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第二十五話:嵐の前の静けさ

「ふん、まとめるとこういう事か」


 薄暗い病室で、ベスクさんはベッドの上にあぐらをかいている姿勢でこちらをまっすぐに見つめている。


「ショーヘー、あんたは敵のスパイではないし、敵と通じてもいない。だがここから三日の所に強い敵がいることを知ってるっていうんだな?」


「知っていると言うか……」


 困った。

 どうしたものか。

 すべて正直に話すべきだろうか、自分が違う世界から来たとか、そのあたりから。

 そんな突拍子のない話を信じてもらえるだろうか。


「ショーヘー」


 ギガボドさんが優しい声で俺を諭すように言う。


「お前が敵でないなら、全てを喋るところだぞ。今お前は敵じゃないかと疑われてるんだ。いわば最悪の状況。ここから何かを言って状況が悪くなることはない」


 マジかよ。

 今そこまで強く疑われてるのか。

 ショックだったがある意味スッキリした。

 すべて話そう。


「全部話します。俺には、天使か妖精かよく分からないリリーアって存在がついていて、そいつから聞きました。『暗黒の王』か、もしくはその力を持つ存在が、徒歩三日以内の場所にいると」


「天使?」


「リリーア?」


 二人が俺に聞き返す。


 俺は自分の秘密を喋ってしまった。もう、聞かれたことには全部答えるしか無い。すこし肩の荷が降りたようではあるが、なんだか心臓が高鳴っていた。


「彼女はリリーアと名乗りました。俺は、この世界じゃない世界に住んでいたんですが、リリーアにこの世界を救ってほしいと言われて、この世界に来たんです」


 俺はその後いろいろ聞かれたが、その全てに答えた。

 幸いと言うべきか、『敗北の宿命』とやらのことは聞かれなかった。この世界の人間のすべてが、暗黒の王に勝利する可能性を奪われていると言う話のことだ。


「良くないな」


 一通り話したあとで、ベスクさんが呟いた。


「良くないですか」


 意味がよく分からないながらも、俺はオウム返しにした。


「良くない。そのリーリアとか言う、天使をみんなに見せられれば、まだしもなんだが」


「ああ」


 俺は納得する。良くないとはその点か。


「いいか、俺たちはショーヘー、お前を信用することにする。一度とは言え一緒に戦った仲間だからな」


「そうだな」


 ギガボドさんもうなづいてくれた。

 信用されたことは素直に嬉しかった。


「それで、すぐ近くに強い敵が迫ってるって話だがな、やはり誰にも話すべきじゃないだろう。匂わすのも良くない」


「そう……ですか」


「危険を知らせたいのかも知れんが、そもそも砦ってのは常に臨戦態勢にあるべき場所だ。取り立てて危険を知らせる必要はない。常に危険に備えているのでなくては嘘だ」


「はい」


「強い敵が来ている事を知らせたい気持ちは分かるが、お前が疑われるマイナスの方が大きい。お前一人の問題じゃなくなる、他にスパイがいるかもと思われたら全軍の士気に関わるんだ」


「……分かりました」


 俺は納得した。


「この話はとりあえずここで終わりだ。数日後に敵襲があるかも知れないというのは俺達の胸にとどめておく。その日までに戦えるように、俺達は心構えをしておく」


「はい」


 一時期険悪な雰囲気になりかけたが、どうやら最悪の事態は避けられたようだ。


「それでだな」


 ベスクさんがまた深刻そうな顔をしたので、俺はドキッとした。

 まだ問題があるのか?

 そう思っていると、


「その、お前がいたっていうニホンとか言う国の話しろよ! 面白そうじゃねえか」


 急な笑顔になった。

 気が抜ける思いだったが、俺は大いに安心した。


「何でも話しますよ」


 俺は笑いながら言った。

 自分が異世界から来たってことを話した以上、もう何かを隠しておくことはない。

 なんでも話そうと思った。


 そして、二日が経過し、三日目の日になった。


 俺とベスクさん、それにギガボドさんも、病室を卒業していた。

 俺はまだ傷が痛むが、戦闘になれば参加するつもりだった。

 危険が今日やってくるなら、その時病室で寝ていたくはない。

 二人も同じ気持ちだったのだろう。


 二人は俺のような傭兵ではなく正規兵なので、正規兵の訓練を受けている。

 百人弱の兵士たちが今は剣の素振りに励んでいた。


 その隣では俺たち傭兵隊が、思い思いの訓練をしている。使っている武器が正規兵の使う剣ではなかったりするので、正規兵と同じ訓練はできないのだ。


「よし、休憩とする!」


 大隊長が正規兵に号令をかけた。皆が手を休める。

 そのタイミングで傭兵たちのほとんども休憩を取るようだった。


 俺も棒の技を一人で練習するのを休んで、兜を脱いで額の汗を拭った。

 支給された兜はいざという時に頭部を守ってくれるのは間違いないだろうけど、かぶってると汗をかいてしかたなかった。


「よっ、傷はもう大丈夫か」


 声をかけてくれたのは前の戦闘のとき世話になったテハクさんだった。

 長剣使いの傭兵隊員。今も両手で扱える長い剣を携えている。


「まだちょっと痛みます」


 正直に言う俺。


「無理はするなよ」


「はい」


 そう答えたあと、俺は半ば無意識に、東の荒野を眺めた。

 今にも、この方角から強大な敵がやってくるのだろうか?

 だが、自分の目で見る限り、そういったものは見えなかった。


 一日が終わり、夜になった。

 ベッドに潜り込み、体を休めていたとき、俺はけたたましく鳴る鐘の音を聞いた。

 敵襲か。


 俺は跳ね起き、装備を身に着けて部屋を出る。

 すでに廊下には同様に目を覚ました仲間たちが、集合場所に向かおうとしているところだった。

 俺も合流し、集合場所を目指した。 

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