第十三話:一つの決着と、哀れみの心
俺の放った上段打ちは、狙い違わず月澤の頭部を打った。
頭蓋骨が砕ける嫌な感触がした。
奇跡的に、月澤は転倒せずに踏みとどまった。
しかし、もはや戦うことはできなさそうだった。
頭蓋骨を破壊されていて、頭の上半分がぐにゃっと歪んでいる。
次の瞬間死んでもおかしくない状態だろう。
上空で、大きな火の玉が崩壊し、無数の小さな炎として降り注いだ。
「なぜ、だ」
月澤が苦しそうに言葉を紡いだ。
俺は棒を構えたまま無言だ。
何を言えばいいか分からなかった。
人間の頭蓋骨を砕いたときの嫌な感触は一生忘れられないだろうな、そんな事を考えていた。
「なんで、ハーテを、攻撃しなかった」
月澤はまだ倒れることなく、自らの足で立っていた。
苦しそうに、その言葉を吐いた。
なるほど。
俺が一瞬ハーテの方を見て、松明を叩き落とせば有利になるかも知れないと思ったことを、奴は読んでいたのか。
たぶん、その読みに従ってやつは罠を張っていたのだ。
「ああ。実は、それは考えたんだが、武士道にもとるからやめた」
「……は?」
「いやまあ本当の武士道は俺は知らないが、とにかく、武装してない女の子に攻撃するなんて格好悪いかと思って」
「なんだよそれ。わけわかんねえ……」
そう言ったとき、月澤はひどいめまいに襲われたように、フラフラとよろめいた。
よろめいて動いた先に、ハーテがいた。
ハーテが、その細い手で月澤の体を受け止めようとしたときだった。
突如、地面から青い炎が吹き出し、それが月澤の体にまとわりついた。
「ちくしょう……火が……消えねえ……」
月澤は自分の炎を操る能力を使おうとしてか、腕をブンブンと振ったが、炎は消えない。脳に大きなダメージを受けて能力が働かないのか。
「しくじったぜ……あんたがハーテを攻撃すれば、あんたはこの炎で動きを封じられて……」
そういう罠が地面に張られていたのか。
その青い炎で動きを封じられれば、上空の巨大な火の玉を避けることは不可能、そういう戦法だったという事か。
「そうかよ!」
青い炎に全身を包まれ、体を焼かれながら、どういう意味か、月澤は叫んだ。
「そうかよ、神様よぉ!」
喉から血が出そうな声で、月澤はもう一度叫んだ。
「もういいよ! 燃えつきろ! 俺の体!」
月澤が最後にそう叫ぶと、彼の体を燃やしていた炎がひときわ大きく燃え上がり、恐ろしいスピードでその体を灰にしていった。
こうして、月澤小次郎はいなくなった。
「コジロウ……さま」
ハーテが、絶望したような表情で、地面に膝をついた。
俺は、彼女にどう言葉をかければいいか、分からずにいた。
すると、ハーテがゆっくりと首をこちらに向けて、まっすぐ俺の顔を見た。
「何をしているのですか」
抑揚のない声で、彼女は言った。
「何って……」
俺は答えられずにいた。
「はやく、私を、コジロウ様と同じところに、送ってください」
「えっ」
とっさには何を言われたのか分からず、聞き返した。
そうしたら、
「わたしを、殺してください」
今度は誤解の余地のない言い方で、ハーテは言った。
「い、いや、それは」
俺は動揺した。
うまく言葉が出てこない。
「どうして」
「私は、あなたの敵なのですよ」
ハーテは相変わらず、抑揚のない声でいう。
「そうは思えないな。君は、俺に危害を加えてくることはなさそうに思える」
俺はそう言った。事実、今の彼女からは全く戦意を感じない。
「どうすれば、私が敵だと思ってくれますか」
「それは」
俺は言いよどんだが、
「武器でも構えて、俺に攻撃してくる様子を見せるならまあ」
そう、言葉を続けた。
すると、ハーテはゆっくりと立ち上がり、服のベルトにつけていた。何かを取り出した。
それは、ナイフのようだった。
刃渡りもとても短く、リンゴの皮を剥くのに使うにしても、不便そうな代物だった。
武器としてはとても頼りなさそうだ。
それでも、彼女は、その武器を右手に持ち、半身で構える。膝を落とし、背を屈めた構え。
多少は、武器の使い方を知っているらしい。
俺は、棒を構えようとした。
だが、棒を持つ右手が、動かなかった。
俺に、棒を構えることをやめさせたもの、それは哀れみだった。
俺は、斬られてやらなきゃいけないんじゃないか。
そう思えたのだ。
月澤と、このハーテという少女は、まるで兄妹のように見えた。
外見がではなく、その心の通じ合ってそうな雰囲気が。
彼女は月澤のことを愛していたのだろう、何らかの形で。
彼女の恨みを晴らすため、俺は、ちょっとぐらい刺されるか斬られるかされる必要があるんじゃないだろうか。
急所に攻撃が来るようなら、少しだけ避けて、急所以外の所で攻撃を受けよう。
そう考え、俺はろくに構えもせず、彼女の攻撃を待った。




