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失態・その後

「すみませんでした」


霞雅美はお詫びの菓子折りを持って、アタシの家に来ていた。


居間で土下座されても、アタシの怒りは納まらなかった。


仕事中に邪魔をされることが何よりキライなのは、霞雅美だって知っていたはずだ。


だからこそ工房と住居の住所は、何より隠さなければならない情報だったのに。


「…事件後、謝られたってどうしようもない」


「本当にすみません。こちらの大失態であることは、重々分かっています」


霞雅美は本当に済まなそうに謝る。


けれどムカムカした気分は晴れない。


「とりあえず、引越しね。あ~あ、十年もここにいたのに」


一度気づかれてしまっては、後がないとは言い切れない。


「はい。こちらの方で、あなたが満足できるような工房と住居を用意させていただきます」


「造りはここと全く同じでね。近くにスーパーかコンビニのある所で、よろしく」


「かしこまりました」


人気の無い山の中であることは最低条件なので、言わなくても分かっているだろう。


死体を使って作品を作っているのだから、住宅地になんて住めない。


「引越しの作業も、もちろんそっちで、ね?」


「分かってます。あなたはただ、移動していただくだけで結構です」


言うことをただ呑むしか、霞雅美がアタシの機嫌を取る方法は無い。


ここでアタシが霞雅美から離れることを言い出すのが、一番恐ろしいのだ。


死んだ人間の体を使って商品を作り出す職人は、現代では貴重であり希少。


所有していることが誇りになるぐらいだ。


お抱えの職人を持っているから、霞雅美の今の地位が成り立っていると言っても過言じゃないぐらいに。


…まあたった一度の失態で、十年もの付き合いがある霞雅美と決別することもないだろうと思った。


だからわざと、深く大きいため息をついた。


「も、良いわ。新居へ移るまで、仕事は中断よ」


「分かっております。本当に申し訳ございませんでした」


そして霞雅美はようやく顔を上げた。


「もう二度とっ、こんなことのないようにね。さすがに二度目はこんな程度じゃ済まさないから」


「肝に銘じておきます」


真っ青な顔で、霞雅美は眼を伏せる。


今回のことは、彼なりにショックだったらしい。


でも連続誘拐事件では大いに役立ってくれたわけだし、苦労は労った方が良いだろう。


「あっ、ねぇ。新居に移るのならいろいろと必要だし、買出しに付き合ってよ?」


まだしばらくは騒ぎは治まらないだろう。


一人で動くのには、ちょっと躊躇いがあった。


「ええ、構いませんよ。どこへなりとお供します。もちろん、出費はこちら持ちで」


霞雅美はほっと安堵の笑みを浮かべた。


―この甘えたポーズで、アタシがまだ、霞雅美を頼っているんだと再確認できたんだろう。


案外外れてもいないので、黙って微笑む。


「やった♪ じゃ、仕事の疲れを癒す物、買ってね」


「仕事関係なら、喜んで」


…言ってくれる。


でもこの距離感が意外に心地良かったりもする。


近過ぎず、遠過ぎず。


お互い闇に属するモノとして、己の利益を最優先させる。


利用し、利用され、望むモノを得る。


だからこそ、一緒にいて楽なのだろう。

 



やっぱり側にいるのはアタシと同じように、狂った人間じゃなければ、おもしろくないわよ、ね?




【終わり】


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