第一話
* * * *
白くて白くて、真っ白くて。
隅々まで掃除が行き届いた部屋は、ほこり一つないくらいに綺麗だった。
「いつもすまんのう」
部屋の一番陽のあたるところに、ベッドがある。
そのベッドに横たわった老人は、部屋に入った私をみるなりそんな言葉を言った。
「はいはい」
私はいつも通りのその言葉に、思わずくすりと笑った。
季節は夏を過ぎて。
半袖ではすっかり肌寒くなってしまった。
……まぁ、それでも私は秋のが好きなんだけどね。
食べ物は美味しいし、たくさん食べれるし、甘い物もあるし……。
「裕子?」
名前を呼ばれ、はっとする。
どうやらすこし、ぼーっとしていたようだ。
「大丈夫だよ、おじいちゃん」
「そうかい」
にっこりと笑いかけると、こちらを覗き込んでいた心配そうな瞳もすぐに優しいそれに変わった。
「すっかり、秋だね」
呟くように言った言葉におじいちゃんは続ける。
「もう、そんなになるかい」
「そうみたい。寒くなってきたでしょ?」
私に両親はいない。
お母さんは事故でいなくなって。
お父さんも病気でいなくなった。
拠りどころのなかった私をただ一人、優しく迎えてくれたのがおじいちゃんだった。
小学生のころから高校生のいままで、、本当に色々お世話になった。
おじいちゃんの病気が見つかったのは、おととしの今頃だった。
「……そう、かい?」
「そうだよっ」
病気がどんなものかは、詳しく聞いていない。
というか、症状が深刻化している現状でさえ、詳しいことが分かっていないのだ。
だけど。
ただひとつだけ、はっきりと。
お医者さんは言ってくれた。
『あと半年ももったら、たいしたものです』。
その言葉を聞いたとき、私は決めたんだ。
この先何があっても、おじいちゃんに心配はかけない。
笑顔で、私ひとりでも大丈夫なんだって、言ってあげるんだ。
「―――――じゃあ、またくるね」
空気を入れ替え花瓶の花を新しい物にして、私は部屋を出た。
秋の風は冷たかった。
秋の花は寂しかった。
でも、それ以上に
どこか儚げで、綺麗だった。
* * * *