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「連続失踪事件? ああ、今流行っている…というか多いみたいですね」
「まさかと思うけど霞雅美、関わっちゃいないわよね」
「ご冗談を」
家に帰るなり、アタシは霞雅美を呼び出した。
茶の間でお茶を淹れながら、怪訝な顔で睨み付ける。
しかし霞雅美は心外だと言う様に、両手を上げた。
「警察に関わることは一切しません。何故立場を危うくする真似をしなければいけないんです?」
「そりゃあ得る物があるからじゃない?」
「ありませんよ。逆に失うものの方が多いですよ」
それは一理ある。
アタシは湯飲みと買ってきた芋羊羹を切り分け、霞雅美の前に置いた。
「でも何か引っかかるのよね。…関係者の仕業じゃないかと思っちゃうんだけど、アタシは」
「そうですね…」
一口お茶を飲み、霞雅美は口元を手で押さえる。
考える仕種だ。
「ありえなくはないですが、こんな派手にはしないでしょう? すでに失踪者の数は七名にも及びますし、警察だって本気になっています。先程も言いましたが、己の立場を危うくするような真似はやらないと思いますが」
「でも例外はある。特に…アタシの仕事は、ね」
「それは言えています」
お互い、意味ありげに微笑みあう。
「でもさ、真面目な話、ちょっと気になるのよね」
「しかし我々には関係無いと思いますよ? こういう言い方もあれですが、やるとしてももっと静かに騒がれないように動きます。こんな素人じみたやり方、関係者の中にする人がいないと思いますけどね」
「ん~。そこんとこはアタシも同感なんだけどさ」
もう十年近く、今の職業をしていると、感覚が妙に鋭くなる。
今起っている事件で、アタシの何かが反応を起こしている。
決して他人事ではないと―職人としての勘が動くのだ。
「まあそこまで気になっているのでしたら、こちらでも調べてみましょう。だからあなたはあまり動かないでくださね? 我々はあなたの存在はあまり表に出したくないのですから」
「はいはい」
職業柄、大切にされているとも言える。
アタシの腕はすでにプロ並み。
それに貴重とも言える。
現代ではすっかり珍しくなってしまった職人だけに、いろんな意味で狙われることが多い。
だから霞雅美みたいなのと、組んでいるわけだが…。
「失踪者が生きているというのが一番良い結果ね。無傷ならなおさら」
「そうですね。しかし現代の日本でそんな物騒な事件が、表沙汰になるはずないと思うのですが…」
険しい顔で、芋羊羹を食べる霞雅美。
…ちょっと前ならありそうだと論外に言っているのがイヤだ。
でもアタシもアタシだ。
最悪はすでに亡き者になっていることを想像している。
しかも無傷じゃない場合、失踪者達がどんな風になっているのかとかも考えたりしている。