第三十八話:虚しい正義感
東条、姫川、国吉の三名の『絶望勇者同盟』と俺、ハーテの5人は、砦から続く道を西に向かい、街道を目指した。
道中、保存食の干し肉などを分けてもらえたのは本当にありがたかった。肉を食べると体の回復が早まるような気がした。
夕方になる前に街道の宿場にたどり着いた。いつぞや炎使いの月澤が暴れて半壊させられた宿場とは別のところだ。
東条は慣れた様子で宿屋に行き、五人が泊まれる大部屋を一つ確保した。
全員その部屋に入り休むことにした。俺はハーテがやたら肩身が狭そうにしているのが気になった。自虐的な性格だから俺以外の三人にどう思われているのか心配なのかも知れない。あとで二人になったときにでも話をしなくちゃと思った。
窓の外が夕暮れに迫っていく部屋の中、しばらくの間はだれも口を利かなかったが、やがて東条が口を開いた。
「窪くんは……僕ら『絶望勇者』の仲間と考えていいよね?」
俺は顔を上げて彼の方を見た。
東条は男子にしては長めの茶髪の先を指でもてあそんでいる。
「どうかしら。わたしは賛成でも反対でもないけど」
姫川さんがあまり話に気乗りしていないという感じで答えた。
彼女はロングの黒髪はきれいだったが、顔つきはキツくて俺の好みではない。好みによっては美人と言えなくもない感じだろうか。
「戦力になるかどうかだよね」
国吉が静かな声で言った。
彼はジーパンにぶかぶかのTシャツという現代日本由来のラフな服装をしていた。
俺や、東条、姫川さんがすでにこちらの世界で手に入れた素朴な衣服に着替えているのと対照的だった。
「おれは、あの砦で、傭兵としてトカゲ人間とそれなりに戦ったつもりだけど」
その程度では足りないと言われるかな、と思いながら、一応言ってみた。
「棒術で戦ったってこと? 自分の身を危険に晒しながら? ある意味すごいことだとは思うけど……」
東条は何かを言いよどんでいるようだった。
「言いにくいことでもありますか? 俺なら、気にせずに言ってくれていいいですよ」
俺は言った。俺のプライドが傷つくとか、そんな心配なら無用だ。プライドってのは他人の言動に左右されるものではないと思っている。
「じゃあ言うけど、僕は『奪命の魔眼』と言う能力をもらってる。視界に捉えた敵を念じるだけで殺せる。トカゲ人間の兵士が相手なら百体相手だって負ける気はしないね」
そいつはすごいや、俺は心のなかで呟いた。
心にいくつかの思いが浮かぶ。
最初に思い浮かんだことは、そんな強力な能力なんてものは、邪道だという思い。
そうやって敵に勝利したとして、その勝利は嬉しいだろうか、という疑問。
俺ならば、そんな勝利は嬉しくない、喜ぶ気にならない。
俺が努力して身につけた力で戦って勝ったのでなければ、俺が勝ったことにならない。
勝ったのは俺ではなく、この世界に来た時に棚からぼたもちの如くもらえた能力だ。
どう考えても、俺が考える限りに置いて、そういう結論になるのだ。
だけど、その確固たる考えと、逆のことも思い浮かぶのだ。
あのクヴー砦の戦いにおいて、俺か、そうでなくても誰か一人がその『奪命の魔眼』とやらの能力を使えれば、どんなに良かったことか。
あの砦にいた、正規兵、傭兵。合わせて百人以上いたはずだが、誰か一人がその能力を持っていれば全滅せずに済んだのかも知れない。
俺に良くしてくれたテハクさんも死なずに済んだだろう。
俺さえ、この世界に来る時、『強い特殊能力が欲しいです』と言っておけば、クヴー砦だけで百人の命を救えたのかも知れない。
だとすれば。
『強い特殊能力を得ること』が邪道だと断じて拒否する、おれの正義感。
それこそ無意味で、無価値なものなのではないか。
十秒ほどの間に、そんな色々な思いが浮かんだ。
「念じるだけで殺せるのはすごいですね」
俺は、自分の思いから目をそらすように、そんな返事をした。
「君もなにか貰えばよかったんだ」
「そうかも知れないですね」
東条の言葉に、あまり本気ではない答えを返す。
今の俺は、たしかに能力の取得を拒否したことが間違っていたかも知れないと思っている。
だけど、この世界への扉をくぐったあの日。
リリーアに「力を得ることができる」と言われた時点の俺の心には全くゆらぎがなかった。
努力もせずに、強い力を手に入れるなんて間違ってる。
その信念はまったく揺るぎないものだったから。
「まあ、当面一緒に行動するのは良いんじゃないかな」
今まで無口な印象だった国吉がまた発言して、なんとなくこの話はまとまったような雰囲気になった。
『当面』ね。
心のなかで思う。
役に立たないと思われたら仲間から外されるってことかな?
「よろしくお願いします」
ちょっと憂鬱な思いも感じながらだが、俺は改めて挨拶をした。
「うん、よろしく」
軽い調子で返事を返す東条。
その時だった。
「あの……お聞きしてもよろしいでしょうか」
珍しく、ハーテが発言の許可を求めていた。
この三人と合流してから、ハーテはまた無口だった。
そして俺以外の人間に対して発言したのは、これが最初だった。
肌が褐色だからわかりにくいが、緊張のためか微妙に青ざめているハーテの顔を見て、俺は彼女が何かを強く心配しているのだと察した。




