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第四話:撃退

 俺の渾身の二撃で、トカゲの怪物の頭蓋骨は砕けたはずだが、奴はよろめきはするものの倒れはしなかった。

 まだ殴らなきゃ、そう思い、中段の突きをお見舞いする。

 棒の先端が怪物のウロコで覆われた皮膚に、ズンッと突き刺さる。


 脇腹のあたり、食らったのが人間であったなら到底立ってはいられない一撃だったはずだが、それほど効いていないようで奴はまだ倒れない。

 じゃあやはり頭か? そう思い、下から上へのすくい上げるような動きの一撃を奴の頭に打ち込む。確かな手応え。

 奴の大きな体は、2秒間をかけてゆっくりと地面に倒れた。


 一息ついて周囲を見回す。

 先ほどトカゲの怪物の鉤爪を食らって負傷した男を見ると、肩のあたりの傷を押さえながら、村の中心の方に退いていくところだった。別の男が付き添っているから、俺が心配することはなさそうだった。


(かなり血が出ていたな)


 松明の明かりに照らされた鮮血の色に、ゾクッとした。

 一つ間違えば、自分がそんな目に合う。


(最高じゃないか)


 最高に、生きてる感じがする。

 ブルッと体が震えた。


 俺は、次のトカゲの怪物に向けて距離を詰めていった。

 その怪物には二人の男がクワを持って応戦していたが、鉤爪の攻撃を恐れて有効打を繰り出せずにいるようだった。


「俺が相手だ!」


 そう叫んで、挨拶代わりに中段突きを腹にズドンと打ち込む。

 高い位置にあるトカゲの頭が、ギロリと俺の方を見た。


「キシャアアアアア!」


 耳障りな叫び声をあげて、トカゲの怪物の鉤爪が俺に向けて振り下ろされる。

 体が麻痺してしまいそうな、殺気の込められた攻撃。

 その刹那なぜか、俺は親父の声を聞いた気がした。


「いいか翔兵。棒術というのは、相手の攻撃を防いだ次の瞬間に攻撃する事ができるんだ」


 俺がまだ小さい子供だった頃、自宅の離れの道場で、親父に棒術を教わっている風景。俺も親父も棒を手にしている。


「上段打ちを、私に打ち込んでみなさい」

 おそるおそる、構えを取る子供の日の俺。


「さあ、打ってきなさい」

 厳しい父の声に、怯えながらも俺は技を繰り出す。


 その刹那、親父の構えていた棒がするりと動き、十分な余裕を持って、その端で俺の打撃を弾く。

 親父の棒の動きは止まらず、半回転して、反対の端が俺の頭から十数センチの位置に止められていた。


 寸止されていなかったら、死にかねない一撃を食らっているところだったと悟り、硬直する俺。


「両端が使える棒ならではの動きだ。攻撃を弾いた動きを止めずに、こちらの攻撃につなぐ。刀などではこうは行かない」

「はい」


 圧倒されながらも返事をする子供の俺。


「では、今度は、わたしがゆっくりと上段打ちの動きをするから、翔兵が今の動きをやってみなさい。攻撃を弾いた勢いを止めずに、攻撃につなぐんだ」

「はい!」


 トカゲの怪物の、鉤爪を振り下ろす動きと、記憶の中の親父の上段打ちが、重なって見えるような気がした。


 小さく息を吸い込み、棒の端で怪物の手首に当たる位置を打ち、攻撃を弾く。

 そのまま、棒の勢いを殺さず半回転させ、反対の端で、


 ガコンッ!


 怪物の顎のあたりを打つ。重い手応え。

 だが一撃で倒れてくれない相手だというのは先刻承知だ。

 剣道の面に少し似た動きで、正面に近い角度でトカゲの怪物の鼻っ面を打つ。

 さらに、間髪を入れずに、体重を込めた上段突きを決める!


 合計三撃を食らって、まるで倒れる大木のような動きで、怪物はダウンした。


 再び周囲を見回して状況を確認する。


 少し離れた方で、


「やったぞ!」

「ざまあみろ!」


 村の男達の声が聞こえた。

 男たちがトカゲの怪物を倒したのだろう。


 ほどなく、残っていた怪物たちは形勢が悪いと思ったか退いていった。

 戦闘は終結した。


 結局この夜に村を襲撃した怪物は5体。

 2体を俺が倒し、1体は村の男たちが倒し、2体が逃げていった。


 村の被害は、牛が一頭食い殺され、村の男の一人が左手を食いちぎられて失っていた。

 それ以外には、鉤爪の攻撃で怪我をしたものが6名、いずれも命に別状はないらしい。

 あとは村の周囲を囲む木製のフェンスは、何箇所も壊されたらしい。


 被害の確認などが終わって、俺はガンヘオさんと一緒に家に帰った。


「あなた! 大丈夫!? まあ、ひどい怪我をしてる!」


 奥さんのザオナさんがガンヘオさんに駆け寄る。服が血で赤く染まっているのを見て、ひどく心配していた。


「かすり傷よ」

 

 ガンヘオさんはそう言って、上半身の服を脱いで肩の傷口を見せた。怪物の鉤爪がかすったらしい傷跡は、すでに血が止まっていた。確かに重傷ではなさそうだった。


「それにしてもよ、アンタ、ずいぶん強いんだな。前に聞いた時は、兵士じゃないと言っていたはずだが」


 ガンヘオさんが手斧を暖炉のわきに置きながら、俺に言った。


「兵士をやってたことはないですよ、戦う訓練は、うけていましたが」


 そう答えて、俺は自分のベッドがある部屋に戻った。

 人生初の実戦を終えて、精神的にすこし消耗してる気がした。

 ベッドに倒れ込むと、すぐに眠りに落ちた。

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