第三十三話:全滅?
俺は何がおきたのか、理解できなかった。
白い半透明のトカゲ兵士たちが恐るべきスピードで接近してきて、剣を抜いた、そこまでは間違いない。
だが、こちらも油断していたわけではない、敵の攻撃が来るのは分かっていた。
それなのに、どうして。
ほんの一瞬で味方の三人が倒されてしまったのか、俺は理解できなかった。
残り、俺を含めて十一名。
「でやぁ!」
正規兵の一人が叫びながら、剣を振るった。渾身の一撃だったのだろう。
だが、攻撃目標になった幽霊のトカゲ兵士は、避けるような様子も見せなかった。
そして、剣は何の手応えもなく、トカゲ兵士の身体がある空間を通り抜けた。
「こいつ、攻撃が効か……!」
多分彼は『効かない』と言おうとしたのだろう。
だが、幽霊のトカゲ兵士はその暇を与えなかった。
幽霊のトカゲ兵士が振るった剣は、狙い外さず男の首の組織を破壊した。
残り十名。
「どうすれば良いんだ!」
「こっちの攻撃は効かず、向こうの攻撃はアリなのかよ!」
浮足立つ味方たち。
俺もどうして良いか分からなくなって、隣りにいたテハクさんの顔を見た。
「全員逃げろ! 逃げるんだ!」
テハクさんが叫ぶ、それを聞いて多くのものが幽霊トカゲ兵士に背を向ける。
だが、二人ほど、諦めの悪い男がいた。
なにかアイデアがあったのか無かったのか、二人は幽霊トカゲ兵士に向かって剣をふるったが効果はなく、返す攻撃で命を失った。
残り八名。
残った八名は全速力で走った。
ひたすら敵から遠ざかる方向に走る。中には、武器を放り投げて逃げるものもいた。武器の分だけでも重量を軽くして、素早く逃げるためだろう。
だが、追いかけてくる敵のスピードは、信じられないほど早かった。
奴らは剣を振るう時は地に足をつけているようだが、追ってくるときにはわずかに宙に浮き、翔ぶが如くスピードで迫ってくるのだ。
「ぐわあぁ!」
剣で斬られた味方の悲鳴がいくつか重なる。
一瞬で、さらに四人の仲間が命を散らしていた。
残り四名。
「ショーヘー!」
テハクさんが大声で叫んだ。
「全力で走れ! 後ろを振り返らず走れ!」
テハクさんは叫びながら大きな手のひらで俺の背を叩き、俺に逃げるように促した。
俺は言われたようにした。
敵も味方も置いて逃げ出したのだ。
恐怖と、それ以外の感情とで、頬を熱いものが伝った。
「生き残れ、ショーヘー!」
もう一度テハクさんの声が聞こえた。
さっきより声が遠い。
最後に残ったテハクさんを含む三人が、俺を逃がすために囮になっているのだ。
俺は歯を食いしばって、走った。
二人分の、男の断末魔が聞こえた。
今生き残っているのは二名、俺とテハクさんのみ。
心肺機能を限界まで酷使して、走る。
頭がガンガン痛い。
酸欠か何かで視界が赤く染まっている気がした。
「お前は俺達の希望……」
テハクさんの声が聞こえたように思えたが、それが本当に聞こえたのか、幻聴のたぐいなのか俺には分からなかった。
気がつくと、いつの間にか前方に幽霊トカゲ兵士が回り込んでいた。
右を見ても左を見ても奴らがいた。
思考が停止してしまった混乱状態で後ろを振り返ると、離れた所にテハクさんが死んでいるのが見えた。
俺は、幽霊トカゲ兵士たちに、完全に包囲されていた。
その数は、少なくとも二十はいただろう、数える気にもなれなかった。
絶望的状況だった。
自分の命が助からないであろうこともあるが、俺を生き残らせるために十三人の仲間が死んで、それが無駄になってしまうことが辛かった。
なぜだか、俺は笑っていた。
発狂寸前だったのか、すでに発狂しかけていたのか、笑う表情になるのを止めることができなかった。
俺の命は風前の灯。
ならば最後に、全身全霊の攻撃を放ってから死のうと思った。
これが最後の思いを込めて、棒を構え、
「うおぉぁ!」
吠えるような気合の声とともに、正面の敵に渾身の上段打ちを放った。
その攻撃は無情にも空を切ったかのように、幽霊の体をすり抜けてしまう。
攻撃された幽霊は剣を引き、無造作にすっと突き出した。
その切っ先は俺の首筋にずぶりと突き刺さった。
体の中に鉄の刃物が刺さっている、この上なく気持ち悪い感覚が俺を打った。
やつ、俺を刺した幽霊トカゲ兵士は大きなトカゲそのもののような頭に、気色悪い笑みを浮かべてから、剣をすっと抜いた。
俺の首筋から噴水のように赤い血がしぶいた。
急激に意識が遠のいた。
自分の体がぐにゃりと歪んだような気がした。
意識が完全に闇に落ちる前、俺はなにか明るい光を見たような気がした。
その光が何なのか、考える余裕もなく、俺は意識を失った。




