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スポーツ・デイ2





「え!? ロイくん、剣闘試合見たことないの?」

「チラッとは……窓から見えた年もあったよ」

「よくそれで何も聞かずに参加したね……」


 ディスカードは呆れとも感心ともつかぬ声を上げ、汗ひとつかいていない男を見上げた。

 七年もこの学園にいて何をしてたんだ、と思わないでもないが、グッと堪えて「まあ掛けなよ」と隣の席を勧める。


「とりあえず簡単に説明すると、さっきロイくんがさっさと終わらせてきたのが剣闘試合の予選ね。予選は《大乱闘戦(バトル・ロワイヤル)》───見てきた通り、地下の訓練場に飛ばされて、残った人間の中から倒した数の多かった順に四人、本戦に出場出来る。てワケで、ひとまずオメデトウ! キャー! ステキー!」

「今映ってるのは?」

「すっごい無視するじゃん。さっきキミも映ってたよ」


 ディスカードは一人スタンディングオベーションをやめて席に座り直した。

 己の結果に一切興味がないようだ。

 この歳で、これだけの強さをもっていながら、それに大した感慨を持っていないのは不思議である。そのわりに、己に足りない魔術を学びに魔導科(セレマ・クラス)を選んでいる訳だから、強さに頓着がないわけでもなさそうだし。

 もう二年以上の付き合いになるが、未だによく分からない男である。端的に言うと、扱いにくい。


「ホラ、予選のフィールド特殊だったでしょ? 直接観戦するのに向かないから、魔道具(ペンタクル)使って映像で配信してるんだよ。二ブロックで二回に分けて行われるから──」


 今映ってるのは、後半のブロックだね。

 ディスカードが説明すると、また、へえ、と気のない返事が返ってきた。

 参加前から薄々、試合に興味なさそうだな、と感じてはいたが──

 隣で涼しい顔をしているこの男。つい先程まで、注目されていた生徒を悉く退場させ、運良く彼と会敵しなかった生徒だけが生き残るという、散々な番狂わせを起こしてきたばかりなのだ。

 それでいてこの態度なのだから、真面目に参加している選手たちは浮かばれない。


「……ま、投影魔道具ファクシミレも限られてるから。一人一人は追えないけどね。実際戦ってみてどうだった?」

「うーん……魔導科(セレマ・クラス)有利すぎじゃない?」

「あ〜〜」

 手応えがないとか、どうもクソもないといった返事が返ってくるかと思いきや、意外とまともな感想だった。「確かに。予選だけならそう思うのも無理ないね。でも、剣闘試合って時点で騎士科(ナイト・クラス)に利が有り過ぎだから。しかも、本戦は圧倒的に騎士科有利だよ」


 おかげでボクが入学してから、騎士科の優勝が途絶えたことはないよ。とディスカードは大袈裟に肩を竦めた。


「それで、俺に出場するよう頼んだの?」


 男が尋ねた。

 そう。熱意溢れる参加者たちを、訓練感覚で蹂躙するこの男。

 コイツを戦場に引き摺り出したのは、紛れもないディスカードなのだった。


「まーね。流石に六年も負けっぱなしじゃ堪えるじゃん?」

「キミ自身が出ればいいんじゃない……?」

「いやぁボクそういうキャラじゃないからさぁ〜」


 ぶんぶんと首を振って答えたが、そもそも魔導科が六年間負け続けていること自体、ディスカードはどうでも良い。

 目的はそこじゃない。


「……まあ、頼みを聞くと言ったのは俺だしね。出来る限りのことはするけど」

「いや〜んロイくん頼もしぃ〜! ちなみに、本戦は《勝ち抜き戦(ウィルシュ・メイン)》──予選を勝ち抜いた十六人でのトーナメントになるから、闘技場コロッセオでのガチタイマンだよ。頑張ってね〜!」

