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第三十四話:目覚め

 俺は、色々なイメージを見ていた。

 人は死ぬ間際に、自分の人生の様々な場面を走馬灯のように見るなどと言われているが、俺が見たのはまさしくそれだったのかも知れない。


 物心ついたころから始まり、高校生になって、家族が死んだ悪夢の日まで。

 無数の場面が心に浮かんだ。

 そして最後に、深く心に刻まれた、遺体安置所の風景。


 身元確認のためと言われて、もう人の形をしていないものもある遺体を確認させられる。


 父親と、母親と、祖父の遺体を確認した。

 最後に、妹の遺体を確認するために、遺体に変えられた布をめくると、そこにあったのは自分の死体だった。


 首の所にどす黒い穴が開いているのを見た途端、自分の首に激痛が走った。

 体は動かない。

 卒倒してのたうちまわることができれば痛みも和らぐようなこともできる気がするのに、それすらできない。


 やがて、なぜかすすり泣くような声が聞こえてくる。

 女の子の声。

 俺は、その声を聞いたことがあった。

 俺は、彼女の名前を読んだ。


「ハーテ」


 急に、世界が明るい光に包まれた。目を閉じているのにとても眩しい。

 首の痛みはあるが、世界を包む光はとても暖かなものに感じられた。


「ご主人さま!」


 驚いたようなハーテの声が聞こえた。

 すぐ近くに彼女がいるのか。

 彼女の姿を確認したいのに、目を開けることができない。


「ハーテ、そこに……」


 そこにいるのか、そう言おうとしたが、うまくしゃべれない。


「ご主人さま、喋ってはいけません、ご主人さまは首に怪我をしています」


 俺を心配している彼女の声を聞くと、なぜかすごく心が安らいだ。

 しかしそうか、首に怪我……。

 急に、記憶が蘇る。

 俺は、幽霊のトカゲ兵士たちに追い詰められ、殺された……のではなかったのか。


「首……」


 聞きたいことがあって、言葉を発するが、一単語発声するだけでもつらい。

 自分の体は相当に消耗しているようだ。


「わたしが見つけた時、ご主人さまは首から血を流して倒れていました」


「そうか……治療……」


「できるだけのことをしました、でも」


 ハーテが申し訳無さそうに言った。


「ご主人さまは大量に血を失っておられましたのに、ちゃんとした治療もできなくて、間に合せのことしか出来なかったのです」


 ハーテが俺を治療してくれた、のか。


「ありが……とう……」


「お礼などいいですから、今はあまり喋らないほうがいいです、首の傷がひらいてしまうかも知れないのです」


 おぼろげに状況が分かってきた。

 首を刺されて生死の境をさまよった俺は、ハーテに応急手当をされて、かろうじて一命をとりとめた所なのだ。


 ようやく目を開けることができた。

 ほぼ晴れた空。今は雲に隠れている太陽。視界の端に木々の先端が見える。

 俺は地面に横たわっていて、その場所は俺が最後まで戦っていたあの場所らしい。


 どうして敵が俺にとどめを刺さなかったか、よく分からないが、俺は今危機を脱したあとの状態らしい。


「ベッドもありませんけど、今は体を休めてください、まだ動けるような状態ではないと思います」


 俺は小さく頷いた。

 その僅かな動作でも、首の傷が痛んだ。

 けど、痛みを感じるというのは、自分がまだ生きている証だ。

 俺は安堵を感じた。


 ハーテはあくまで心配そうな表情でこちらを見下ろしている。

 褐色の肌、真っ白な髪、背景の青い空と白い雲。

 そのコントラストがとてもきれいに思えた。

 俺は目を閉じ、眠りに落ちた。


 次に目を覚ましたときには、夕方だった。

 ハーテは相変わらずそばにいた。もしかしていっときも離れずにいてくれたのだろうか。

 彼女は俺に水を飲ませた。

 水筒に入っていたただの水だろうけど、水が体に滲みていってすばらしく体が回復しているような気がした。


 そして昼間に目を覚ましたときよりは、喋るのも楽になっていた。


「敵は……見なかった?」


 俺は気になっていたことを聞いた。


「見ませんでした、ご主人さま。私が見つけた時、ご主人さまは血を流して倒れていましたが、敵の姿は見えませんでした」


「そう……か」


 何らかの理由で、敵は俺にとどめを刺さずにいなくなった。それが何故なのかは今考えても分かりそうになかった。


「ハーテは……どうして……一人?」


「それは、砦の女の人達と一緒に逃げていたのですが、わたしがわがままを言ったのです。みんなは街道の方向へ急ごうとしていたのに、わたしはご主人さまを待ちたいと言って、それで別行動にさせていただきました」


 俺のために単独行動していたのか。危険かもしれないのに。


「ありがとう……な」


「お礼を言われることではないです、わたしはご主人さまの奴隷なのですから」


 改めてそれを言われて、ドキッとした。

 この異世界に来る前に自覚したことはなかったけど、俺は女の子が自分の所有する奴隷であるという状況が好きな人間だったのかも知れなかった。


「夜になりますね」


 このタイミングでハーテがそう言ったので、一瞬頭の中にピンク色の妄想がよぎった。

 それどころじゃないと邪念を打ち消す。


「ご主人さま、このまま地面の上に寝ていると、体温を奪われてしまいます。少しだけでも動けますか?」


「ああ」


 俺は答えた。

 危うく失血で死にかけたとは言え、一応の治療も受けて、長時間体を休めた。

 少しぐらいは動けるはずだと信じた。

 ゆっくりと上体を起こす。


「ふうーっ」


 おもわず大げさな声が出てしまった。

 上体を起こしただけで貧血で意識が遠のきかけた。

 けど、もう横になるのは嫌だったから、耐えた。


「もう少しそのままでいてください」


 そういうハーテの方に視線をやった瞬間、俺の思考は固まった。

 どういうわけか、ハーテは服を脱ごうとしていたのだ。

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