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第四十二話:戦火

 『絶望勇者同盟』の盛岡が言った二日が経過した。

 俺たちは東条の家の会議室に集合していた。


「今日、戦闘が始まるって話でしたよね」


 東条、姫川、国吉の三人がのんびりしているので、俺はこんなことでいいのかという気分になり、そう聞いた。


「もう始まってるみたいだね」


 盛岡がのんびりと、飲み物を飲みながらそう答えたので、おれは驚く。


「始まってる!?」


 俺は窓の外を見る。見える範囲では町は平和そのものだ。戦いが始まっているようには見えない。


「ここはわりと中央近いからさ、窓からは敵は見えないかもね。でも町の北西の方角には飛ぶやつ、ガーゴイル兵って言おうか、そいつらが襲撃を始めてるよ。南でももう始まるね」


「じゃ、じゃあ、戦いに行かなきゃ……いけないのでは」


 俺は戸惑う。俺たちは『国から特別に認められた騎士』なのではなかったか。まっさきに戦いに馳せ参じないといけないのじゃないのか。


「ゆっくりでいいさ。この町には十分な兵士がいる、少なくともしばらくは持ちこたえるさ」


「いや、でも、目で見て念じただけで敵を倒せるなら、すごく強いんだから早く戦いに行けば、味方の死傷者を減らせるんじゃ」


「前回はそれで失敗したんだ。レンザハレの町で戦った時は、俺の能力で敵を倒しまくったら敵軍が早々に撤退して行っちゃってさ。大した数を倒せなかった」


 それを聞いておれはほのかに怒りを覚えた。

 多少街の人に被害が出ても遅れていくというのか。

 そのほうが敵を多く倒せるから?


 俺は無言で、部屋の片隅においてある自分の荷物の方に向かった。


「どうしたんだい?」


 軽い調子で東条が聞く。


「俺は、戦いに行きます」


 クヴー砦で支給された兜などの防具を身に着けながら、俺は言った。


「フン、行くなら南のほうが良いかもね」


 盛岡がのんびりとした声で言った。俺が彼の方を見ると、


「北西の方はほら、敵が空飛んでくるからさ。棒だと戦いにくいだろう?」


 彼はそう続けた。

 言っている事はもっともだった。


「アドバイスありがとう。じゃあ南の方に行きます」


 俺は棒を手に取り、部屋を出ていこうとした。


「ご主人さま」


 俺を呼び止めたのはハーテだった。


「ああ、行ってくるよ」


 俺が言葉をかけると、


「わたしも行きます」


 ハーテは意外なことを言い出した。


「君は……戦えないだろう」


「でも、けが人が居たら、手当はできるかもしれないです、けが人の手当をしている人がいれば、手伝うことはできると思います」


 ハーテは思いの外真剣な目をしていた。

 人が、苦しんでいるとき、何か自分にできることがあるのならそれはしなければいけないと考えているのだろう、そう思えた。


 それが正しいのだと思えた。

 敵を多く倒すためにあえて町の兵士を犠牲にするような考えは、やはり間違っていると思えた。


「分かった、来てくれ。でも、戦場には近づきすぎないで。きっとけが人を手当していいるところがあるだろうから、そこを手伝うだけにして」


「分かりました」


「じゃあ行ってきます!」


 部屋の中に残る四人に、半ば叩きつけるように挨拶をして、俺はハーテと一緒にその館を出た。


 通りを走り抜け、町の南の城壁のあたりに着いた。

 敵兵の姿は見えないが、南の方向から火矢が飛んできているのが見えた。

 通常の弓矢だったり、クロスボウを持った兵士たちが、胸壁の隙間などから屋を放って応戦している。


 近くの建物の、敵の矢が飛んでこない側にテントが張られていて、そこに怪我人が集められているようだった。


「ハーテ、君はあそこに行くと良いと思う」


「分かりました、行ってきます、ご主人さまのご武運を祈っています」


「ありがとう、後で必ず会おう」


 テントの方にかけていくハーテを見送って、俺はさらに南の、兵士たちの近くへ向けて走った。


「なにか手伝えることはありませんか!」


 俺は、兵士たちに声を駆けた。

 彼らは忙しそうに矢を放ち、また、敵の矢が来るときには身を隠していた。

 一人の若い兵士が俺の方を向いてくれた。


「あんた弓やクロスボウは」


「使えません」


 若い兵士の質問に、若干の屈辱を感じながら答えた。


「けが人が出たら向こうの建物の陰のテントまで運ぶのを手伝ってくれると助かる。テントの場所はわかるか?」


「分かります」


 答えてから見回してみたが、今この瞬間には運ばないといけないけが人は居ないようだった。


「他には?」


「もうじき矢が足りなくなりそうだ。向こうの方から」


 若い兵士は西の方の戦場を指差しながら言った。


「木箱に入った矢を運んできてくれると助かるんだが、やってくれるか」


 戦いじゃなくて荷物運びか。すこし残念なようでもあったし、屈辱を感じないでもなかったが、今はそれしかできることがなさそうだった。


「行ってきます」


「流れ矢には気をつけてな」


 俺は兵士の声を背中に受けながら、俺の仕事を開始した。

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