「本戦も魔術は使っていいの?」

「うん。ま、予選みたいに障害物ありありのフィールドじゃないから、難しいと思うけど」

「そっか。でも良い機会だから、なるべく練習してみるよ」

「……ハハ。負けない程度によろしく〜」


 ディスカードは笑って答えたが、内心ちょっと、「かわいそ」と思った。

 勿論目の前の男のことでなく、他の参加者たちに対してだ。

 思っただけで、己の目的以上に優先することではないが。


(自分が負けると微塵も思ってないんだよな、この人)


 柔和な態度で人好きのする男だが、この態度が知れたら、一部にはやっかまれるだろう。

 予選でも魔術を駆使して勝ったように見えたが、この男、実は魔術なしの方が強いとディスカードは知っている。出鱈目な戦闘力である。近接特化の風属性(ソード)連中は形無しだろう。


 さて。本戦に出場する選手は、どれだけこの男の力を引き出せるだろうか──


「あ。そういえば、ラームスどうなったかな」


 アイツも間違いなく出場しているだろう。

 言いながらふと隣の男を見ると、思いの外、真剣に映像を見ていて驚いた。


「なになに? 気になるヤツでもいた?」

「いや……」


 レックスは少し言い淀んだが、ディスカードが興味津々に見つめるので、また口を開いた。


「一瞬見えただけだから、なんとも言えないけど。左の映像に、全身鎧つけてる選手がいて……」

「え……うわ。なにアレ?」


 視線を追って同じ映像に目をやると、ちょうど騎士同士が相打ったところだった。そこに一瞬、確かに、チラリと小さな影が見えた気がする。


「全身鎧って……いやまあ、【武器は剣のみ】以外に装備の縛りはないけどさ。動きにくいでしょ」

「でも、速いよ」

「あらっ? ロイくんのお眼鏡にかなった感じ?」

「お眼鏡って……」


 ロイが嫌そうな顔をする。

 しかし、その視線はまだ映像の方を向いていた。


「本来、身体が小さければ、それだけ戦いに不利になる。勿論、他で補うことは出来るけど、スタート地点が違ってくる。攻撃に体重が乗せられないのなら、代わりに筋力が必要になるように……」

「小さいからこそ出来る! とかないの?」

「あるけどそれは、体格の不利をどうにか覆すために生まれたものだからね。戦闘では、元々体格は良くて損はないよ」


 ディスカードは「ふ〜ん」と適当に相槌を打つ。

 隣の男と比べれば天と地の差であるが、ディスカードも肉弾戦が出来ないわけではない。

 男の話す内容は、どれも真理であり、散々思い知ったことだった。


「でもさっきの人は、だいぶ上手くやってたよ。身軽さを逆手に取って、自分の消耗を最小限に、多人数を相手するのに慣れた動き……

 本戦、タイマン勝負なんだよね?」

「全身鎧着て身軽って、中身ゴリラかよ……うん? そうだよ」

「じゃあ本戦は不利だろうけど、実戦向きだね」

「へえ〜〜」


 この男がそれだけ言うのだから、なかなか強いのがいるようだ。

 ディスカードが見た時にはもう映像外に出てしまっていたので、どんな奴か見れなかったが。


(ま、ホントに強けりゃ本戦に上がってくるでしょ)


 それがこの男と当たってくれれば最高だ。

 まさか負けるとは思っていないが、少しは本気で戦うところを見てみたいので。





#




 ──ガシャン

 ──ガシャン



「……動きにくくないのか?」


 ラームスが怪訝な顔で問いかけた。

 薄暗い通路に金属のぶつかる音が響く。

 予選が行われる訓練場は地下にあるという話で、キッカとラームスは準備を整え、そちらへ向かっていた。


 片や簡素な訓練着、片やどこに行軍するのか尋ねたくなるような重装備、である。


 よたよたと通路を歩く全身鎧は、もし周囲に人がいれば、酷く目を引いたことだろう。幸い、開始時間ギリギリのおかげで、通路に二人以外の姿はない。

 体型のわからない胴鎧(キュイラス)に、フルフェイスのアーメット。しかもこのガチガチの装備、微妙にサイズが合っていないため、関節の動きがぎこちない。


「なんとかうごける〜〜」


 全身鎧はくぐもった声で答えた。

 もはや己の動きを阻害するための装備と言って過言ではない鎧だ。


(それでいい。寧ろ、それがいい)


