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情報・意外な繋がり

それから二日後、ようやく霞雅美がやって来た。


茶封筒の中の書類を確認しながら、説明してくれた。


「事件発生は今から約二ヶ月ほど前から始まっています。失踪者は現在七名。いずれも接点など全く無い他人同士です。共通点と言えば、魅古都が言った通り、容姿端麗の者達と言ったところでしょうね」


書類には失踪者の写真と、詳しいプロフィールなどが書かれていた。


「失踪した理由は本人達には無いにも等しいみたいです。それで連続失踪事件と名付けられた理由ですが…」


「県内で連続して起っているからでしょう?」


「ご存知でしたか?」


「ニュースでやってる」


「そうでしたか。その他にも、失踪時のことが関連しているみたいです」


「いなくなる時、何かあったの?」


「あった…と言いますか。怪しげな車が何台か発見されているんですよ」


霞雅美が言うには、窓に特殊なシートでも張っているのか、車内が見えないようにされた車が、失踪者の住んでいる地域で何度か見られているらしい。


しかしその車のナンバープレートを調べても、車は発見できないらしい。


「ナンバープレートまで細工されているってこと? ずいぶん手が込んでいること」


「そうですね。あと食生活では、全員お肉を食べられないことが共通点です」


アタシの書類を捲る手が止まった。


ゆっくりと霞雅美を見上げる。


「…ベジタリアンだってこと?」


「そういう人もいます。理由はさまざまですが、お肉を食べていなかったことだけは確かですね。まあ魚やきのこなども食べられたようですが…」


「問題はお肉を食べていなかった、というところよね」


書類をテーブルに置き、深く息を吐く。


「健康診断ではさぞ良い数値が出たでしょう。でもそうなると…ああ、でもなぁ」


頭を抱え、うんうん唸ってしまう。


「まあ血や臓器は綺麗でしょうね。最近ではタバコを吸う人も減ってきているみたいですから、肺もですね」


自ら入れたコーヒーを味わいながら、霞雅美は笑みを浮かべる。


怖くてイヤな笑みだ。


口に出さずとも、臓器売買のことを匂わせているんだから。


「でも臓器に関して言えば、こんな目立った攫い方はしないだろうって言ったじゃない」


「ですね。まあ可能性で言えばありってことで」


…それを言われると、例の精肉店や仕入れ業者のことも可能性としてはアリになるんだけど。


「中身も外見も良いだなんて…ああ、性格を抜かせば最高ね」


「そうですね。さぞ良い『人形』になるでしょう」


ぴくっと眼が動く。


心で感じるよりも、体の方が先に反応してしまう。


「…それ、嫌味? アタシの作る人形は、そういう『人形』とは違うわよ」


「分かっていますよ。失礼しました。そういう意味ではなかったのですが…」


途端に申し訳なさそうに謝るも、どこまで本気なんだか。


ふんっと鼻を鳴らし、アタシは再び書類に眼を通す。


「可能性としたら、何でもアリね。売られているっていう場合もあるけど…」


「どれもリスクがあまりに高過ぎるんですよね。それでいて警察も尻尾を掴めていないのですから、かなり面倒になりそうです」


「…ウチに影響は?」


「全く無い、とは言い難いですね」


霞雅美の琥珀色の眼に、真剣さが宿る。


「休業中で良かったですよ。今お店を開けていたら、警察が乗り込んでくるか、常連客が怪しんで尋ねて来るかのどちらかでしたから」


「それはコッチも同じよ。タイミングが良かったんだか、悪かったんだか」


いくら連続失踪事件には無関係とは言え、別件逮捕なんてされたらシャレにならない。


「―それで? 犯人の目星は?」


「残念ながら、掴めていません。逃げるのが早いんです」


「じゃあ失踪者が捕まっている場所も…」


「それも、ですね。何せ犯行はほとんど夕暮れ時に行われています。夜の闇に紛れてしまわれると、こちらも追跡が難しくなります。誘拐後、被害者達が全く発見されないことから、どこかに拉致・監禁されていることは確かなんですけどね。」


