調査・異常な肉屋
「…とか思っているうちに、五日も過ぎちゃった」
欠伸を噛み殺し、カップ麺を啜る。
アレから一度も霞雅美から連絡は来ない。
情報を扱うことを裏職業としている彼にしては、随分時間がかかっている。
「本当は闇が絡んでいたとか…でも遅いわよねぇ」
コンビニで買ってきたホットドックを頬張りながら、ぼんやりとワイドショーを見た。
特集は例の連続失踪事件について。
事件が起っている地域は、アタシが住んでいる県内。
しかも本当に普通の人がいなくなってしまっているのだから、大騒ぎだ。
それこそ裏で何か怪しいことをしていれば、警察も捜査しやすかっただろうに。
「う~む」
霞雅美は動かないようにと言ったけれど、じっとしているのも飽きるものだ。
しかも買ってきた物をほとんど楽しんだ後ならば、尚更だ。
「…近場ならいいかな?」
そんなに遠くない所に、失踪事件と関係があるかもと睨んでいる街がある。
そこは顔見知りが多いし、安全地帯とも言える。
ちょっと探りを入れてもいいかもしれない。
「よしっ。久々に外に出てみるかな」
この五日間、食料を買いに外に出る以外、引きこもっていた。
そろそろ体がバキバキ鳴っている。
買ってきた化粧品も、たまには使わないと勿体無い。
アタシはお風呂に入ると身支度を済ませ、家を出た。
小高い山の中にアタシの家はある。
下りるとバス亭があり、いつもここから街へ出る。
しかし今日は通り過ぎる。
そしてもう一つの山の中へと足を踏み入れた。
獣道しかないこの山は、ほとんど訪れる人はいない。
何せ周りには自然だらけで、来てもあんまり楽しみがないのだ。
登山ができるというほど立派でもないし、周囲には山だらけで味気もない。
だから都合が良いのだ。
あの街へ向かうには、この山の中にポツンとあるバス亭からバスに乗る。
決して一般人が乗り込まないように、工夫している。
錆びることなく新品のようなバス亭、ベンチに腰掛けることなく、すぐにバスは訪れた。
乗客はアタシのみ。
ほとんど使われていないが、バスは毎日休むことなく動き続ける。
しばらく山道を走ると、次第に景色が変わっていく。
一見すれば、普通の街の商店街が突如現われるのだ。
目的地に着き、アタシは背伸びした。
「ん~っと。…相変わらず生臭いなぁ」
この土地で生活している者達は主に肉食が多い。
そのせいで、街中は生臭さに満ちている。
養豚場や牧場よりも、酷く生臭い。
しかし住人達は慣れたもので、平然と生活している。
「さて、と」
今は匂いに気を取られているヒマはない。
アタシは商店街の中を歩く。
お昼をちょっと過ぎたあたりなので、人はまばらだ。
商店街の中は普通にお店が建ち並ぶ。
花屋や洋服店、喫茶店に雑貨屋など、一見は普通の商店街と何ら変わらない。
変わっているのは、とある一部分だけなのだが…そこが異常過ぎることを抜かせば、この街も普通と言えるだろう。
しかし普通ではないからこそ、こうやって外の世界から離れ、隠れて生きているわけだ。
―アタシのように。
失笑が口元に浮かんだところで、精肉店を発見した。
「こんちわ」
「あら、ミコちゃん」
「いらっしゃい」
精肉店の中年夫婦が、アタシを見て笑顔で迎えてくれた。
「珍しいわねぇ。今日は材料の仕入れ?」
「残念だが、まだこっちの仕入れが来てないんだ。もうちょっとしたら来るから、待ってるかい?」
「あ~、うん。そうする」
ここの夫婦とは顔見知りだった。
このお店では、売り物であるお肉を原型のまま仕入れる。
そしてお店の中で切り分け、調理したり、切りさばいたりしているのだ。