顧客・事件の進展
それから数日後、ケータイに連絡が入った。
「おや、珍しい」
古い上客からだった。
『久し振りだね。元気にしていたか?』
「おかげさまで。ご無沙汰ですねぇ」
相手は五十を過ぎたとある会社の会長だ。
アタシが職人として活動を始めてすぐに、顧客となってくれた。
アタシの職人としての腕を買ってくれた人で、恩がある。
『ここしばらく店が開いていないから、心配してたんだよ。―例の失踪事件が関係しているのか?』
「まあ当たからず遠からずですね。ちょっと影響を受けていまして、アタシも作業をストップしています」
『そうか。警察も大分苦労しているみたいだな。どんなに厳重な包囲網を敷いても、次々と失踪者が出ているからな』
「おかげでこちらはあらぬ疑いをかけられそうで、苦労しています。なので今は依頼をお受けすることも、新客を向かえ入れることもできそうにないです」
彼からはかなりの新客を紹介された。
おかげで収入が良くはなったのだが…。
『では食事はどうかね? 久々に一緒に』
「それは霞雅美から止められていますので、残念ですがお断りします」
彼のように付き合いが長いと、一緒に食事をすることもある。
工房や住居を教えることは絶対にないが、外で会うことぐらいはサービスとしてやることがある。
『それは残念。キミの仕事の話を聞くのは、とても楽しいんだがね』
「ありがたいお言葉です。事件が解決次第、再びお誘いください」
『そうすることにするよ。―ところで顧客の数は増え続けているのか?』
「そう…ですね。まあ食うには困りませんよ」
『昔と比べて、客の質も変わったのではないか?』
「時代が変わったのだと思っていますよ。十年は長いですから」
『そうだな…』
何か妙だな。
長電話を好むような人ではなかったんだけど、さっきから話が伸びている。
「何かあったんですか? いつもと違う感じがします」
『…ああ、いや。実は昔の知人と会ってね。そこでキミのことを聞かれたんだよ』
「アタシのことを? それは…職人として、ですよね?」
『ああ』
まっ、だろうな。
彼とアタシの接点なんて、そこしかない。
しかし…。
「その人はアタシとあなたのことを、予め知っていたんでしょうか?」
『いや、それはない。ただ噂としてキミのことを聞いたらしい。それで私なら知っているのではないかと言われてね。誤魔化しはしたが執念深い男だから、ちょっと心配になったんだ』
「ん~。それってやっぱり、アタシを職人として必要としていることでしょうか?」
『だろうね。アイツも私と同じように、いい趣味をしているよ』
自虐的なコメントにも聞こえるが、確かにそうだと頷ける。
アタシの作ったモノを喜んで高額で買っていくんだから、本当にいい趣味をしている。
『アイツの執念深さを考えれば、そのうち誰かから紹介状を貰うのではないかと考えている。受ける・受けないはキミの勝手だろうが、気をつけるにこしたことはない。ヤツは気に入ったモノはどんな手を使っても、手に入れるタイプだからな』
「それは…困ったもんですね」
今のところ、アタシの所有者は霞雅美だ。
それが変わることになれば、一悶着どころの騒ぎではない。
『霞雅美もそれを心配して、キミの自由を奪っているんだろう。キミは少し、危機感が鈍いから』
「だっだってそんな狙われていると言われても、実感ないんですもん!」
『今まであった危険性は、全て霞雅美が潰してきたからね。それは分かっているだろう?』
「ううっ!」
痛いところをグッサリと…!
…これだから昔の知り合いって、厄介なんだ。
『今日電話したのは、そいつがキミに近付く可能性があることを忠告しておこうと思ってね』
「それはどうも…」
ズキズキと痛む胸を押さえながら、一応お礼は言う。
『あと…今から言うことは、できれば霞雅美に伝えてほしい』
「はあ…」
何で自分で連絡しないんだろう?
この人は霞雅美の連絡先も知っているはずなのに。
『…私は例の失踪事件に、ヤツが絡んでいると思っている』
「はい?」
いきなりな言葉に眼が丸くなる。
『さっきも言った通り、アイツは欲しいモノの為ならば手段を選ばん。キミの為に、事件を起こしていると思っている』
「ちょっ、待ってくださいよ! いきなり何を言い出すんですか! しかもアタシの為だとか、分からないですよ!」
『キミに関する情報は、霞雅美の方で重要に管理されている。しかし扱っているのが人間である場合、どこからか洩れ出す可能性は否定できない』
「そう…ですが」
それでも霞雅美の管轄で、起りうることだろうか?
一見は爽やかイケメンでも、中身はどこの悪魔だ?とツッコミを入れたくなるぐらい、計算高く、狡猾なのに。
『キミが作り出すモノ、そして周囲を調べれば、例の失踪事件も納得がいくはずだ。そこを調べるよう、霞雅美に伝えてくれ』
「…分かりました。でも何で直接霞雅美に言わないんですか?」
『私もろくな死に方はしないだろうが、それでもすぐに消えるわけにはいかないのでね』
電話の向こうで苦笑しながら言う。
…確かに、霞雅美の怒りは買いたくないものだ。
『彼の怒りは触れるだけでも恐ろしいものだ。その点、キミは彼に大事にされているからね』
「そりゃあ金の卵を産む、雌鳥ですから」
莫大な利益と人脈を生み出すアタシだからこそ、霞雅美は大事にする。
『ははっ。とにかく伝えることは頼んだぞ。私も事件解決を望んでいる』
「了解しました。ではまた」
『ああ』
そこで通話終了。
「はああ~」
しかし深く息を吐き、ケータイ電話のボタンを押す。
相手はもちろん、霞雅美だ。
『魅古都、どうかしました?』
「ん~。ちょっと話があるの。今、いい?」




