表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/44

第三十二話:撤退

「おい、何があったんだ? あの声はどういうことだ」


 砦内部中央の集合場所に戻ったテハクさんと俺を、その質問が迎えた。質問を発したのは兵士の一人だが、その場にいた他の人間もその答えを聞きたがっているのは明白であるように感じられた。


「あの『魔術師』野郎、空を飛べるみたいだ。ピョーンって飛び上がって空中に静止したんだ。おかげで見つかっちまったぜ」


 テハクさんが飄々とした様子で、そこから話を始めた。


「それで」


「それで……」


 テハクさんは言いかけて一度口を閉じた。『魔術師』の放った黒い弾の攻撃が、俺に通用しなかった事を言おうかどうか迷ったらしかった。


「あの『魔術師』野郎には、ショーヘーが何か特別な存在だと分かったらしいんだな。やつが言ってるのは、ショーヘーを差し出せば、俺達の命は助けてやると、やつはそう言ってるわけだ」


「特別ってのは……」

「あの野郎の声、封印逃れ、って言ってたよな」

「『宿命封印』を逃れてるってことか!?」

「ショーヘー、お前は……」


 皆が騒然とし始めた。


「ああ、『宿命封印』の事なんだろうな」


 テハクさんが皆を制止するように大きな声で言った。


「やっぱり『宿命封印』は完成しちまってるのか……?」


 兵士の一人が暗い顔でそう吐き捨てた。


「らしいな。俺たちにはもう『暗黒の王』を倒す可能性がない、しかしショーヘーにはあるってことか。あの『魔術師』は『暗黒の王』の忠実な部下ってところかな。ショーヘーを捕まえるか殺すかすると、『暗黒の王』に褒められるんだろうぜ、多分」


 テハクさんがそう説明すると、皆は黙り込んだ。


「さて、ここに残った戦士の中に、ショーヘーを売って自分の命は助かりたいっていう腰抜けはいるかな?」


 テハクさんの口調は挑発するようでもあった。

 俺は固唾を呑んで皆の反応を待つ。


「……ふん、俺ら全員の生殺与奪が握られているなら、問題になったかも知れんな」


 黒髪の髭面の兵士が、低い声で言った。

 俺は彼が何を言おうとしてるか分からず、次の言葉を待った。


「だが今の俺達の状況は違うよな? 俺たちはこのあと撤退する、少なくとも俺はそのつもりだ。仲間を売って命乞いする必要は感じないね」


 彼の言葉にその場にいたほとんどの人間が頷いたので、俺は心底安心した。


「皆の食事を作ってくれる女性陣ももうこの砦から撤退済みだ。もう長期間にわたってこの砦を守ることはできん。今からでも撤退するのが良いんじゃないかと思うね」


 テハクさんが言うと、意外なことに皆の表情に活気が満ちてきた。


「よし、やってやるぜ」

「非戦闘員の女どもを守ってやる必要もあるしな」

「次の防衛はグリベだな、そこで負けなきゃ良い」

「よーし! 皆で逃げるぜぇ?」


「撤退も戦いだからな。まったく、戦いが好きなやつばっかりだぜ」


 みなが活気づいた事を意外に思っている俺に、説明するかのようにテハクさんが言った。


「よし、皆逃げるか。奴らに気付かれないようにな。奴らがこの砦に人がいると思ってる間、奴らを食い止められるわけだからな」


 俺たち、総勢十四人は、砦からの撤退を開始した。

 砦の、奴らがいる方と反対側の出口から、こっそり出ていく。


「持っていけよ」


 一人の正規兵が、俺に松明を手渡した。

 自分の得物(えもの)は両手で扱う棒だから、松明は持てないと言おうとすると、


「戦うときが来たら地面に落としときゃ良いんだよ」


 そう言うので俺は松明を受け取った。


 砦から外に出る。外はまだ暗いが、もしかすると砦の向こうの東の空は明るんでいるのかも知れない。


「絶えず上空を見張っていよう」


 テハクさんが言った。


「やつ、『魔術師』は空を飛べるからな、気をつけるに越したことはない。だが、敵に見つかったとしても弓は使うな、跳ね返ってくるかも知れん」


「走るか?」


 誰かが言う。


「女達は街道の方まで逃げたとは思うが、近くの山の中に避難している可能性もある。足跡を見逃さないようにしないとな。全力で走るのは無しだ」


 テハクさんはすっかり皆のリーダー的な存在になっていた。

 彼の指示の下、皆で夜の道を早足で急いだ。

 だが、体感時間で十五分も経たないうちに、変化があった。


「テハク! なにか白いものが出た! こっちに来そうだ!」


 後ろの方を走っていた男が大声で叫んだ。


 白いものだって? 俺は疑問に思う。


 ともかく、皆が砦のほうを見た。


 確かに、白い霧の塊のような何かが、砦のこちら側に出現していた。

 それが何なのかは分からない。

 トカゲ兵士たちであれば、色が違う、奴らは青みがかかった色の皮膚に鉛色の鎧を身に着けていた。


 敵の援軍だろうか、そんな事を考えていると、その白い何かは恐ろしい勢いでこちらに向かってきた。

 多分、通常の人間の全力疾走より早い。


「追いつかれる! 迎え撃つぞ!」


 誰かが言った。皆が、剣を抜き、武器を構えた。

 俺も松明を地面に放り投げ、棒を構えた。

 白い何かは勢いを緩めずに、こちらを追ってくる。それはトカゲ兵士の形をしているようだった。


 幽霊……!?

 その言葉が浮かんだ。

 白い霧の塊のような、半透明なトカゲ兵士たち。

 そいつらが俺たちにふわりと迫ってきて、剣を抜き、襲いかかってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