心臓は何処
「ただいま戻りました。国王。」
国王の寝室にて、アカンサスは跪き火山の国での事件を報告する。
「…ジルベル王が…襲われただと…。」
衝撃のあまり、国王は咳き込んでしまった。
近くにいたメイドや、アカンサスが立ち上がり、介抱をする。
次第に国王は落ち着きを取り戻し、もう大丈夫だといわんばかりに、手のひらで制した。
「…国王。我が国の“橙の心臓”も危ういのでは…?」
国王フェーユ13世はゆっくりと瞳を閉じ、そして静かに微笑んだ。
「…大丈夫だろう。あれは、確かな、安全な場所に隠しているはずだ。」
「…では、せめて。せめて、“橙の心臓”がどこにあるのかだけでも教えていただけませんと…我らも守りようがありません。」
「心配いらない。」
アカンサスには何故、王がここまで冷静なのかが、分からなかった。ジルベルが襲われたと言った時は、フェーユ13世も驚いている様子だった。
しかし、三種の神器の、橙の心臓には、全くの無関心。いや、安心しきった様子だ。
そして、アカンサスがこれ程までに、橙の心臓を心配する理由。
彼は一度たりとも、その心臓を見たことがなかったからだ。
確かにあるとはずっと聞いていた。
しかし、見たことがない。
アカンサスはどこにあるか分からない宝を守ることの難しさに頭を抱え、寝室から立ち去った。
「あの、アカンサスさん。」
扉を閉じると、そこに第二王子ローレルとメイドのサイプレスの姿があった。
先日の事件以降、ローレルの様子はどこかおかしいと、アカンサスは感じていた。
「さっきの、ジルベルさんが襲われたって、いったい…?」
「聞こえてましたか…。」
「それに、“橙の心臓”が狙われているって本当なんですか?」
ローレルはアカンサスに詰め寄る。
すると、
「本当だよ。」
答えたのは、アカンサスでも、サイプレスでも無く、浅黒い肌をした、橙色の髪の男だった。
「侵入者か?」
アカンサスとサイプレスは、すぐさまローレルを守るように立つ。
「その通りだよ。俺はアオチ。ツムジ部隊のアオチなんだよね。」
身の丈と同じくらいの槍のような得物。先には包丁がそのまま括り付けられているような刃。
片手で持っていたのを両手に持ち替えると、刃先を三人の背後の扉へ向けた。
「ねね、その部屋さ。国王の部屋なんだよね?じゃあさ、国王に聞けばいいんだよね?“橙の心臓”の在り処。」
得物をくるくると、威嚇するように回す。
「橙色の力は神の力だ。神の力は我らのもの。橙の心臓を返せ。」