何時かの未来
火山の国 王の自室
ジルベルはベッドから起き上がり、窓の側まで来ていた。
遥か遠くにある橙の園へと目を向ける。
実際に、ここから見えるわけではなかったが、じっとその方向を見つめていた。
戦っているだろう仲間たちに思いを馳せながら。
「国王様、風が身体に障ります…お戻りください。」
ベッド脇にある水差しの水を新しいものに変えるために部屋に訪れたテランはジルベルの身を案じる。
彼女は、アウルムが地上に戻る際、スウとともに同行した。
もちろん、ジルベルは三人が地下牢にいたことなど知らない。
スウとテランはメイドとして、城内で過ごしていた。
「…国王様に言われた通り、国際治安維持委員会へ言伝も送りました。橙の園にいるロシェ様も無事に帰還なさることと思います…。」
「そうだな…ありがとう。…俺は委員会を呼ぶことしかできなかった。駄目な王だな…。」
今回の一件で、ジルベルは早々に傷ついてしまい、何もすることができなかった。それを彼は嘆き落ち込んでいたのだ。
平和を愛する国王の姿を、テランは自分の心中にある女王の姿に重ねた。
前女王であり、ジルベルの実の母である彼女も、今のジルベルと同じく平和を愛し、とても心優しかった。
「もしも、この世界が争いのない平和な世界になることができるとしたら―――。」
もう誰も傷つかないのに…
ジルベルの赤い瞳から、一筋の光が静かに走った。
「…こんなにも荒れ果ててしまっては、みかんの民の復興は難しそうですね…。」
「ねぇ、ロシェ。色彩民族論を知ってる?」
簡易的に造られた医療所で治療を受けていたアウルムは、そうロシェに質問した。
「…あれですか?黒髪は劣等っていう…。」
「もう…!!私はそんなことを言いたいんじゃないの!!それに、その見解は間違いだって証明されたはずでしょう?」
自分の知っていることを話しただけなのにと、ロシェは肩をすくめた。
劣等と蔑視されることに、彼はもう慣れてしまっていた。
「かの有名な学者シラベ・ポーレンの見解よ。赤髪、緑髪、青髪。それぞれが三大国の民族の色であり、この三色が全ての原則である。しかし、稀に突然変異として、金髪や紫髪で生まれてくる場合もある。彼らは他民族よりも秀でた才能を持つことが多い…ジルベルがこの例ね。」
次々と本の内容を話すアウルムにロシェは呆れ半分に溜め息をついた。
「橙色の髪を持つ橙の民は他民族と比べて力が弱い。しかし彼らは豊かな感性を持ち、独自の術を編み出したらしい。―――私はこう思うわ。彼らは神の力に頼りすぎてしまったのよ。でも、彼ら自身の力を見出すことができたとき、彼らはもっと強い存在になるって。」
アウルムはそう言い、治療を受け委員会メンバーと話しているシナト、サラン、ソヨの三人を優しげに見つめた。
「私はあの子たちを応援するわ。皆が笑って暮らせる世界が見たいもの…橙の民も一緒に笑い合える日がきっとくるわよ。」
いつになるか分からないけどね。
アウルムはそう告げたし微笑んだ。
ロシェは面食らった顔をしたが、彼女の言葉に答えるように静かに微笑み返したのだった。




