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第八話:同胞

 自分がどこから来たのかの話はそらすことが出来たが、俺はなかなかそのテーブルから開放されなかった。

 外に夕闇が迫る時間になると、宿屋の食堂は人が増えて混んできた。


「おう? なんか変わった旅人さんがいるなあ?」


 もう何度目になるだろうか、またも建物に入ってきた人が俺に興味を持ったようだ。


 このあたりでは黒髪が珍しいのだろうか、確かに自分以外に黒髪の人物は見ていないが。

 あるいは武器として使う棒をかたわらに置いているのも目立つ原因になっているかも知れない。

 悪党と疑われる詰め襟の学生服の上は今は着ていないから、服装ではそれほど目立ってないと思うのだが。


「よし、もう一回やろうぜ!」


 最初に出会った長髪の男、ヒゲの男が、俺をゲームに誘う。


「えっと、いや、まだルールが良く分からないし……」


 俺は断ろうとするが、


「うん、そうか、じゃあまだ金は賭けなくていいからもう一回だ」

「はあ……」


 正直、飲んだぶどう酒とやらのせいか、頭が回らない。ゲームのルールが良くわからない。

 そう言えばガキの頃ビールをこっそり飲んで、少ししか飲んでないのに酔ったことがあったな。


「よしじゃあ開始だ! まずは俺からな!」

 長髪の男が陽気に宣言した。


 ゲームは、サイコロ2個とカップ、皿を使うもので、サイコロの目を隠していくつが出ているか宣言して、それを受けて他のプレイヤーが『嘘だ』と宣言するか、それともそれを疑わずに自分がサイコロを振るかを選ぶなどするのだ。


 そこまでは理解しているのだが細かいところがわからない。

 分からないまま『嘘だ』を宣言したり、サイコロを振ったりしているが、何ぶんルールを理解できてないので弱いみたいだ。金を賭けていたら無一文になってるまであるな。


「よう! 楽しんでるみたいだな、元気か?」


 また誰か、新たに建物に入ってきた男が、俺に挨拶をしたみたいだ。

 今俺は建物の入口を背にして座っているので、声をかけてきた男の姿は見えていない。

 ゲームの細かいルールは分からないながらも、前の男が「9」と宣言したのに対して、『嘘だ』を言うべきかどうか、必死で考えていて、声をかけてきた男の方を振り返る気が起きなかった。


 のだが、

 その時になって俺は気づいた。

 さっきまで賑やかだったこの食堂の空気が、緊張に凍りついている。


 それと、一つの違和感。

 さっきの、『よう! 楽しんでるみたいだな、元気か?』と言う言葉。

 それは、その言葉の響きは、

 この世界の言語ではなくて、

 日本語だったような気がして……。


 俺はゆっくりと振り返った。


「やっとこっち向いたな、同胞」


 美形と言ってもいい顔立ちの男子高校生が、そこに立っていた。

 長めの茶髪、切れ長の目、明るい茶色の瞳。

 暗い緑色の、詰め襟の学生服をラフに着ていた。

 彼の横には、フード付きのローブを着た子供ほどの背丈の人物もいた。


「ちょっと外に出て話さないか」

「そうだな」


 彼の誘いに、俺は同意した。

 こいつが、噂の『悪党』なのだろう。

 この食堂の多くの人間が、凍りついたように緊張しているのは、その噂をみんなが知っているからか。


「来なよ」


 そう言って彼は建物の出入口から外に出ていく。

 ローブを着た人物も、影のように付き従っている。

 俺はその後を追う。

 少し迷ったが、武器として使う棒は持って外に出た。


「旅先で同胞に会うってのは良いもんだな! まあ俺、『同胞』なんて言葉、生まれてはじめて使ったけど?」

「ああ」


 俺は短く返事をした。

 言ってることには同意できなくもない。

 なんだか仲間に出会えたような気分はしている。

 だが、その『仲間』が、凶悪犯罪で指名手配のような状態となると、微妙だ。


 午前中出会った旅人から聞いた所によると、その『悪党』は、強姦・殺人をやらかした、らしいのだ。


「あんた名前は?」

窪翔兵(くぼ しょうへい)


 俺はすんなり名乗った。


「そうか、俺は月澤小次郎つきさわ こじろう

「そこの人は?」


 俺は、月澤と名乗った彼に、寄り添うようについていっている背の低い人物について尋ねた。

 そいつは、フード付きのローブを着ていて、顔も見えないし、ほとんど肌を露出させていない。謎めいた印象があった。


「こいつはツレさ。そんなことよりさ、クボちゃんはどんな力があるのさ?」

「力?」

「とぼけるなよ。力をもらっただろ? この世界に来る時にさ」

「ああ」


 俺は唸った。

 どうやら、彼も、俺と同じ事情でこの異世界に転移してきたらしい事が推測できた。


 ふと、今の自分の『ああ』と言う唸りが、同意の意味と取られるかも知れないと気づいたが、今訂正しなくてもいいかと思った。


「察するに、あんたが持ち歩いてる棒、それが力に関係するのかな? 良かったら見せてくれないか?」

「これか」


 俺は、自分の棒術を見せるべきかどうか迷ったが、隠すのもスッキリしないと思い、見せることにした。


 幸い、今俺達は、建物から少し離れたところまで歩いてきている。

 俺は棒を構え、体の右側と左側でブンブン棒を回してみせる、基本動作を披露してみせた。

 ついでに、上段打ちからの上段突きを空中に放ってみせた。


「すげえな、カンフー映画かなんかみたいだ。つまりあんたのチート能力は『ウェポンマスタリー』系ってことか」


 月澤は俺にはよく分からない単語を言ったが、要するに感心しているようだった。


 さて。


「月澤さん。あなたはどんな技を持ってるんですか?」


 俺は、少し緊張しながら、聞いた。

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