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第四十二話:城壁の上の戦い

 戦闘に参加してしばらくの間は、俺の仕事は矢を戦場のあちこちに届けることだった。

 たくさんの矢が入った木箱を矢が足りてないところに届けるのだ。

 自分で敵を倒すことはできないが、これも戦いの一つの形だと思って頑張った。


「おい、あんた、あれが見えるか」


 弓を使う兵士たちに矢を届けた時、不意に声をかけられた。

 彼の指差したほうを見ると、城壁の外に、大きな構造物がこちらに動いてきているのが見えた。巨大な階段のようなもの。それが、階段の上の段の方がこちらに向いてどんどん接近してくる。下に車輪がついているのだろう。


「あれは?」


「やつら、あれをこの城壁にくっつけて、あの上から城壁を乗り越えるつもりだ。こっちも火矢を当ててるが効いてる感じがねえ。あれが城壁にとりつくのを防ぐことはできないだろう。いずれ敵が乗り込んでくる。あんた、敵が殴れる距離にいるなら戦えるんだろう?」


 兵士の質問に、俺はうなづいた。


「じゃあ、あのでっかい階段が城壁にぶつかる地点、やつらが城壁を越えて乗り込んで来る地点で待ち構えてるのがいいぞ」


「ありがとう、そうします」


「流れ矢に気をつけろよ! 敵を殴る前に死ぬなよ!」


 俺はうなづき、兵士に言われた地点に向かって駆け出した。


 ちょうど目標地点と思われる地点にたどり着いたと思った時、足場である城壁全体に衝撃が走った。


 敵が攻めてきている方向を見ると、まさにあの巨大な階段が城壁に衝突したところだった。トカゲ兵士たちが城壁に取り付いて登ってくる。


「はあっ!」


 気合一閃、棒を振るい上段打ちから上段突きの連続技を、トカゲ兵士の頭に叩き込む。

 攻撃を食らったトカゲ兵士は城壁の下に落ちていった。高い城壁だから地面まで落ちれば死ぬか戦闘不能だろう。俺は次の目標に向き直る。


 トカゲ兵士たちは次から次に城壁を乗り越えてやってくる。戦う相手に不足することはなさそうだった。


 幸いなことに味方はいる。巨大な階段が近づいていることに気づいていた兵士は剣を抜いて待ち構えていたし、弓で戦っている兵士も援護してくれる。


 俺は味方と協力して戦い続けた。

 一人として全く同じ強さの人間がいないように、敵のトカゲ兵士も強かったり弱かったりした。二本腕のものもいれば四本腕のものもいた。

 だが、味方との連携がうまく行き、なんとか戦えていた。


 しかし状況が変化する。

 敵軍が用意した、階段状の足場は一つではなかったようだ。

 向こうの方でも、手前の方でも、階段状の足場が城壁に取り付き、複数箇所からトカゲ兵士がなだれ込んでくる状況になった。


 だんだん戦闘がつらくなる。敵の攻撃が俺の体をかすめたり、兜を打ったりする。

 それでも敵兵をなんとか倒し続けた。

 だが。


「危ない! 後ろ!」


 目の前の敵の剣を棒で打ち払い、返す棒で反撃を叩き込もうとした時、味方のその声が聞こえた。どうして良いか急に判断できず体が膠着する。


 一瞬遅れたが右方向に飛んで、来るであろう攻撃を回避しようとするが、背中、左の肩甲骨のあたりに鈍い痛みを感じた。


 振り向いて状況を確認すると、味方の兵士が俺を攻撃したトカゲ兵士にとどめを刺したところだった。どうも俺はそのトカゲ兵士の剣の一撃を食らったらしい。

 敵から遠ざかる方向にダッシュして、身の安全を確保しようとする。

 安全かと思われる場所まで避難して、状況を確認する。

 今その場にいたトカゲ兵士は味方が倒したようだ。

 一人の兵士が俺の背中の傷を見に来た。


「かすめただけだ。服に穴も空いてない。戦えるだろ?」


 そう言われて安堵した。

 左の肩甲骨のあたりに痛みはあるが、棒を振ってみると体は思い通りに動かせた。

 まだ戦える。


「ありがとうございます。けど、今の敵はどこから来たんだ……」


 俺は疑問を口にした。自分なりに周囲には気を使っていたはずだった。背後を取られていたのは予想外だった。


「ああ、まるで死んだやつが生き返ったみたいに……」


 俺の疑問に答えようとした兵士の言葉が止まった。彼の視線の先を見ると、今しがたとどめを刺したはずのトカゲ兵士がゆっくりと起き上がるところだった。


「こいつ!?」


 味方の兵士の攻撃を受け、すぐにそのトカゲ兵士は倒されたが、死んでいたはずなのに起き上がったトカゲ兵士はその一体だけではなかった。


 戦場のあちこちで、倒したはずのトカゲ兵士が起き上がっていた。

 それに加えて、相変わらず城壁を乗り越えてくる敵もいる。

 状況は一瞬にしてこちらに不利になったようだった。


 これは……。

 俺を倒した幽霊トカゲ兵士こそ出現していないが、これは『死霊術師』の仕業ではないか?

 たしか死霊術師は死体をゾンビにしたりすると聞いた。いま目の前で起きたことがそれだとすると。

 クヴー砦を全滅させた、あの『死霊術師』が近くにいる。

 どこに?


 俺は素早くあたりを見回した。

 そして、以外なほど早く、やつを見つけた。

 やつはすでに城壁の上に来ていたのだ。

 他のトカゲ兵士より頭二つぐらい大きい四本腕のトカゲ人間。

 紫色の衣装。

 下側の右腕に杖を持っている。

 クヴー砦で見た『死霊術師』だ。

 こいつがクヴー砦の仲間を全滅させたのだ。

 こいつだけは俺が倒したい。

 俺は切にそう思った。

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