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男性は上機嫌に、車のトランクを開けた。
「っ!」
そこには一人の若い、女の子がいた。
さるぐつわをされ、目隠しをされている。
しかも全身を縄で縛られていて…明らかに、誘拐だ。
制服を着ているところを見ると、多分女子高校生だろう。
今は意識がないのか、グッタリしている。
しかし胸が上下しているので、生きてはいる。
「あなたっ、一体何をっ…!」
「彼女を使って、キミに商品を作ってほしい」
またかっ!
誘拐事件が片付いたと思ったら、今度はこんな形で…。
ぎりっと歯噛みし、アタシは男性に向き直った。
「お断りします。アタシは生きた人間を、材料にすることはしませんっ!」
すると男性は腕を組んだ。
そして次の瞬間、飛び出した言葉は、アタシの心を凍りつかせた。
「ああ、死体からしかキミは、商品を作らないんだったな」
「どこでそれをっ…!」
思わず眼を見開いた。
―確かにアタシの作るモノは、生きていたモノを使う。
しかし息絶えた死体であることが、条件だった―
死んだ人間から剥ぎ取った皮、爪、髪の毛、骨、血、目玉などを、アタシは材料として作品を作り上げてきた。
霞雅美や客達はそれを分かった上で、扱ってきた。
だからこそアタシは彼等をおかしいと思ってきた。
そのおかしな作品を自ら作り出しておきながら、理解して扱う彼等は正気ではないと…。
「俺は情報を扱うのが得意でね。キミが死体を使って作品を作っていることを知って、興味を持ったんだ。本当は店で商品を買おうかとも思ったんだけど、やっぱり特注が良いからね」
「情報を扱うのが得意ならば、アタシに依頼を持ちかけられる条件もご存知のはずでしょう?」
「知ってるよ。でも彼は会わせてくれなくてね」
参ったと言うように、苦笑しながら首を横に振る。
多分新客なんだろう。
店に来て間もないし、怪しげな人物だからこそ、霞雅美の許しは出なかった。
だからこの男性はアタシを調べ上げ、今ここにいるんだろうな。
チッと舌打ちする。
アレだけアタシを束縛しておきながら、霞雅美は失態をおかした。
忌々しいことこの上ない…!
「ああ、材料にならない脳や内臓、それに肉は通いの精肉店にでも売るといい。何だったらあの街に、俺が運んでも良いし」
「そんなことまで…!」
男性は調べ上げたのか。
かつてアタシが言った精肉店で売っている商品は、すべて死んだ人間の体の部位だった。
仕入れ業者はどこからか死んだばかりの死体をあの店へ運ぶ。
そして精肉店の二人はそれを捌き、売っていた。
そしてあの街の住人達は、それを分かっていて精肉店から商品を買い、喰べていた。
つまり―人喰いの住人達が住む街、だった。
だからこそ闇に属するモノとして、表の世界から隠れて生きてきたのだ。
そこまで調べられていたなんて…!
「それともキミも喰らうのかな? 死体を」
「まさかっ! アタシは死体から品物を作り出すだけで、食べたりはしません」
あの精肉店からは材料を分けてもらうことはあれど、商品を買ったりはしなかった。
アタシには人肉を喰する体質ではないのだ。
「それは失礼。ではその材料の命を消せば、キミは作品を作ってくれるんだね?」
「お断りします! 確かに材料の持ち込みは可能ですが、依頼は霞雅美を通さなければ受けられません」
顧客達がアタシに依頼を頼む時、材料を持ち込むこともある。
それはもちろん、死んだ人間の一部だ。
だから丸ごと持って来るなんて、もってのほかだった。
「う~ん。困ったねぇ」
男性には普通の神経が無いらしい。
アタシが断り続けるのを、本当に不思議に思っているのだから。
そして自分がしたことに関しては、何とも思っていない。
「報酬はキミの望むままに出すよ。それに彼には俺の方からフォローするが?」
「…生憎とそんなに金銭的には困っていません。それに霞雅美の機嫌はそう簡単には直りませんよ?」
アタシ達、闇の属性のモノは金や権力に興味ない。
自らのプライドを守る為には、どんな手も使うが…。
「そうかい。なら、これでどうかね?」
そう言って男性は懐から、拳銃を取り出し、アタシに突きつけた。
「っ!」
「手荒な真似はしたくないんだ。キミは職人だし、神経を使う作業だということは知っているからね。しかし言うことを聞いてくれない場合は、やむ終えまい」
銃、か…。
この前の霞雅美のように、麻酔弾ではないだろうな。
アタシはチラッとトランクに視線を向けた。
どうやら男性との会話のせいで、女子高校生は意識を取り戻したらしい。
ガタガタと小刻みに震えている。
自分が殺されるだけではなく、死後、その体を使って商品になることを想像したら、そりゃ誰でも震えるだろう。
さて、どうしたものか…。
どうやらこの間の件と違い、霞雅美は訪れていないみたいだ。
恐らく、気付いてもいないだろう。
そしてできればこの女子高校生は助けたい。
ムダは犠牲は出したくない。
そこまで人間の心を捨てた覚えはないし。
何よりアタシは怪我をしたくないし、殺されたくもない。
―なら、取るべき行動は一つ。
深く息を吐き、両手を上げる。
降参のポーズだ。
「分かりました」
「では、作ってくれるのかね?」
「ええ、良いですよ。ご希望の品を、お作りしましょう」
笑顔を浮かばせると、男性もほっとしたように銃を下ろした。
「それで悪いんですけど、彼女を運ぶのを手伝ってくれますか?」
「ああ、構わないよ」
男性は銃を懐にしまうと、トランクに向かって歩き出す。
アタシは作業着のポケットの中から、小型のスプレーを取り出す。
「ん? それは?」
「ああ、麻酔スプレーですよ」
アタシの手にした物を見て、男性はふと動きを止めた。




