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第二十二話:暗黒の王を倒すために

 他の負傷した人と一緒に、俺は砦の中の病室で休んでいた。

 横になっている以外やることがない、これは退屈だなと思っていると、


「ご主人さま!」


 その言葉とともに、ハーテが部屋に入ってきた。

 俺が身を起こすと彼女は俺の所に駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか、ご主人さま、お怪我をされたと聞きました」

 そういう彼女は、泣き出しそうな顔をしていた。


「かすり傷だって言われたよ。しっかり治療もしてもらった」


 俺はそう言って、包帯を巻いてもらった脇腹を見せた。


「おいたわしいです。でも、良い薬草を使って貰ってるみたいですね」


「そんな事がわかるの」


「薬草のことはすこし分かります、この匂いは傷口に良い薬草です」


「そうか」


 ハーテは遠慮がちに、僕の手にそっと触れて、


「早く良くなるよう、お祈りしています」


 うつむいてそう言った。


「ありがとう。それより、ハーテはどうしてるの? 最近、なかなか話す機会も無かったけど」


 俺は聞いた。

 俺は傭兵として、彼女は雑務要因としてこの砦で働いているわけだから仕方ないのかも知れないが、一日に一度も顔を見ないこともあった。少し寂しかった。


「申し訳ないです、沢山仕事を言いつけられてしまいまして」


「つらい?」


「いいえ」


 彼女はまっすぐにこちらを見た。その表情はわずかに微笑んでいるように見えた。


「仕事を申し付けられると、わたしにもまだ価値があったんだと思えて、嬉しいです」


「そうか、よかった……。やっぱり、君は無価値なんかじゃなかっただろう?」


「……わたしが思っていたよりは、少しは価値が残っていたみたいです」


 ハーテは少しうつむいた。

 彼女の中の自虐的な気持ちは、まだ根強いらしい。


 俺が、どう言葉をかければいいか悩んでいると、


「すいませんご主人さま、わたし、もう仕事に戻らないと」


 少し悲しそうに彼女はそう言った。


「え、そうなの」


「お許しください」


 ぺこりと頭を下げるハーテ。


「わかった、仕事頑張って。もし時間ができたら、会いに来てくれると嬉しいけど」


「はい、できるだけそのようにします」


 彼女はもう一度お辞儀をして部屋を出ていった。


 俺はまたベッドに身を横たえた。

 これからまた何時間か、代わり映えのしない天井を眺めて過ごすのかと思うとため息が出た。

 するとそのとき、


「おい、さっきの子はあんたの奴隷か?」


 隣のベッドに寝ていた男が声をかけてきた。

 肩の辺りを負傷している、年配の人だった。


「そうですよ」


 話し相手が欲しかったところではあったので、俺は答えた。


「顔は可愛いじゃないか、体は細くて俺の好みじゃないが……。ベッドの上ではどうなんだい、あの子」


「えっ……セックスの話ですか」


「他に何があるよ」


 あまり好ましい話題には思えなかった。


「まだ、抱いたことはないです」


 俺は正直に答えた。


「なんだそうか。あの子の体に興味はないのか?」


「それは、あります」


 俺は少し照れくさいが正直に言った。


「じゃあ抱いてやりゃあいいじゃねえか。あの子、どう見てもあんたに惚れてるだろ、奴隷のくせにさ」


「それは、よく分からないですが……この話題、やめませんか」


 俺は気まずい思いに耐えきれず、話題の転換を提案した。


「なんだよつまらん。なんか他に楽しい話題でもあるのか?」


「うーん、楽しい話題は思いつかないですが」


「じゃあ楽しくなくていいや、なんか話題はないのかよ」


「それは……」


 俺は深い考えもなしに、思い悩んでいたことを口にしてしまった。


「俺、『暗黒の王』をこの手で倒したいんですけど、どうすればできますかね」


「ははっ」


「おかしいですかね」


 やはり笑われるか、そう思った。


「いや、若いもんは夢があっていい。けど、奴の『宿命封印』が実際に完成してるとしたら、どうするんだね」


「『宿命封印』?」


「おうよ、この世の生きとし生けるもの全てから、『暗黒の王』を倒す可能性を奪う儀式よ、まさか知らんのか」


「ああ、聞いてますよ」


「それが完成しているなら……誰も、『暗黒の王』は倒せない。だろ? この前の赤い月がのぼったあの夜に、『宿命封印』は完成しちまったって、もっぱらの噂だが」


 俺をこの世界に連れてきたリリーアの言葉を信じるなら、違う世界から来た俺はその『宿命封印』とは関係ないはずだが、それは今言うべきかどうか迷った。


「でも、その、『宿命封印』が完成してないとしたら?」


「そうだな、完成してないとしたら、今後も戦い続けて、正規兵になって出世するか、傭兵として名をあげるかして、ブルド国との最終戦争に参加すれば、あんたの手で打ち取れるかもしれんな、『暗黒の王』を」


 遠い道のりのように思えた。

 そんな長い道のりを、自分は歩ききることができるのだろうか。

 この砦での、比較的小規模と思われる戦闘でさえ、危うく死ぬところだったと言うのに。


「まあ、そうでなきゃあ……暗殺者にでもなるか? 誰にも気づかれずに、奴のいるところまで忍び込んで、一人だけで油断しているときにでも、やっちまうのさ」


 暗殺。

 イメージの悪い言葉だと思った。


 その時、


「暗殺のほうがいいだろうぜ」


 別の方向から声が聞こえてきて俺は少し驚いた。

 別のベッドで休んでいた男だった。

 ベッドから体がはみ出しそうな大男だった。


「暗殺のほうが良い? どうして?」


 俺が聞くと、大男は


「もう時間がねえよ」


 静かな声でそう言った。

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