表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/44

第九話:チート能力

「俺? 俺の力、気になる?」


 月澤は急に茶化すように、そんな事を言った。


 気になるし、そもそも、こっちは手の内を見せたのだから、そちらも見せるのが礼儀というものではないだろうか。

 とは思ったが、ここで気になると答えるのも、なんか(しゃく)だった。

 そんな思いから無言でいると、


「へっ、冗談だって、見せるよ」


 俺が怒ったと思ったか、月澤はヘラっと笑って、ポケットから、黒い石と金属の棒のようなものを取り出した。

 そして、それぞれを両手に持ち、金属棒で、黒い石を削るように打った。

 すると、大きな火花が空中に散った。


「これは火打ち石ってやつさ。言葉は知ってるけど、実物はこの世界に来た時に初めて手にしたね。で、これを使ってだな」


 月澤はもう一度、火打ち石で火花を起こす。

 すると、今度は、空中に散った火花が消えずに、空中にとどまり、炎になった。


「炎を操るのが俺のチート能力さ」


 そう言いながら月澤は火打ち石をポケットにしまったが、炎は中にとどまり続けている。


「見てなよ」


 彼が言うと、炎の群れが、まるで生き物のように空中で動き始めた。


「火力も自由自在だ」


 その言葉を受けて、炎がだんだん大きくなる。一つ一つの炎がちょっとした焚き火の炎ぐらいになり、俺は熱気を感じて後ずさった。


「こいつを最大火力でぶつければ、家ぐらい軽く消し飛ばせるぜ。ちょっとそのへんの家にぶつけてみようか?」

「やめろ」


 俺は間髪を入れずに言った。

 冗談で言っているのだと思いたかったが、情報によれば、こいつは過去に強姦や殺人をやっている疑いがある。

 何をしでかすか分からない。


「俺に声をかけた理由はなんですか」


 俺は気になっていたことを聞いた。


「え? ほら、海外旅行中とかにさ、旅先で日本人に会ったら、挨拶ぐらいしたくなるじゃん? それ」


 月澤は極めて軽い調子でそう言ったが、本気で言っているのかどうか、疑わしく思えた。


「もうそろそろ行こっかな~」


 月澤はそんな事を言いだした。


「行く? どこへ?」


 俺は、月澤が、【暗黒の王】を倒す上で、なにかプランを持って行動しているのかと思い、そう聞いた。


「いや、どこへとは決めてないけど、なんかここの宿に泊まる気がしなくてさ、適当なところまで旅して野宿しよっかなって。クボちゃんはどうするの?」

「俺は、そこの宿で泊まる予定で」

「そっか、じゃ、またね」


 意外なことに、月澤は、このまま俺と別れるつもりのようだった。

 本当に、特に大事な用件は無かったということだろうか。

 すこし拍子抜けした思いだった。


 月澤と、彼に付き従う背の低い人物は、ゆっくりと俺から遠ざかっていく。

 その時、背の低い人物のほうが、石につまづいたようだった。


「あっ」


 か細い、女の子の声が聞こえた。

 転びはしなかったが、一瞬バランスを崩したその子に対して、


「大丈夫か?」


 月澤が優しい声をかけた。


「はい」


 あまり感情を感じさせない、抑揚の少ない声がそれに答えた。


「ハーテはフードを深くかぶり過ぎなんだよ。こんな所でお前を知ってるやつなんていないって。顔を見られても困らないだろ」

「はい……」


 ハーテと呼ばれた子が手をフードの縁まで動かしたが、結局フードには触らずに手を戻した。顔を晒したくなかったのだろうか。


「ま、いいさ、顔を隠していたいならそれでも。でも、転ぶなよ」

「はい。気をつけます」


 そんな会話をしている二人は、まるで優しい兄と、その妹の組み合わせのようで、なにか不思議なものを感じた。


 ハーテと呼ばれていた子は、ほとんど肌を見せていないが、唯一手をフードに持っていったとき、彼女の指先が見えた。

 その肌の色は、褐色だった。


 つまり人種的に黒人。黒人で、名前が『ハーテ』と言うなら日本人ではなく、この世界の人間だろう、多分。


 であれば、月澤とハーテは出会ってからそれほど時間が経ってないと思われる。

 それなのに、二人の風景が、長い時間を共に過ごした兄妹の様に見えたことが、少し不思議だった。


 俺は宿屋に戻った。

 食堂に入ると、中にいた人たちの視線が、一斉にこちらを見た。


「おい、あいつ、どうだった?」

「どういう関係なんだ? 知り合いか?」

「あいつはもう行ったのね? こちらには来ない?」


 質問攻めにされた。

 俺は一つ一つ、質問に答えた。


「危険な人物かどうかは、分かりませんでした」

「彼とは初めて会いました」

「彼はどこかで野宿をすると言っていました。ここには来ないでしょう」


 答え終わると、次の質問が来た。


「奴はあんたに何の用があったんだ?」


 俺はどう答えようか迷ったが、


「俺を見て、同じ国出身だと分かったので、声をかけたって言っていました」


 どよめきが広がった。

 謎の悪党と、俺が、出身国という共通点を持つことがバレてしまった瞬間だった。

 だがあえて言った。

 隠し事をして、信頼を失うより良いだろうと思ったのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