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第三話:怪物の襲撃

 それから一週間が過ぎた。

 その間俺は、村の外れにある一軒の農家にお世話になっていた。


 戦いたい、と言う気持ちがなかったと言えば嘘になるが、まずはこの世界のことを知ることが優先だと思ったのだ。

 畑を耕す仕事や、家畜の世話などを手伝って、食事と寝る場所を提供してもらっていたのだ。

 肉体労働は骨が折れたけど、これからあるであろう戦いに向けて、体を鍛える意味があると思った。


 異変が起きたのは七日目の夜だった。

 寝床に横になって、もう眠ろうかと思っていたとき、にわかにあたりが騒がしくなった。俺は跳ね起きる。


「どうしました?」


 家の居間に出て、集まっていた家の人に聞く。


「化け物が出たんだ! 村の中に入ってきてる!」


 家の主人である、ガンヘオさんが、緊張した面持ちで言った。立派な体格の、中年の男だ。


「やつら、家畜を食い荒らしたり、人間を襲ったりするんだ! 俺は奴らをやっつけるぞ!」


 そう言って、ガンヘオさんは、暖炉の脇においてあった手斧を拾い上げた。


「あなた、危ないわ、あなたが怪我でもしたら……」


 ガンヘオさんの妻のザオナさんが、心配そうな顔でそう言った。ザオナさんは明るい髪の色の、若い人だ。


「俺は大丈夫だ、だからザオナ、子どもたちと家の中にいろ、絶対外に出るな。戸締まりをしっかりして、騒ぎが収まるまでじっとしてるんだ!」

「あなた……」


 ザオナさんは、ガンヘオさんを止めようとしていたようだが、それはムリだと悟ったのか、視線を落として口を閉じた。


「それからアンタは……」


 ガンヘオさんが、俺の方を見た。


「俺も戦います」


 俺は、即座に答えた。


「そうか、なら……」


 ガンヘオさんが、部屋の中を見回した。なにか武器になるものを探しているらしい。


「納屋にあった長い棒、あれ、武器に使っていいですか?」


 俺はそう聞いた。以前、納屋に行ったときに、2メートル弱ぐらいの長さの棒があるのを見つけて、武器になりそうだと思っていたのだ。


「お、おう、そんなもので良ければ持って行け!」

「行きます!」


 俺はそう言って、家を出て、納屋の方に向かった。

 自分のあとにガンヘオさんが、右手に手斧、左手に松明を持って、家を飛び出した。

 家のドアの閂が閉まる音を聞いて、緊急事態が始まっているのだと実感し、高揚感を覚えた。


 納屋に入り、前から目をつけていた棒を取り出す。

 広い場所に出て、俺は、棒を振り回してみた。

 体の右側でブンブンと回し、それからなめらかな動きで、左側でも回す。

 棒術の一つの基本動作だ。


 俺の親父は変わった人だった。

 自身は普通のサラリーマンだったが、武士道の本などをよく読み、その心を俺によく話していた。

 俺自身は武士道関係の本を読まされることはなかったが、その心、理念については、聞き飽きるぐらいには聞かされて育った。


 また、家には、それほど広くないが、道場のような離れがあり、そこで俺は親父から棒術を教わっていた。

 2メートル弱ぐらいの長さの棒を使って、戦う術だ。

 そんなものを教わっている高校生なんて、滅多にいないだろう。


(こんな風に役立つ日が来るなんてな)


 納屋にあった棒は、片方の側が少し太く、もう片方の側が少し細かった。

 その点は、棒術の訓練に使っていた棒とは違ったが、扱うのに支障はなかった。


 夜の村に、慌ただしく、いくつもの松明の火が動いていた。

 村の戦える男たちが、武器を手に、ある方向に向かって集まっているようだった。

 俺はその流れを追った。


 

「おりゃーっ!」


 村の男の誰かが、叫びながら、クワで怪物に殴りかかっているのが見えた。

 怪物。

 それは、地球には似た生き物もいないような、異形だった。


 強いて言えば、全長4メートルほどのトカゲ。

 だが、それが、後ろ足で立ち上がって、二足で歩いている。

 その頭は、高さ2メートル以上から、俺たちを見下ろしていた。


 村の男のクワの攻撃は、怪物の一体の胸のあたりを打ち、よろめかせた。

 だが、それで倒せたわけでもないし、怪物は一体だけでもない。

 見える範囲で、4体はいた。まだ他にもいるかも知れない。


 俺は、奇妙な、高揚感を覚えていた。

 幼い頃から、親父に体を鍛えられてきたし、棒術も教わったが、その棒術で生き物を殴ったことは一度もなかった。


 実は、殴ってみたかった。

 生き物を。

 敵を。

 その夢が、今叶う。


「ぐわあ!」


 違う方向から、男の悲鳴が聞こえた。

 今まで見えていなかった5体目の怪物が、そのかぎ爪で、村人に怪我を負わせたらしかった。


 俺はその怪物に接近し、

 構え、

 上段からしたたかにその怪物の頭を打った。

 さらに、勢いを切らさずに、そのままの流れで、突きをお見舞いする。

 怪物の頭部の骨が砕ける感触があった。


 俺は、俺の心が喜びに震えるのを感じていた。

 それは、悪い喜びなのかもしれなかった。

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