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道理で警察どころか、霞雅美の捜査も届かないわけだ。


誘拐のプロ達となれば、話は別になる。


「材料が充分に揃ったので、アナタを誘拐することを息子は言い出しました。しかしそこへボクが連れて来ると言いました」


「余計な怒りを買わない為ならば、あんまり効果は無いように思われますけどねぇ」


強制的か、自主的かの違いはあるだろうが、霞雅美にとってはどちらも同じこと。


アイツにとって、アタシに何かするならば結果は同じ―と考えているのだから。


「でも彼やあなたの様子を見ると、霞雅美に外出の許可を得たと言うのはウソなんでしょう?」


「…はい。霞雅美さんには何も伝えていないと思います」


…嵌められたか。


アタシも彼を古株だと思い、油断していたな。


霞雅美に確認の連絡を取らなかった。


自業自得だと、後でタップリ怒られそうだ。


鳥肌が立つ両腕をさする。


「しかしあなたもおかしな人ですねぇ。何で普通に警察に連絡しないんですか? 後のことが大変なのは分かりますが、それでも霞雅美の怒りを買うよりはよっぽどマシでしょうに」


すると狩紅は苦悶の表情を浮かべた。 


「…すでに息子には誰の言葉も届きません。それに別荘には爆弾も仕掛けられています」


「はっ?」


爆弾? 何で今、それを言うっ?


「警察に踏み込まれた時に、全てを消し去る為です。なので被害を縮小する為に、アナタに来てもらうことにしました」


って、下手すればアタシまで巻き添え?


「ちなみに爆弾のスイッチは…」


「息子が持っています」


…最悪パターンが全部当てはまっている。


血の気が引く頭を押さえるも、ガンガン鳴り響いている。


しかし車は別荘にたどり着いてついてしまった。


三階建ての真っ白な洋館だが、庭園には外灯があって、眩しいぐらいだった。


「玄関にいるのが、息子の八代です」


言われなくても、写真ですでに見かけていた。


彼は笑みを浮かべ、玄関に立っていた。


車は門をくぐり、玄関先で止まった。


アタシは車から降りて、八代と真正面から向き合った。


「はじめましてね。狩紅八代くん?」


「ええ、はじめまして。会えて光栄ですよ、魅古都さん」


艶のある美形だな。


こんな形でなければ、ちょっとは恋心を持てたかもしれない。


「誘拐されている人達は?」


「地下にいますよ。―しかしそう言ってくれるということは、僕の依頼を受けてくれるということですよね」


余裕の笑みを浮かべる八代を、アタシは睨み付けた。


「…やっぱり、アタシに彼等を使って、品物を作れと言うの?」


「ええ、もちろん」


深くため息をついた。


まあ前々から勘付いてはいた。


彼はアタシが生き物の骨や皮、毛を使って品物を作ることを知ってしまった。


その材料を美しい人間で、と言うのも考えないこともなかった。


「材料は十人分もあれば充分でしょう? 良いモノを揃えたと思いますよ」


確かに全員、見目麗しく、そしてベジタリアンだ。


使う材料としては最高とも言える。


だが…。


「アタシ、生きた材料を使わないことにしているの。知ってた?」


笑みを浮かべ、挑発的に言った。


材料はすでに息絶えたモノしか扱わない。


自ら調達することなど無いのだ。


「それは存じ上げていませんでした。では今からでも…」


「ちょっと待って。…今更だけど、本当にアタシに品物を作らせる為だけに、誘拐を繰り返したの?」


「ふむ。それもありますが……」


彼は顎に手を当て、考える素振りを見せた。


そして次の瞬間、イヤな微笑を浮かべた。


「人間の内臓や脳みそ、それに血や肉って美味いのかと思って」


「ぐっ…!」


アタシの後ろで、狩紅が口を押さえた。


嫌悪はアタシも同じ。


だけど想像はしていたので、大して驚かない。


「…へぇ。じゃあアンタは捕まえた人間を食らい、余った部分でアタシに品物を作らせるつもりなの?」


「まあね。ああ、でも品物の方が重要だよ? 必要な部分はアンタにやるよ」


くだけた口調…と言うより、奇妙な口調だ。


言葉の音が、所々外れている。


狩紅の言う通り、すでに狂っているのだろう。


「ああ、目玉もだね。じゃないと、人形が作れないんだよね?」


よくご存知だこと。


だから被害者達は全員美形であるのと同時に、ベジタリアンであることが共通点だったのか。


彼が食らう為に―。


「でもそういう職人なら、別にアタシじゃなくても他の人間でも良かったんじゃない?」


生き物の部位を使って作品を作る職人は、他にも何人かいる。


少なくなってきていることは確かだが、別にアタシに限ることはない。


「それはホラ、アンタ良い腕しているし?」


「そりゃどうも」


「それに…」


八代は手を伸ばし、アタシの顎を掴んで上げた。


「アンタも結構、キレイな顔立ちしてるよな? 歳の割には幼い顔立ちなのに、異様に眼だけが光を宿している」


「―職人魂、が光り輝いているのかもね」


「くっくっく。そりゃ良いや」


彼はおかしそうに体を震わせ、手を離した。


「アンタの飼い主は今日から僕だよ。僕の為だけに作品を作って。材料はこっちで揃える。職人のアンタが満足するような、良い材料を仕入れるよ」


それに彼ならお給料も良さそうだ。


案外、今より良い待遇かもしれない。


「…そうね。材料のことについては、アンタの所にいた方が良いかもしれない」


「だろう? なら…」


「でも」


彼の言葉を遮り、アタシはにっこり微笑んだ。


「生きた人間を誘拐し、世間を騒がせるような飼い主はゴメンよ」


「なっ…!」


ここで本当に彼の依頼をこなせば、アタシの存在は表に出てしまうだろう。


彼は派手に動き過ぎた。


せめて誰にも気付かれないよう、材料を調達するべきだったのだ。


闇に属する他のモノ達をも巻き込んだことは、愚かだとしか言い様がない。


「それに生きた人間を使って、アタシは品物を作りはしない。これでも職人としてのプライドがあるからね」


彼の顔が醜く歪む。


うわー…。


美形が怒るとヒッドイ顔になるんだなぁ。


「…今、自分の置かれた立場、分かってんのかよ?」


「それはこっちのセリフ。アンタ自分の仕出かしたこと、どれだけ罪深いか理解していないでしょう?」


「なにぃっ!」


怒りに満ちた表情で、彼はアタシに手を伸ばした。


きっと腕を掴み、殴りつけるつもりだったんだろうと思う。



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