第七話 ―2―
* * * *
「………そうか」
彼はそれだけ呟いて、立ち上がった。
私の傍らにある自販機から缶コーヒーを取り出すと、そのプルタブを起こした。
缶をあおると、彼の声は私に問う。
「…お前は、どうなんだ?」
「…え……?」
「そいつが嫌いか」
「え、あ、いや―――――…嫌い、じゃ…ないけど……」
私の返答を聞いてか、彼は小さく頷いた。
「それが、答えだろ」
無表情にそれだけ言うと、彼は空いた缶をゴミ箱へ投げ捨てた。
彼のその答えがなんだか納得いかなくて、私は唇をかんだ。
「ユウは―――――」
答えなんて初めから分かっていた。
ただ―――――聞きたかった。
言葉がほしかったんだと思う。
「ユウは、それで、いいの……?」
彼は黙っている。
わかってたけど、ね。
「―――――やっぱり、なんでもないっ」
自嘲気味に出た乾いた笑いをそのままに、私はゆっくりと立ち上がった。
期待なんて、するものじゃない。
そんなのわかってるのに。
「じゃ、そろそろ帰るね。傘、ありがと」
小さく手を振って、彼に背を向けた。
そのときだった。
「………待てよ」
足が前に進まない。
振り返れば彼が、私の袖を掴んでいたのだ。
「行くな」
彼の瞳は、まっすぐ私を見ている。
綺麗に澄んだ彼のそれから、私は目を逸らすことができない。
「……俺は、お前が………」
「…っ………」
胸の鼓動が、異常に早くなって。
口の中がからからに渇いてしまう。
ユウが言葉を次ごうとした、まさにそのときだった。
「いたいた、裕子ちゃん」
少し先の角から、私を呼ぶ声。
「こんなところにいたの。おばさん探しちゃったわよ。今日の晩ご飯なんだけど何が―――――って、あら…?」
おばさんだった。
私とユウとに見られて、おばさんは少し慌てた様子で笑う。
「お、お邪魔だったかしら。じゃあ裕子ちゃん、またあとでねっ」
そそくさとその場を後にするおばさん。
ふたたび二人きりになった待合室には、微妙な空気だけが残った。
「………ゆ、ユウ…?」
「…………」
結果として言葉を遮られた形になったユウは、それきり何にも言ってはくれなかった。
おばさん、間が悪いよ……。
* * * *
変わらないことなんてない。
物事は常に変わり続けて。
元通りになる事なんて、そうそうあるわけではない。
その夜、病院のナースコールが鳴った。
* * * *