休日・連続失踪事件
一通りの依頼を済ませ、収入を得て、アタシは街に繰り出した。
「ひっ人が多いなぁ」
せっかくなので、土曜の朝から買い出しに来た。
かなりの間、引きこもっていたので、買う物が多くて背中が丸くなる。
日用品などは霞雅美に車を出してもらえるが、今背負っている趣味の物はさすがに一人で買いに来たかった。
ちなみに工房の後ろは平屋一戸建てがあり、そこがアタシの住居。
ちゃんとお風呂とトイレは別々で、お風呂にはシャワーも付いている。
茶の間に寝室、趣味部屋の三つの部屋があり、休みの間には掃除もしなきゃいけない。
仕事中はどうしても工房にこもってしまう為に、家の方には滅多に帰らなくなる。
食事も近くのコンビニとスーパーから買って来るので、料理もしないし…。
…あげくにこんな職業をしているのだから、結婚願望は全く無いものの、少し寂しさと虚しさを感じてしまう年頃だった。
「どっどっかで休まないと…」
すでに時刻は午後二時。
街中には人が溢れてきて、お昼抜きのアタシは軽くふらついていた。
ふと視線を上げた先に、ファミレスを見つけた。
ビルの三階に入っている。
アタシは足取りをしっかりして、そこへ向かった。
「ふぅ…。生き返ったぁ」
お昼の時間を外したおかげで、周囲にはあまり客がいない。
アタシはハンバーグセットを平らげた後、ドリンクバーからメロンソーダを持ってきて、食後のチョコレートパフェを味わっていた。
ようやく脳に糖分が行き渡ったおかげで、周囲の異変に気付いた。
いくらお昼時間が過ぎているとは言え、街中のファミレスにしてはお客の数が少ない。
今は特に寒くも暑くもない時期。
もうちょっとお客がいても良いようなもんだけど…。
疑問に思っているところに、壁に貼り付けてあるテレビが緊急ニュースを放送し始めた。
店内にいる客や店員達も、一斉に視線を向ける。
なっ何か様子がおかしい。
張り詰めた空気が流れる中、若い男性キャスターが読み上げた事件はこうだった。
連続失踪事件について―。
「失踪…?」
殺人事件なら連続という言葉が似合う。
しかし失踪はあまり耳にしない。
思わず眉を潜めながら聞くと、内容はまた行方不明者が出たということだった。
今度は若い女性で、顔写真がテレビに出る。
色白の肌に、黒く長い髪を持つ和風の美少女だった。
年齢は十七歳で、学校帰りに行方不明になったらしい。
ニュースはこの事件以前にも起った失踪事件の被害者の顔写真を次々と公開していく。
どれも美しく、整った顔立ちの若い男女達。
しかし行方不明者に共通点は一切なく、何故失踪しているのかも分からない状況だ
と、男性キャスターは難しい顔で言っていた。
「ふむ…」
スプーンを置き、腕を組んだ。
連続失踪事件、ねぇ。
…身近で起きていないことを願いたいのだが、ちょっと心当たりがあるのがイヤだな。
「霞雅美にでも聞いてみるかな」
アイツはアタシと違って、ちゃんと外の情報も知っている。
その気になれば、警察でさえ調べられないことを、調べることさえできる。
「関係者が関わっていないことだけを願おう」
両手を合わせ、目を閉じ祈った。
そして再びスプーンを手に取った。