第二十三話:暗黒の世界情勢
「時間がないというのは、どういうことですか」
俺が聞くと、
「そのまんまの意味さ」
大男は陰鬱な笑みを浮かべて、そう言った。
「つまり、あんたがその手で『暗黒の王』を討ち取りたいと言うなら、あんたは大将軍の隊にでも入らにゃならんだろうな、多分。精鋭ばっかりが集まるところさ。あんたは何年間もかけて、そこまで出世せにゃならんわけだが……」
「その前にこの国が滅ぶか」
最初に会話していた、年配の人がそう続けた。
「この国だけで済むかどうか……この四年で、北ザラマ十三国のうち、八国が落とされたんだ。残り四国が落ちるのに、一年かかるかどうか」
「その四国のうちに、この国も入ってるんですね」
俺は聞いた。
そうしたら、なんだか大男に呆れたような顔をされた。
あまりにも常識がないと思われたのだろう。
「まあいいさ、分からないことは恥ずかしくても聞け、って言葉もある」
年配の方の男が言った。
俺は日本語にも同じようなことわざがあるな、などとのんきな感想を持っていた。
「いいか、俺達のいるのが北ザラマ大陸だ。十三の国がある。暗黒の王が統べるブルド国は東の方にあって、我らがテホド国は西の方だ。四年前に、ブルド国は隣国ヒカラに侵略し、全領土を征服しちまった。これが始まりだった」
年配の男は俺の理解を確認するように一度言葉を切った。
俺は理解できたという意味でうなづいてみせた。
「あのころ、周辺諸国は大いに驚き、警戒したものの、まさか世界の終わりが始まっていたとは思いもしなかっただろうぜ。ヒカラ国もブルド軍に対しできるだけの抵抗をしたわけだから、ブルド国の軍事力も疲弊しているはず。いつまでも侵略を続けることができるはずもなかったんだ、普通ならな」
「だが、普通じゃなかった」
俺の後ろで、大男が短く言った。
「ああ、普通じゃなかった。外交的働きかけに応じなくなったブルド国に攻め込んだのはヴサカ国だった。単純な国力の比較でも、ヴサカが負けると思ったものはいなかっただろうよ」
「そのヴサカと言う国は、負けたんですか」
「おうよ。兵力が疲弊しているはずのブルド国の国境を超えたヴサカ軍が見たのは、それまで誰も見たことがなかったトカゲ兵士の軍だった。一体どこから湧いて出たのか、知るものはいない」
「『ワルディナの悪夢』だな」
大男のほうがつぶやく。
「それだ。ヴサカは大敗を喫した。その後のブルドはヴサカに侵攻を開始し、ヴサカは結局耐えきれず、海が海竜のものになってからブルドに滅ぼされた二番目の国になった」
「『海が海竜の……?』」
わからない言葉があったので、俺は聞き返した。
「かんたんに言やあ、ここ百年のことさ」
「百年以上前には、海には海竜がいなくて、人間が大きな船で大海原を自由に駆け巡ってた、らしいぜ」
年配の男と大男が説明してくれた。
「それで、ブルド国は、次々と近くの国を滅ぼしていったんですね」
俺は聞いた。
「そうよ。それを可能にしたのは、無限に湧いてくるんじゃないかと思えるほどいるトカゲ兵士どもだな。本当に、どこから湧いてくるんだか」
「ワルディナ城の地下に、悪魔の世界につながる扉があって、やつらそこから無尽蔵にこっちにやってくるんだ」
大男のほうが妙に具体的な情報を言った。
「ああ、そう言われてるな。だが、誰もそれを見たものはいない」
「まあな」
「とにかくだ」
年配の男が拳の上に顎を乗せて、ため息まじりに言った。
「今や、北ザラマ諸国も、ブルドを除くと四国。メジ国、フノブ国、我らがうるわしのテホド国、西端のウゾキ国だ。次にブルドがどこに攻めてくるかは分からん、まあウゾキ国は国境が隣接してないから、後になるだろうが」
「俺らが戦ったトカゲ兵士は、あれはブルド国の侵攻ではないのですか」
「ああ、あれは違うだろうな。時々散発的な攻撃が来るが、あれはブルド国の軍事行動ではないだろう。おそらくあのトカゲ兵士たちは軍とは別の存在だ、行ってみれば強盗団か山賊か、そんなものなんだろう」
「色々教えてくれてありがとうございます」
俺は頭を下げた。
「なんだ、もういいのか」
「また何か知りたくなったら教えて下さい」
「おう、何でも聞け。ここは暇でいかん」
俺はベッドから降りる。
脇腹の傷がずきりと痛かった。
「どこ行くんだ」
「ちょっと外の空気を吸いたくなって」
「無理すんなよ」
「はい」
その部屋を出て、砦の上に向かった。
見張り塔のような場所に着く。
辺りに誰もいないのを確認して、俺はリリーアに呼びかけた。
俺をこの世界に連れてきた神秘的な存在。
彼女は力を蓄えてからでないと俺の前に姿を現せないらしいが、前回から何日も経っている。
今度は少しは長時間の話ができるのではないかと期待した。