 キッカはそう思ってこの鎧を選んだ。

 こんなコンディションで予選に挑めば、すぐに敗北するだろう。怪我はしたくないので、いざとなれば力技で鎧を動かすが。

 上手くいけば、早々に負けられる。

 勢いでこんなところまで来てしまったが、キッカにまともに参加する気はなかった。あくまで数合わせである。



「ギリギリだな」


 しばらく歩いて、突き当たりで、やっとラームスは立ち止まった。


「このあとどうすればいいの?」

「ここに居ればいい」


 ラームスは、目の前のシャッターのような障壁に触れる。


「この壁の向こうが訓練場だ。この広い通路はそれを囲んでいる。今回の控えの間の一つだな。時間になれば、勝手に会場のランダムな場所に転移するから、あとはさっき説明した通りだ」

「誰にも倒されず、誰でも倒す」

「ああ」


 ラームスが頷いた。

 乱戦なら、一対一よりどさくさに紛れてリタイアしやすい。

 何人参加しているのか解らないが、ここから本戦に上がれるのはたったの四人らしい。

 ……ラームスは、その中に入れるだろうか。


 ぼんやり考えながら隣を見ると、偶然にもこちらを見ていたラームスと、バッチリ目が合った。


「……まあ、お前なら大丈夫だとは思うが。囲まれないよう気をつけろよ」

「いや全然大丈夫じゃな……えっ、囲まれるとかあるの?」

「ああ。初動は組んで動く奴らもいるからな」

「この競技、協力していいんだ……」

「作戦としてはアリだ。騎士科の奴らはあんまりしないが」


 トン、とラームスが自身の胸のあたりを拳で叩いた。

 そこにあるのは、二本の剣の紋章だ。

 今は、キッカの腕にも同じものがある。


「転移は寮章を判別して会場に送り込む。同じ寮の人間は、なるべく転移位置をバラされるが。魔導科にそれは関係ないだろう」


 確かに、魔術があれば遠く離れた人間と連携をとることも可能だ。魔導科の生徒なら、仲間の位置を把握することは雑作もないだろう。

 それに、肉体面(フィジカル)で劣る魔導科が、本戦前に騎士科の目立つ人間を集団で潰しておくのは、利口なやり口だと思う。

 これが()()なら、わたしもそうする。


(ということは、ラームスとは離れた位置に転移するのか……)


 とはいえ、三寮しかない上、騎士科は大勢参加しているわけだから、結局は運だが。

 どのみちか弱いキッカは、早々にいなくなる予定だ。

 ラームスに手を貸す気もなし、本人もそれを望んでいないだろう。

 一定のダメージを受ければ、勝手に控えの間に戻されるようだが。それはどの程度のダメージだろうか。さっさと外から応援する側になりたい。こんな可愛らしい妹からの応援を貰えるなんて、ラームスはまったく贅沢な兄である。


 壁を走る魔力の流れを見て、そろそろかな、とキッカが肩の力を抜いた頃、不意にラームスが口を開いた。


「……ヨシ! 過程は少々気に食わんが、参加すると決まった以上、互いに健闘を祈ろう! 四年前も一人で敵を薙ぎ倒していたし、お前ならきっと大丈夫だ! 俺と出会しても、手加減しなくていいからな!!」



