第三話
* * * *
学校に通いながらも、私は相変わらず病院通いだった。
あと何度おじいちゃんの顔をみれるんだろう、なんて考えると思わず身体が震えてしまう。
『学生なんだから、たまには甘えなさい』
というおばさんのご好意で、最近はおばさんの家に居候中である。
色々やりくりに困っていた私にとって、このことはなによりも僥倖だった。
「ちょっと裕子ちゃん」
「あ、はーい」
部屋から料理から、全ておばさんが面倒をみてくれている。
……ちなみに今までは。面倒くささもあいまって安いコンビニのお弁当ばかりだった。
「呼びましたか?」
「今日の晩ご飯なんだけどね。肉じゃがでもいいかな、と思ってさ。どうかな?」
「ほんとですかっ! 私、肉じゃが大好きですよ!」
あたたかな団欒の時間は、やっぱり幸せだ。
ゆっくりと流れる時間に身を任せて、今日も一日が過ぎて行く。
幸せな時が、いつまでも続けばいいと思った。
* * * *
そんなこんなで、一週間が過ぎた。
学校帰りに病院に立ち寄り、花瓶の花を差し替えた。
おじいちゃんに挨拶をしてから、私はまた、中庭に足を向けていた。
「うわ、いた」
すると案の定、アイツがいた。
この前と同じベンチに一人、座っている。
なんとなく魔が差して、私は彼に声をかけた。
「こんにちは」
「…………」
声に反応してちらとこちらを見て、小さく呟いた。
「また、来たのか」
それだけ言うと、彼はそっぽを向いてしまった。
相変わらず、感じ悪いなぁ。
……頭の中ではそう思っていても。
こういう無口な人を見るとなんてゆーか…気になっちゃうんだよね。
母性本能をくすぐられるって言うかなんて言うか。
私は彼の隣に座り、息を吸い込んだ。
「ねぇ、キミ高校生だよね?」
「…………」
「もしかして近所の高校だったりするの?」
「…………」
「趣味とか、好きな物とかはっ?」
「…………」
溜めた空気を一気に吐き出すようにして、私は言葉を投げかける。
矢継ぎ早に繰り返される質問に彼は一度空咳をすると、小さくこう言った。
「いっぺんには、答えられない」
* * * *