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第三十六話:遭遇

 どうにか、立って歩くことができるところまで回復した。

 俺は、できることなら仲間の死体を埋葬してあげたかった。

 だが、まだまだ体は思うように動かないし、土を掘る道具もなく、相当に困難なことに思えた。


「街道まで戻って、なにかちゃんとした食事をとって、回復しないといけないと思います」


 ハーテも、死体の埋葬に時間をかけることに反対の意見だった。

 俺は折れた。たしかに今はそれどころではないと納得した。


 ハーテと二人、徒歩で街道に向かって進む。

 今、時間は朝。

 天気は曇り、過ごしやすい気温だった。


「宿場についたら、ちゃんとした食事ができるの、楽しみですね」

「そうだな」


 たわいない会話をしながら進む。ここ二回の食事は、ハーテが取ってきてくれた植物の実だけだった。

 量も少なかったし、ドングリみたいな実は苦味が強かったし、たしかにそれは『ちゃんとした食事』ではなかったかも知れない。

 だが食べるものを見つけてきてくれたハーテには感謝しかない。


「本当にありがとうな、治療してくれたこと、看病してくれたこと、食べ物見つけてくれたこと……」


「当たり前のことをしただけですよ」


「ハーテが傷口を縫う技術を持ってて助かったよ」


 俺は言った。

 意識を取り戻した直後は自分がどのような治療を受けたのか分かってなかったが、あとで針と糸で傷口を縫ったのだと知って驚いた。

 それは技術が必要なことだ。ハーテがその技術を持っていなかったら自分は死んでいただろう。


「お役に立てて嬉しいです」


「どこでそんな技術を覚えたの」


 俺は好奇心で聞いた。


「わたしのお父さんはお医者さんだったんです。お父さんが教えてくれました、わたしがまだ小さい頃に」


「へえ、それってつまり……」


「ご主人さま! 道の先の方に、誰かいます」


 不意にハーテが緊張した声を出した。

 目を凝らして前方を確認すると、たしかに遠くに、数人の人影が確認できた。


「危険かな?」


 俺は思考を巡らせつつも、ハーテに聞いてみた。


「分かりませんけど、向こうに敵意があると、まずいです」


 ハーテの言葉に俺はうなづいた。今、自分はほとんど戦えない。なんとか立って歩けるようになった所なのだ。

 棒での攻撃を何回繰り出せるか? もしかすると一回で体力が尽きてしまうかも知れない。

 相手に武器を持った男が一人いれば、それだけで勝ち目は薄いところだ。


「隠れたほうが良いかも知れません」


 ハーテは、道をそれた木立の方を見て言った。

 低木の茂みもあるから、そのあたりに身を隠すのは十分可能そうだった。


「そうするか」


 俺は同意した。

 あまり正々堂々としていないなと思ったが、この場合は仕方ない。

 幸いなことに、相手はこちらに気づいた様子はない。

 俺たちは道をそれて、木立の中に入っていった。

 さらに手頃な茂みを見つけて、その中に入り込む。


「ハーテ、だいぶ肌が出てる服装だけど大丈夫か、チクチクして痛くないか」


「大丈夫ですよ」


 ハーテは笑った。ちょっと苦笑のようでもあった。


 たしかに、命の危険があるかも知れない時に、肌がチクチクを心配している場合でもないか。

 俺も声を出さないで笑った。


 茂み越しに見ていると、俺達が見つけた人影は三人の若者であるらしいことが分かった。


 遠目から見た印象では、危険な犯罪者などのようには見えない。大きな武器を持っているようでもない。


 多少安心しながらも、俺は彼らが早く通り過ぎてくれないかと思いながら見ていた。


 やがて三人は俺たちが隠れている茂みの前を通り過ぎた。少し安心した。しかし横にいるハーテの方を見ると、その表情は固く、安堵している様子はなかった。

 俺も改めて気を引き締めた。彼らが視界から消えるまで、油断するべきではないだろう。


 見ていると、彼ら三人は、ピタリと足を止めた。

 その場で何かを話し合っている。


 何を話し合っているのか、なぜこのような道の真ん中で足を止めたのか。

 緊張して見守っていると、やがて三人の戦闘を歩いていた男が大声を出した。


「聞こえているか! 地球から来た転移者! 僕も転移者だ! 戦う意志はない! 出てきてくれないか?」


 少年のような声だった。そして、その言語は日本語だった。俺と同じように日本からこの世界に転移してきた人間に違いなかった。


「出よう」

 俺はハーテに声をかけて、茂みから立ち上がった。


「そんな所にいたのかい」


 少年のような声の男が言った。


「面倒事を避けたかったんだ」


 俺は、敵意をないことを示すために、右手を上げながら答えた。


「話をしたいだけさ。こっちに来てくれないか」


「今行く」


 俺はできるだけ弱っているところを見せないように歩いた。

 相手が信用していい相手かどうかまだ分からない。

 自分の弱みを見せるところではないと思った。


 三人は、先頭を歩いていたのが少年のような声の、中性的な顔立ちの男だった。

 その後ろに長身の坊主頭の男と、前髪が長く陰気な印象の女の子がいた。

 三人とも、俺と同じぐらいの年齢に思えた。十七前後に見える。


「よく来てくれた。僕たちは、自分たちのことを『絶望勇者同盟』と呼んでる」


 少年の声の男が言った。

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