「──え、?」



 振り返った瞬間、視界は真っ白に塗り潰された。

 一拍置いて、目の前の景色は薄暗い石壁から、草木の生い茂る密林に移り変わる。


「え……なんだここ」


 どうやら転移させられたようだ。

 訓練場という名前から、大きなグラウンドのようなものを想像していたが。まったく予想外のフィールドに連れてこられてしまった。

 魔力で創造された障害物だろう。これは、思った以上に魔術師有利の舞台だ。もう少しラームスに詳しく聞いておけばよかった。

 いや、それより──


「ラームス、」


 ぼんやりと、口からその名前が漏れた。


 ──気づいていたのか。

 なるほど。タフな彼のことだ。眠ったように見えて、ギリギリのところで意識を保っていたのだろう。

 さて、どうしよう。

 いや、どうするもなにも、ないのか。

 生憎風属性(ソード)は、他人の記憶を消す能力は持っていない。


 キッカは、転移した場所から動くことも出来ず、立ち竦んでいた。

 突然知らない場所に放り出されて、何をすれば良いのか、分からなくなってしまったような心地だ。それは現実の状況的にも、間違っちゃいないのだが。


 しかし、試合は既に始まっている。

 当然だが、選手達(プレイヤー)は、キッカの心が落ち着くのを待ってくれはしなかった。


 突然、生い茂る草木の中から男が飛び出した。

 その手には無論、剣が握られている。

 しかしキッカの頭は、それを目の端に映しても尚、真っ白になっていて、さてどう動こうかと思考を巡らすことさえ出来なかった。

 キッカは頭の回らぬまま、振り下ろされた男の剣を上体を反らすことで躱し、横様に跳んで後頭部を蹴り飛ばした。

 次いで別方向から飛び出してきた男の剣を、鉄靴のサマーソルトで弾き飛ばす。男が手から離れる剣に視線をやった一瞬の内に、側頭部に拳を叩き込んで、昏倒させた。



「…………あ、」


 キッカは、頭から氷水をかけられたような気分で目を覚ました。

 どうやら自分は、酷く混乱していたようだと自覚する。

 余計なことをしてしまった。ここで敗ければよかったのに。

 ハッ、と乾いた嘲笑いが口許から漏れる。

 自分を見縊っていたことに気づいたのだ。

 こんな鎧程度、なんだ。何がすぐ敗北するだ。ちょっとしたハンデにもならないじゃないか。現にこうして、混乱した頭でも、容易く男二人を倒せてしまった。


(……なんだ、)


 ラームスは、わたしの強さを知っていたのか。

 

 ラームスだけ、他の誰より距離が近かった。

 自分でも分かっている。過去の親友と似ていたからだ。

 だから、友達になると言ってくれた兄に、気を抜けば、まるで昔のような態度で接してしまっていた。口調も、そうお淑やかではなかったと思う。

 それでも。か弱く見えるよう、努力していたのだ。

 ラームスの目に、可愛い妹として映るよう──守るべきものとして映るように。振る舞っていた、つもりだった。


 でもそれは、まったく無意味な努力だったのだ。

 バカみたい。

 


 一度金属音を鳴らせば、音に釣られてあちこちから選手たちが湧いてくる。


(……どうしようか)


 痛いのは嫌だ。どの程度ダメージを受ければ退場出来るのか。解らない以上、一対一で被ダメージを調節して、なるべく穏便に消えていきたい。だから集団で来られては困る。

 それに、こちらからの攻撃も、相手の数が多いと雑になりかねない。さっきは一対一だったから、無意識でも、殲滅ではなく制圧の動きができていた。

 しかし数の多さに焦って油断して、生身の部分にガントレットを振り抜こうものなら、相手が風属性(ソード)でもない限り、大怪我を負わせてしまうことは免れないだろう。

 四年前ならいざ知らず、ある程度鍛えてしまった今。魔力無しでも、相手を吹き飛ばすくらい容易だ。

 己が血を流すのと同様に、流させるのも本意でない。


 キッカはとりあえず、場所を変えて体制を立て直すことに決めた。

 生い茂る葉は身体の小さな自分にはお誂え向きだと、木の上へ飛び上がる。

 鎧の重さで太い枝が軋むが、中身のキッカが軽いので、飛び跳ねても問題はなさそうだった。


 枝の上を次々と移動していく内、時折、魔力が根を、幹を、枝を這うのを感じて進行方向を変えた。

 ──どうも、魔導科に標的として狙われている気がする。


 最初派手にやりすぎただろうか。それとも、この体躯を見て与し易いと思ったか。

 木々の葉が鎧に当たるたび、まるで金属がぶつかり合うような、カンカンという音が鳴っていた。

 こうなってしまうと、全身鎧さまさまである。

 おおかた、火魔術(ワンド)土魔術(ペンタクル)で葉を刃のように変化させているのだろう。距離が遠いせいか、不殺の競技だからか、形状を変えただけで大した魔力も籠っていなかったが。これなら、全身鎧だけで防御の方は問題ない。


