第十二話:罠
急に出現し、襲いかかってきた火の玉。
回避するために、なにかを考える時間はまったくなかった。
完全に、本能だけで体が回避行動を取った。
完全にはかわしきれず、俺の右足の靴先に火の玉がわずかにかすり、爆発した。
「ぐっ!」
バランスを崩しそうになったが、なんとかしっかりと両足で地を踏んだ。
右足の先に激痛が走る。
見ると、スニーカーの先端が消し飛んでいた。
自分のつま先が見えるが、煙を帯びていてどうなっているかよく見えない。
最低でもやけどはしているだろう。
俺は思わず棒を構えたまま後ずさる。
右足の先の痛みに耐えながら、火の玉が飛んできたもとを確認する。
ハーテと呼ばれた女の子が手に掲げていた松明。
火の玉はそこから飛んできたようだった。
「君も……!?」
君も炎を操るのか、と聞こうとして、そうではないらしいと気づいた。
彼女は感情を表に出さず、こちらを見ようともしていない。
これは、彼女が攻撃しているのではなくて……。
考えている暇はなかった。
彼女が手にしている松明の炎から、次々と火の玉が生まれ、こちらに飛んでくる。
必死でかわした。
なんとか5つか6つの火の玉をかわし終わって、月澤の方を見る。
彼は悪意に満ちた笑みを浮かべてる。
彼が炎を操って攻撃しているのは明らかに思えた。
「火打ち石からじゃなくても火の玉を出せたんだな!」
だめでもともとのつもりで、声をかけてみた。
すると意外にも、火の玉の攻撃がやんだ。
「いいアイデアだったろ? 火打ち石を印象づけて、そこからしか攻撃が出せないと思わせておいてから、松明から攻撃出すの」
得意そうな表情で月澤が言った。
「ああ、まんまとやられるところだったよ」
やられるところだったと言うか、右足の先をやられてしまった。
今の所痛みは耐えられなくはないが、長期戦になるとヤバいかも知れない。
「足の先焦げてるみたいだけど大丈夫? 痛くない?」
月澤がからかうような声で言った。
「痛いな」
俺は正直に答える。
ある意味奇妙な風景だった。
月澤は、俺のことを殺そうとしてるだろう。
俺は、相手を殺す覚悟を決めている。
そんな二人が、悠長に会話をかわしている。
「このまま戦えば、どちらかが死ぬな」
俺は言った。
「お前がな」
月澤はせせら笑う。
彼の邪悪な笑顔が印象的だった。
この時になって、俺はようやく、話し合いの余地はないのだなと感じた。
話しかければ口は開くが、月澤に話し合いに応じようなどという気はさらさらないのだ。
ただこちらをあざ笑いたくて喋るだけ、そう悟った。
これ以上の会話は無意味――。
ならばどうやってやつを倒すか、考えることはそれだけだ。
俺は半ば無意識に、ハーテの方を見た。
白い髪、褐色肌の少女。
彼女の手にしている松明が、月澤の攻撃の発生源になっている。
彼女の松明をこちらの棒で叩き落とすことができれば、あるいは、戦況が変わる?
俺はその思いつきを吟味する。
だが。
「あーもう飽きた! 終わらせようぜ、クボちゃん!」
月澤が焦れたように叫び、同時に松明から火の玉が高速でこちらに飛来する。
俺は全身体能力を回避に集中させ、かわし、かわし、かわす。
できるなら棒の攻撃が届く位置まで近づきたい。
がしかし、火の玉の連打がそれを許してくれない。
俺は横に攻撃をかわしながら、月澤との距離が離れないようにすのが精一杯だった。
一歩を踏みしめるたびに右足の先が痛む。
そのうち痛みで体が一瞬硬直してしまうかも知れない。
その時火の玉が飛んできていたら、俺は負けるだろう。
死ぬかも知れない。
途切れることなく火の玉が飛んでくる。
そのすべてを避ける。
決して余裕はない、一つ避けられても次の一つを避けられる保証はどこにもない。
防戦一方。
俺は、来るかどうかもわからない逆転のチャンスを信じて、避け続けた。
「じれってえな! もう、大技で終わらせてやるぜ!」
月澤がそう言った。
月澤が手を動かすと、松明から複数の火の玉が真上に飛び、上空で巨大な一つの火の玉になった。
その一瞬は、こちらへの攻撃はない。
これは、罠だ。
そう確信する。
月澤はわざと隙を作ったのだろう、こちらの攻撃を誘って、必殺の一撃で決着をつけるために。
ならば、あえて乗る。
こちらが相手の想定より早く攻撃できれば、それは、罠を仕掛けたものの失策となる。
俺は全力で突っ込み、自分にできる最速の上段打ちを放った。




