再会・出会い
待ち合わせ場所は、彼の会社が経営する和食のお店。
老舗で、一般客は訪れることはできない。
アタシは和食好きなので、いつもここで食事をする。
完全予約制でもあるので、静かで隠れ家的なところが良かった。
何せアタシと彼の会話は、普通の人間が耳にしてはいけない内容が多いから。
苦笑しながらアタシは和服姿の女性に案内され、いつもの部屋に通された。
「やあ、待ってたよ」
「お久し振り…です」
途中で言葉が途切れたのは、部屋に彼ともう一人がいたからだ。
しかもその顔には見覚えがあった。
―狩紅八崎。
何故この人がここにいる?
問い掛けを飲み込み、笑みを浮かべる。
「あの、その方は?」
「私の古い友人でね」
「狩紅八崎と申します。はじめまして、魅古都さん」
写真で見るよりやつれた顔をした彼は、頭を下げた。
「はじめまして。あの…」
「まあとりあえず、座ってくれ」
有無を言わせない態度に多少腹が立つも、空気が何となく重い。
なので言われた通り、彼等の向かいに座る。
テーブルには何も置かれていなかった。
いつもなら酒などを飲んでいるはずなのに、お茶すらない。
「今日はお食事をしにと思っていたんですけど、違ったみたいですね」
「ああ…。こんな形となって済まないとは思っている。だがキミも、例の誘拐事件には参っていたんだろう?」
「じゃあ犯人は、そこにいる狩紅八埼さんなんですか?」
狩紅はビクッと体を振るわせた。
「…それは彼から聞くといい」
しかし狩紅はブルブルと体を震わせ、俯いている。
両手を膝の上に乗せているが、硬く拳を握っている。
「魅古都さん…。ボクを助けてくれませんか?」
「…はい?」
言われた言葉に、首を傾げた。
「これから誘拐された人々が監禁されている場所にご案内します。ついて来てくれますよね?」
と尋ねるように言うが、すでに彼は立ち上がっている。
困ったように顧客を見るが、同じように困り顔をしているだけ。
アタシは深く息を吐き、立ち上がった。
「ええ、構いません。アタシの職人としての腕が必要なのでしょう?」
「そうです。職人としてのアナタに来てもらわなければ、意味がありません」
狩紅は深く頷いた。
そして歩き出すので、アタシは付いて行った。
最後に部屋に残った彼を見たけれど、視線も動かさず、思い詰めた表情でじっとその場に座っているだけだった。
「…ボクがこう言うのもなんですが、彼のことは見逃してくれませんか?」
「それは霞雅美に言ってください。アタシが判断を下すことではありません」
狩紅の運転する車の助手席に座り、アタシは横目で彼を見た。
「先程の様子を見るに、犯人はあなたではなく、ご子息の方ですか」
「…そうです。ボクの息子の仕業です」
「キッカケはアタシの作った作品ですね?」
「ええ。息子は二ヶ月ほど前、霞雅美さんのお店へ行き、一体のアンティークドールを手に入れました。そしてその材料と、作った職人のアナタのことを知り、隠れていた狂気が暴走し出してしまいました」
「でも霞雅美の店へ行ったのは、その三ヶ月前にあなたが来たことを知ったからなのでは?」
「…おっしゃる通りです。息子も前々からボクと同じ趣味であることを自覚していたのでしょう。そしてボクがあの店で買ったソファーとランプに興味を持ってしまったことは、否定のしようもありません」
同じ血を引き、同じ趣味を持っていても、まだ父親の方は理性が勝ったのだろう。
…いや、すでに購入したソファーとランプを見て、これ以上深入りしてはいけないと、直感的に思ったのかもしれない。
「…誘拐された人々は、生きていますよね?」
「生きて、はいます。無事とは言いがたいかもしれませんが、無傷ではあります」
と言うなら、彼は人質達の様子を見てきたんだな。
それで顧客の彼に連絡を取り、アタシに接触してきたのか。
―霞雅美の怒りを買うことを承知で。
「で? 彼は一体アタシに何を望むのでしょう?」
「無論、職人としてのアナタの腕をです」
「…霞雅美の存在は教えなかったんですか?」
「言いましたよ。悪魔のごとき、守護者がアナタにいることを伝えましたが、効果はなかったようです」
「怖いもの知らずと言うより、本当に命知らずですね。余程、甘やかして育てたのでしょう」
「面目ないことです」
そこで深く息を吐いた。
車は街中を抜け、自然が溢れる山へと向かう。
「息子はボクが持つ、別荘の一つにいます。そこに人質達もいます」
「誘拐は誰が?」
「息子が雇った、その道のプロがです」
…プロという名前も、役職によっては悪いモノだな。
「それもあなた繋がりで?」
「ええ。ボクが海外へ出かけている時に、接触したようです」