(……誘導されてるみたい)


 魔力の流れを避けて跳んでいるが、どうもこちらを攻撃する気がなさそうに見える。

 ただ進行を妨害されているような……となると、この魔術師たちには、キッカを連れて行きたいところがあるのだろう。


 その時、地面が大きく動いた。


「わ」


 正確には、キッカの乗っていた木が動いたのだった。

 のみならず、付近の木が一様に枝を揺らし、軋ませ、キッカの足が枝から離れた瞬間、その背を叩くように迫った。

 しかし、生身で当たれば結構な威力のそれを、キッカは避けようともせず、叩き出されるまま宙を飛んだ。

 痛いのは嫌なので、背中はきちんと魔力で守ったが。


 ガシャンッ


 派手な金属音を上げ、地面に着地する。

 顔を上げると、周りには大勢のプレイヤーがいた。


(……ああ、そういう)


 キッカは一連の魔術師達の動きに、やっと納得した。

 一瞬、ここで袋叩きにしようという魂胆かと思ったが、みな各々で戦っているようだ。

 ということは、おそらく、此処にいるのはさっき魔力を飛ばしてきた連中ではないのだろう。というか、見るからに騎士科だった。

 なるほど。幾ら目を付けていても、キッカ単体を執拗に狙うのは効率が悪いんじゃないかと思っていたが。集めて潰し合わせるのが目的なら納得がいく。


 特に騎士科は、とりあえず目の前に現れた敵から相手していきそうだ。偏見だが。敵に背を向けるのを良しとしない風潮が感じられる。

 誰を倒しておいた方が得だとか、誰から倒せば効率的だとか、訓練は別として、こういった競技には、そういう策謀を弄して臨まないのだろう。これだけお膳立てされれば、勝手に潰しあってくれるわけだ。


 そんなことを、キッカはほんの瞬きの間に考えて、即座にこの場から離脱を試みた。

 魔導科の目論見はどうでもいいし、乱戦も上手く転べば良いリタイアの機会だが、足元からわりとでかい魔力の気配がする。とりあえずその輪から抜け出したい。


 しかし、なにぶん数が多い。

 大乱闘戦(バトル・ロワイヤル)と聞いてはいたが、ここに限っては本当に大乱闘だ。

 とりあえず向かってくる相手の武器は弾き、体勢を崩させ同士討ちで数を減らそうとするが、なんだか続々と増えてきている気がする。

 しかも、ぐずぐずしていたせいか、段々と己に視線が集まるのを感じた。

 ──ああ、懐かしくも嫌な感じだ。

 戦場では目立つ奴から袋叩きにされる。

 もっと早く片付けて、逃げ出すべきだったろうか。急所さえ攻撃しなきゃ、人間なかなか死にはしないのだから──


(……なにやってるんだろ、わたし)


 なんだか急に、力が抜けた。

 戦いたくなくて、弱くなって、可愛い女の子になって、守ってもらおうと思って頑張ってきた。

 それがどうだ。

 確かに安全には考慮されているし、誰にも殺意はないかもしれない。

 けれど、この試合はやはり、現実の命の遣り取りの模倣だ。

 なんでわたしは、こんなとこで、こんなことしているんだろう。

 これがいやだったのに。

 こういう場所にいたくなくて、全部捨てようとしていたのに。


(──ばかみたい)


 弱くなりたかった。

 別に、力を失くすこと自体を望んでいるわけじゃあない。結果としてはそうなるが、痛い目にあいたいわけじゃないし、強さの有用性も知っていた。

 けど、それでも、弱くなりたかった。


 ()()()()()()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 己の目の前に剣が奮われるのが見えた。

 けれど、キッカは動かなかった。

 動く気もしなかった。

 ちょっと痛いのはもう、仕方がないと受け入れよう。


 ──ここまでだ。


 男の剣が、己の身に肉薄しようかというとき、視界を何かが覆った。





「──キッカッ!!」





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