあえず普通に起こして服を着せてほしい。


「あ〜…や。ちょっとボクの友達が、おまえに聞きたいことがあるみたいで」

「妹が寝たところだ。後にしろ」

「いやなんでキッカちゃん此処で寝てるの……」

「……俺の応援に来てくれたらしいが、疲れて眠ってしまった」


 なるほど。

 キッカは見るからに貧弱な体躯をしているし、応援だけで疲れてしまうのも頷ける。

 しかし、レックスがこちらを見て「ほら言ったでしょ」って顔をしてくるのがムカつく。ほんとに妾に召し上げてやろうかな。根回しは得意だ。

 キッカもキッカだ。やたらと女らしさに拘る癖に、この状況を見るに、女としての危機管理能力は欠如している。馬鹿かコイツ。


(いつの間にこんな仲良くなったんだ……)


 確かに最近ちょっと仲良いなとは思っていた。だから自分は二人の兄妹仲を利用して、()()()()()()()()()()()()()

 が、それにしてもこの状況は流石に……どれだけ仲が良いのかと邪推してしまう。

 基本家族のことに我関せずなディスカードも、血縁がそういう関係になるのは気不味いし、世間体も悪い。


 唸るディスカードを尻目に、レックスはずい、と前に出た。

 ディスカードにとっては目を白黒させる光景だが、レックスにとっては良くも悪くも、どうでも良かった。聞きたいことが聞ければそれでいいのだ。


「以前、庭園で会ったね」

「! お前──」

「キミに聞きたいことがあって来たんだ」


 レックスは下着同然の女子生徒に目も暮れず、本題に入った。


「キミは《十四番》の知り合いかい?」


 それは、貴族的な迂遠な言い回しも、儀礼も、なにもかも取っ払った直球の質問だった。

 ラームスは片眉を跳ね上げて答えた。


「何故そんなことを聞く」

「彼、もしかしたら俺の知り合いかもしれないんだ」


 彼と戦った時に気づいたんだ。レックスはそう言って、椅子に座るラームスを見下ろした。


「キミとも、一回戦で戦った」


 それを聞いた途端、ラームスは思い切り眉根を寄せた。

 明らかに不機嫌そうな顔に、ディスカードは驚いた。

 今までそんなに注意して見てきた訳じゃないが、弟にしては珍しい反応だ。負けて悔しさを感じたとしても、強い人間は素直に称賛するタイプだと思っていた。

 いったい、レックスが何をしたというのだろうか。


「オマエ、《十六番》か」

「それで、知っているなら教えてほしい。会って確かめたいことがあるんだ」

「知らん」

「え?」


 レックスが首を傾げた。

 ラームスは、もう一度言った。


「《十四番》なんぞ、知らん」

「でも、向こうはキミを知っている反応だったけど」

「……そうだな。話したことはある。だが俺と会った時も、奴は姿を明かさなかった。だから中身は知らん」


 すげなく答えるラームスに、レックスは怪訝な顔で問いを重ねた。


「じゃあ、キミは彼とどういう関係だ? 何故彼はこの試合に出た」

「何故というのはどういう意味だ?」

「俺の知っている男なら、腕試しで学生の試合に出たりするような奴じゃない」


 ディスカードに話すときはもしかして、と枕詞をつけていた割に、既に断定口調だ。

 よほど知り合いに似ていたのか、それとも──


「……俺の鍛錬に、付き合っていた。だからあいつは、試合に出た」


 俺と戦うために。ラームスはそう言った。

 レックスが目を細めた。


「キミと戦うために……?」

「ああ」

「何故」

「さっきから何故何故とうっとおしい男だな。見てわかる通り寝てるやつがいる。これ以上用がないならさっさと──」

「何故、キミと戦うためにヤツが出てくる?」


 声を荒げかけたラームスだったが、しかしその声は、それ以上に静かな怒気を纏った声に制された。


「オマエ程度の力で相手になるわけがない。なるほど。ヤツが指導したならあの粘り強さも頷ける。が、指導を受けていながらその程度か? 杜撰な魔力操作だ。アイツも無意味なことをする」

「……なんだと?」


 ──ひ、ヒエ〜〜。

 ディスカードは一触即発の雰囲気に肝を冷やした。

 いったい全体どういうことだ。

 まったくいつもの様子と違う。ラームスはともかく、レックスはこんなふうに相手を煽るようなことを、わざわざ言う男ではない。

 この男、急にどうしたというんだ。

 そしてあの鎧の男は、この男にとって何者なのだ。


「ま、まあまあロイくん落ち着いて」

「名前も聞いていないのか? ……仕方ないか。ヤツが気まぐれを起こしただけの関係だったんだろう」

「……聞いた。《シェオル》と名乗った」

「《シェオル》?」


 復唱したのは、ディスカードだった。

 男を抑えようとしていた手が止まる。

 その名前は、何処かで聞いたことがあった。

 レックスがディスカードの様子を見て、「知り合い?」と首を捻る。


「いや……知り合いでは、無いと思うけど」


 ただ、なんだろう。誰から聞いたのか。聞き覚えがある。


「う〜ん……ちょっとそこまで出かかってるんだけど。出てこないなぁ」


 実際は全然出かかってはいないが、レックスを抑えるため、そういうことにしておいた。

 誤差である。


「まあなんとか思い出してみるから、もう行こうよ! コイツ嘘がつけるタイプじゃないし、馬鹿だから。これ以上聞いても無駄無駄」


 そうしてレックスの背中を押せば、暫しの逡巡の後、渋々ながら彼はそれに従った。

 これ以上話したところで、ラームスから有益な情報を得ることはできないと判断したのだろう。

 何せ相手の態度がこれだ。レックスの態度にも問題はあったが、どうも最初から心象が良くなさそうだった。

 後ろから刺すような視線を感じ、ため息まじりに、一旦ラームスのそばへ戻る。


「ちょっと、ボクの友達に無礼なこと言わないでよね? これでも高貴なお方なんだから」

「知るか」

「あと、()()()()()()()()ってことで。今度ゆっくり話そうね〜!」

「……ああ」


 脅しから始まった賭けでも、約束を反故にするような男でないことは重々承知だ。しかし念のため釘を刺しておく。

 先に扉の向こうに追いやったレックスの気配は、既に遠のいていた。

 用が終われば、この弟に大した興味はないのだろう。

 あんなバケモノみたいな男に、鎧の彼に対するような執着を向けられる方が怖いのでそれはいいが。ただ、ここまで連れてきた友人を、用が済めばたちまち置いて行くのは薄情じゃないか?


 ディスカードはため息を一つ吐き出し、ラームスの耳元に唇を寄せた。


「 ()()()()() 」


 ニヤリ、と笑ったディスカードに、ラームスの眦がピクリと動いた。

 ディスカードはそれ以上何も言わず、部屋を後にした。


(──魔術師を騙すには、まだまだ詰めが甘いな)


 ラームスは、《十四番》の正体を知っている。

 そうでなくとも、何か隠していることは間違いなかった。

 ラームスとレックス、どちらの弱みにもなりうる鎧の男に、ディスカードも興味が湧いてきたが、ひとまずは賭けの取り立てが優先だ。

 さて。どうしようかと、ディスカードは喉の奥でクツクツ嗤いながら、臍を曲げた友人の背を追ったのだった。





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