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第十一話:対峙

 燃えて崩れ落ちる建物。

 逃げていく人々。


 その中、俺と月澤は対峙していた。

 月澤はためらうことなく、手にしていた金属棒で火打ち石を打った。

 散ったいくつかの火花が宙で炎にかわり、火の玉になって襲いかかってくる。


 俺は全力で右斜め前に走って避けた。後方でドンッ、ドンッという爆発音がする。

 全部避けきったタイミングで振り返って確認すると、地面には大きな穴が空いていた。火の玉の爆発がもたらしたのだろう。

 直撃したら、腕や脚の一本は失うことになるかもしれない。


 食らうわけには行かない。


「やめろ! 俺はお前の敵じゃない!」


 もう無駄だろうと思いつつも、俺は最後の説得を試みる。


「信じられねえな!」


 奴は再び火打ち石を叩き、火の玉を呼び出して攻撃してきた。

 先ほどよりも距離が近くて避けづらい。

 避けながら接近することは無理だった。

 接近を諦めて回避に専念して、ようやく躱した。


 俺の後方でドンドンと弾ける爆発の音を聞いて、俺は覚悟を決めた。

 やらなきゃ、やられる。

 俺は、習ってきた棒術で、人を殴る。

 殺すことになるかも知れない。

 その覚悟を決めた。


「ハァッ!」


 気合の声を出したのは月澤の方。

 胸の高さで火打ち石を打ち、複数の火の玉で攻撃してくる。

 その速度は野球の打者が放つライナーぐらいか。


 怖い。

 野球のボールだって複数同時に飛んできたら怖いだろう。

 それが、触れると爆発する火の玉なのだからなおさら怖い。

 避けるにしても、思わず大きく横に逃げたくなる……。


 だが。

 それでは相手に接近できない。

 近接攻撃しか出来ない俺は、それではジリ貧の展開だ。

 だから。


 できる限り体勢を低くし、地面を這うように走り、横の動きは最小限にして突っ込む!


 頭の十センチ上を、灼熱の火球が通り過ぎていき、熱気が皮膚を打った。


 一か八かの賭けだったが、勝てたようだ。

 今まで火の玉が打ち下ろすような角度で打たれることがなかったから、低い位置には来ないだろうと読んで、下をくぐることに成功した。


 賭けに勝った報酬は、攻撃が届く距離までの接近。

 俺は、自分にできる最速のスピードで、中段突きを放った。

 棒の先端が奴の脇腹にズドンとめり込む。


「うげっ!」


 悲鳴を上げて崩れ落ちる月澤。

 糸の切れた操り人形のように倒れ、身をよじって苦しんでいる。

 おれは若干の罪悪感を覚えていた。


「ああっ!」


 悲痛な声を出したのは、月澤のかたわらにいた、ハーテと呼ばれていた褐色の肌のの女の子。

 褐色の肌に映える白い髪が印象的に見えた。

 彼女は、倒れている月澤に駆け寄る。


「動かないで」


 俺は二人に声をかける。

 女の子のほうがこちらに攻撃してくる気配はないが、一応警戒している。武器などを身に着けている様子はないが、もしかすると手に持っている松明で殴りかかってくるぐらいはするかも知れない。


 月澤はしばらく苦しそうに咳をしてから、


「何だよ? 何で俺を殺さない?」


 引きつった笑みを浮かべながら、そう言った。


「とりあえず、あんたの火打ち石、遠くに放り投げてくれるかな」


 いつでも殴れるように、棒を構えたまま、そう言った。


「武装解除ってか」


 月澤は悔しそうな顔をして、言われたとおり、火打ち石と金属棒を遠くに放り投げた。


「で、何だよ、何で俺を殺さないんだよ」


 ふてくされたような表情で月澤は言った。


「人を殺す方法を知らない」

「その棒は何だよ」

「棒で殴っても死ぬとは限らないしな」


「そんなもんなのか? それは天使に貰った能力なんじゃないのか」

「天使みたいな存在には会ったけど、能力は貰ってない」

「何ぃ? 能力をくれるって言われなかったか」

「言われたが断った」

「はあ?」


 素っ頓狂な声。


「能力を隠したいのかも知れないがそんな嘘はないだろう」

 呆れたような声を出す月澤。


 いつの間にか、月澤の表情からは狂気の色は消えている。

 今なら、話も通じるかも知れない。

 そんな気がした。


「嘘じゃない、強い超能力みたいなものを貰っても、嬉しくないだろう」

「嬉しいだろぉ? 何言ってんだお前」

「俺は嬉しくない」

「何でだ」

「そりゃ……例えばそう、剣道の試合をしてるとして、拳銃を撃って相手を撃ち殺して勝っても嬉しくないだろう、剣道で勝ったわけじゃないから」


 月澤は眉をしかめる。


「例えが下手で分からん。剣道なら失格かもしれないが、殺し合いならそれでいいだろう」

「じゃあ、超能力で、念じると相手が動けなくなるものとして、そんな能力を使って剣道の試合に勝っても嬉しくないだろう、ズルをしたみたいで」

「いや嬉しいね。自分しか使えない力で勝つとか最高じゃねえか。あんたもしかして……」


 月澤は言葉を切った。


「……クソ真面目かぁ!?」


 瞬時に、狂気をたたえた表情になって、月澤が叫んだ。

 それと同時。

 俺は、すぐ近くで火の玉が発生したのを感じた。

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