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3

「どうやら彼女、眼を覚ましてしまったみたいなので」


トランクの中で、女子高校生の体がビクッと震えた。


「おや、本当だ。少し長話しが過ぎたみたいだね」


「ええ。なので騒がれないように、眠らせようと思いまして」


「そうだね。暴れられると、厄介だ」


「―同感です」


アタシはスプレーを構えながら、二人に近付いた。


自分にかからないように、風の流れを感じ取りながら。


そして男性が女子高校生の体に触れようとしたところで、


「あっ、そうだ。言い忘れていましたが…」


「何だね?」


無防備にこっちを振り返った男性の顔に、至近距離でスプレーをかけた。


「ぶあっ!」


「このスプレーをかけるのは、彼女ではなく、あなたに、です」


笑顔でスプレーをかけ続ける。


「くっ、うっ…!」


男性は慌てて後ろに下がるも、このスプレーは強力だ。


すぐに膝をつき、倒れてしまうぐらいに。


アタシは男性に近付き、足先で顔を上に向けさせた。


その上に、もう一度スプレーをかける。


小型のスプレー缶は、すぐに切れてしまう。


だがこれで男性はしばらく目覚めない。


「やれやれ」


万が一にと購入しといて良かった。


ポケットからケータイ電話を取り出し、霞雅美に連絡をする。


『魅古都、こんな時間にどうしました?』


霞雅美はすぐに出てくれた。


けどっ!


「どうしたもこうしたもあるかぁ! 不審者がウチにやって来たのよ!」


山に響くほど、怒声を発した。


怒りはまだおさまっていない!


『なっ! 不審者があなたの所へ?』


「ええ、仕事を依頼してきたわ。顧客でもないのに、生きた原材料持ち込みでねっ! 今は麻酔スプレーで眠らせているから、とっとと引き取りに来なさいっ!」


言いたいことを言って、通話を切った。


けれど霞雅美はすぐにやって来るだろう。


事件を処理する連中と共に―。


「っとと。まだ残っていたわね」


アタシは慌ててトランクに駆け寄り、女子高校生の目隠しとさるぐつわを取った。


「あっあの…」


怯えて後ろに引くので、アタシは笑みを浮かべて見せた。


「大丈夫。あなたはすぐに家に帰してあげるから」


被害者には何の落ち度もない。


だからすぐに帰されるだろう。


しかしこの女の子、可愛いなぁ。


同性のアタシから見ても、魅力あるコだ。


男性が持ち込む気持ちも分からないことはない。


こういう原材料なら、良い作品が作れるだろう。


…イヤイヤ。


生きた人間は使わないことが、アタシの人間としての最後の良心だ。


どんなに魅力的でも、理性で抑え付けなければ、いけない。


―本物の闇に堕ちることがないように―



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