第四十話:ウイバハレの町で
それから何日かの旅をして、俺たち五人はウイバハレの町につこうとしていた。
周囲を高い城壁に囲まれた町で、外から見ると城壁と、それよりも高いたくさんの尖塔だけが見えた。
「宗教的建造物が多いみたいだったよ」
東条がその町のことをそう説明した。
「高い塔みたいなやつは教会ってことですか」
「教会って言葉を使うとこの世界の人達はちょっと変な顔をしてたね。神殿と言ったほうがしっくり来るらしい」
そんな事を話したりしながら、俺達は城壁の門をくぐった。
三人は特別な通行許可証を持っていて、そのおかげで俺とハーテも待たされずに門を通過できたようだった。
町に入ると、四階建て以上の高い建物が立ち並んでいるのが印象的だった。
この世界で最初にたどり着いた村(ルフタ村という名だったか)などは平屋しか無かったので、このウイバハレは随分と都会のように思えた。
中央の通りを歩いていくと、露店がいくつも立ち並んでいる広場に着いた。
「ここの奥の丸まった屋根の建物が市庁舎さ」
東条が言った。
「戦いになにか関係があるんですか」
俺が聞くと、
「いや、でも、戦いの前に用事を済ませておきたくてね」
東条は意味ありげに笑った。
俺たちは建物の中に入った。
調度品も建物の内装も、何一つ元いた世界、日本にあるような市役所とは共通していなかったが、なにかしら漂ってる空気が似ているような気がした。
たぶんここでは、税金のことだとか、住居のことだとか、そう言った手続きに人が来ていて、公務員的な人がその対応にあたっているのだろう。
東条たちがここに来た用事というのは、俺を、『名誉騎士』に仮認定することだった。
この場合の『名誉騎士』がどういう意味合いなのか、俺にはよく分からなかったが、
東条は、
「この国に認められた特別な戦士さ」
とだけ説明した。
市庁舎で手続きをしてくれた人との会話を聞いていると、どうやら日本からこの世界を救うために転移してきた者はその『名誉騎士』の称号、特権を受け取ることができるらしかった。
「何かと便利だからね。年金や住居をもらえる権利もついてくる。君もこの国から報酬をもらえたほうが、やる気になるんじゃないかと思ってさ」
それを聞いて俺は少し微妙な気分だった。
それは重要なことなのだろうか。
もちろん俺にとってはありがたい話だ、クヴー砦で傭兵として働いたのにその砦が陥落してしまったから報酬を受け取っていない事もあるし。
しかし自分に利益のある話みたいだから文句も言わなかった。
それから俺たちは東条の家に行った。
東条はこの町に家を持っていたのだ。
「一等地だぜ」
東条は自慢気に言った。
市庁舎のある広場に近い、住宅地区の角の土地に彼の家は建っていた。
白い壁と紺色の屋根のコントラストがきれいな洋館だった。
館には何人かの若いメイドが住み込みで働いているようだった。
彼女らに出迎えられたあと、俺達は二階の『会議室』に向かった。
そこで四人目の『絶望勇者』に紹介された。
(俺が『絶望勇者同盟』に加入しているとすれば五人目なのだろう)
情報収集系の能力を持つ男、盛岡。
彼は十六歳だとのことだったが、子供みたいに背が低く、また、幼い顔つきの男だった。
「それでどうなの、盛岡くん、この町でもうすぐ戦闘になるってのは変わってない?」
姫川さんが彼に聞いた。
「フフン、間違いないね、変わってないよ」
盛岡が無邪気な笑みで答えた。
頼られているのが嬉しくて仕方ない、と言った感じだった。
「南のクヴー砦の方には攻城兵器と見られるものが集まってきてるね。やつらこの町の城壁を壊す気満々なんじゃないかな、それと北西の山の方に、空を飛ぶ奴らが進軍中みたいなんだ。明後日には両方がこの町に来るね。フフッ」
「空を飛ぶ奴ら?」
俺は聞いた。
「ガーゴイルみたいな奴らがね、いるんだよ、軍を作ってる」
「ガーゴイル?」
「ガーゴイル知らない? 背中から羽が生えてるやつ、まあ今来てるのは頭はトカゲなんだけどね。モンスターの分類としては何ていうんだろうね? 正式名称あるのかな? フフッ」
俺はこの盛岡という男と性格的に合わないかもしれないと思った。
今俺達がいるこの世界はこの世界という現実なのに、モンスターの分類だとか正式名称だとか、まるでゲームの中のことのように話すのがなんだか好きになれなかった。
なにか話題を変えられないかと思って、俺はまだ話していなかったことがあるのを思い出していた。
「ところで、俺は俺と同じように日本から来たっていう月澤って男……」
言いかけて、言葉が止まってしまった。『月澤って男をを殺したんだが』とは言いづらかった。
「ああ、彼ね、情報は持ってたよ。フン」
盛岡は自慢げに言う。
「彼は『絶望勇者同盟』の一員ではなかったんですか」
「違うよ。彼が犯罪に手を染めなかったら、一員として迎え入れることも考えたんだけどね」
東条が答えた。
「月澤ってやつが最後にどうやって死んだか、詳しい情報はこの僕も持ってないんだ。もしかして知ってるのかい」
「ああ」
俺はうなづいた。
彼を殺したと白状しなければならないところだろうか。
「もしかして……もしかすると、君が殺したのかい?」
「あの、それは違います」
話に割って入ったのは、ここまでずっと無口だったハーテだった。
「あの人は、ご主人さまに戦いを挑んだのですが、最後はあの人自身の炎を操る力で死んだのです」
「ん? あなた、月澤って男のことをあの人って呼ぶのね。それって……」
姫川さんがハーテの言葉に興味を持ったようだった。
「まあいいさ」
東条が話を仕切る。
「もし窪くんがその月澤ってやつを殺したんだとしても、後悔することはないと思う。僕らは日本という世界からこの世界に来た客みたいなものだ。同じ日本から来た者がこの世界で犯罪者になってしまったら、僕らの手で問題を解決しちゃうのも筋だと思うんだ」
もし俺が犯罪者になってしまったら、こいつに殺されるってことかな。
俺は冷めた気分でそんな事を考えた。




