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「彼…ですか」


しかし霞雅美の表情は暗い。


「ん? 何よ」


「いえ…。彼にしてもお父様の方にしても、闇に近い所にいらっしゃる方なので…」


「…もし彼等に警察の捜査が入るんだったら、その前に回収すれば良いでしょう?」


彼等が購入した、アタシの作品を。


「作品だけ、なら簡単なんですけどねぇ」


「ああ…アタシのことか」


「正確にはお店のことも、ですが」


アタシの職人としてのことや、霞雅美の店は、警察が触れてはいいところではない。


もちろんそれは暗黙の約束として、警察の上層部は分かっているはずだ。


しかし今回のような別件から、世間に暴き出されるとたまったもんじゃない。


後からもみ消そうと、一度日の元へ出てしまうと、二度とは闇には戻れない。


それはお互い、望ましくないことだった。


「でも…そうですね。メリットを優先させましょう」


書類を封筒に入れながら、霞雅美は神妙な顔付きで呟いた。


「…彼等がアタシと接触してきたら、デメリットはアンタへ向かうもんね」


「はい、そうです。なので先にいろいろと手をうっておきましょう」


決して外部へ情報が洩れないように、霞雅美へ笑顔で奔走するのだろう。


…嫌な想像をしてしまった。


「そろそろお店を開けないと、お客様から問い合わせも殺到していることですしね。魅古都も仕事の準備はしといてくださいよ?」


「…分かったわ」


確かにそろそろ仕事がしたくなっていた。


あの精肉店で骨を回収した時から、アタシの職人としての腕が疼いてきていた。


…今までいろんなおかしな人に会ってきたけど、本当はアタシが一番まともじゃないんだな。


どんな事件が起ころうと、仕事への気持ちが全く揺るがないところが、それを裏付けていた。


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