難しい顔をしているところを見ると、本当に分からないんだろう。


言わば八方塞がり。


警察だけではなく、霞雅美にまで分からないとなると、ちょっと…。


「魅古都」


「ん? 何?」


「この件から手を引きませんか?」


急に真面目な顔になったかと思ったら、いきなり何を言い出すんだか。


「別に犯人を見つけて、失踪者を解放しようなんて思ってないわよ。問題は何がアタシの中を騒がせているのか、だから。首を突っ込んではいないでしょう?」


それでも影響を受けているのだから、やっぱり勘は正しかった。


「あなたはいまいち自分の立場を理解していないみたいですね」


ため息をつきながら言われると、ムカつくんですけど。


「分かっているわよ。現代では貴重な職人、でしょう? アンタ達が失いたくない、あるいは傷付いてほしくないという気持ちは分かっているわよ」


特殊な職人ゆえに、アタシが生む利益は言葉では言い表せない。


商品は日本だけではなく、外国の金持ち達の間でも評判が良い。


商品を購入できるのは、社会的立場が高く、金銭的に裕福な者達だけだ。


アタシの作る品物のファンは多いし、霞雅美が心配する気持ちも分かる。


「だけど早く事件を何とかしなきゃ、動けないのはお互い様じゃないの?」


「それはそうですが…。できれば別の者に頼ってほしいんですが」


「だから今、アンタに頼っているじゃない。とにかく情報を集めて、解決してよ。じゃないと、次の仕事に移れないわ」


霞雅美だって、店を開けない。


お互いに痛手を被っているのは分かっているクセに。


「とにかく、心当たりを当たって。アタシはこの事件が終わらない限り、仕事は一切しないからね!」


止めの一発を放つと、霞雅美の表情が一瞬強張った。


しかしすぐに困り顔で、ため息を吐いた。


「はぁ…。分かりましたよ。魅古都はしばらく家から出ないようにしてくださいね」


「え~? ご飯は良いでしょう?」


バス亭の近くにあるコンビニや、自転車で二十分のスーパーにはしょっちゅう行っている。


「自炊してください。材料はこちらで用意しますから」


「ええっー!」


料理は…できないことはない。


一般的な家庭料理ならば、何とかなる。


でも作るのはめんどくさい。


食べるのは一瞬なのに、下ごしらえや片付けが面倒でならない。


だからこそ霞雅美の差し入れに、コンビニやスーパーの食品ですませてきたのに!


「横暴だっ! なら料理を差し入れてよ!」


「わたしは調査をしなければならないので無理です。それに他の者をあなたに近付けるのも、今は控えたいんです」


「う~! なら買い物に付き合ってよ」


カップ麺やレトルト食品、冷凍食品で何とかするしかない。


それが尽きたら、手料理だな。


「ふ~。分かりましたよ。買い出しにはわたしも同行しますから」


「やった♪ なら引きこもるわ」


食料が何とかなるなら、いくらでも引きこもれる。


まだプレイしていないゲームもあるし、撮りためした録画のアニメもある。


「家から出ることも控えてくださいね」


「それは良いけど…そんなにアタシが用心すること?」


「こういう事件が起きている時に、あわよくばと思う人もいるかもしれないでしょう?」


なるほど、それはあるかも。


今は霞雅美の所で厄介になっているも、基本はフリー。


別の所へ行くことだって…。


「くれぐれも、おかしなことは考えないでくださいね?」


れっ冷気を出しながら、微笑まないでほしい…。


「わっ分かっているわよ。アタシの作り出すモノは、霞雅美に合っていると思うわ」


「それは嬉しいですねぇ。末永いお付き合いを、お願いしますよ?」


「分かっているっ! 代わりに身の安全はお願いよ?」


「ご安心を。どんなことが起きても、あなたのことはお守りします」


自信ありげに言う霞雅美は、普通の女性ならばうっとりするほどの魅力を持つ。


けれどアタシの場合、背筋がゾッとした。


ときめく言葉の裏に、本気を感じ取ってしまったからだ。


「…じゃあ、調査の方、よろしくね」


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